歴史時代小説を読む/第25回
雨宮由希夫の歴史時代小説を読む/第25回
書 名 『維新 岩倉具視外伝』
著 者 堀 和久
発行所 幻戯書房
発行年月日 2010年2月1日
定 価 本体1,900円+税
明治維新は鎌倉以来連綿と続いた武家社会に終止符を打った政治運動であるが、
それとともに、平安以来の朝廷の伝統である摂関制度を終焉させた変革であっ
た。しかも、信じ難いことに、和宮降嫁で失脚し、昨日、赦免されたばかりの岩
倉具視(1825〜83)が翌日には衣冠束帯に身を正してあらわれ、幕府と朝
廷の政治組織の解体を上奏していることである。
岩倉具視は下級の公家であった。公家社会は信じがたいほどの閉鎖社会であり、
どれほど才能才覚があっても、下級の公家が出世する道は限られていたが、にも
かかわらず、なぜ岩倉は閉鎖社会から躍り出て、公武の旧政治体制の廃止を宣言
するという離れ技をやってのけることが出来たのか。
歴史時代小説を読む/第24回
雨宮由希夫の歴史時代小説を読む/第24回
書 名 『花や散るらん』
著 者 葉室 麟
発 売 文藝春秋
発行年月日 2009年11月15日
定 価 本体1500円+税
葉室 麟は1951年、北九州市小倉の生まれ。2004年デビュー作『乾山
晩愁』で第29回歴史文学賞を受賞し、以後、一貫して歴史・時代小説を書い
ている。
「忠臣蔵」は歴史小説家の看板を掲げる限り避けられないテーマであるらし
い。「忠臣蔵」については事件発生このかた300年間、書き尽くされたよう
でいて、これはもう動かしがたいという決定的なものがない、とされる。「忠
臣蔵」についてわかっていることは、以下の史実のみである。
〈元禄14年(1701)3月14日。赤穂藩主・浅野内匠頭長矩(たくみの
かみながのり)が勅使下向の殿中において、吉良上野介義央に刃傷に及び、即
日切腹を命じられる。大石内蔵助良雄ら赤穂浪士四十七士が主君の仇・吉良上
野介の邸に討入ったのは元禄15年(1702)12月14日のことであっ
た。〉
「刃傷の原因」、「討ち入りの目的」、「大石良雄の資質がどうであったか」
は主たる争点であり、これらを組み合わせれば、“さまざまなる忠臣蔵”が可
能となろう。
歴史時代小説を読む/第23回
雨宮由希夫の歴史時代小説を読む/第23回
書 名『月華の銀橋——勘定奉行と御用儒者』
著 者 名 高任 和夫
発 売 講談社
発行年月日 2009年11月5日
定 価 本体1800円(税別)
徳川5代将軍綱吉といえば、生類哀れみの令や側用人柳沢吉保の重用などで評判の悪い将軍であり、綱吉と吉保のコンビから、私たちは華やかな“元禄”を、そして“赤穂浪士の討入り”を思い浮かべるであろうが、本書『月華の銀橋——勘定奉行と御用儒者』は綱吉の信任を得て、貨幣改革に取り組み、幕府の財政を立て直すことに奔走した勘定奉行・荻原重秀(1658〜1713)を主人公とし、綱吉が逝去するや、6代将軍家宣の将軍侍講(政治顧問)として権勢を振い、重秀を「有史以来の奸物」「極悪人」と弾劾し罷免させた御用儒者・新井白石(1657〜1725)をもう一人の主人公とした歴史小説である。
歴史時代小説を読む/第22回
雨宮由希夫の歴史時代小説を読む/第22回
書 名 『葛野盛衰記』
著 者 森谷明子
発 売 講談社
発行年月日 2009年10月27日
定 価 本体1900円(税別)
日本の古代宮都は平城京から長岡京、長岡京から平安京へと、桓武天皇(737〜806)の時代に、北へ北へと遷都された。中国的な皇帝像を理想としたとされる桓武天皇による2度の遷都造営には巨大な国費と厖大な労働力が必要とされた。
長岡京はかつて“幻の都”といわれ、その実在を疑う向きもあったが、昭和30年からの十数回にわたる発掘調査で、平安京に優るとも劣らない都城であったことが判明している。なぜ長岡京はわずか10年の束の間の都でしかなかったのか。
今日、京都市の東西を、東の鴨川と西の桂川の、二つの川が流れている。賀茂川ともいう鴨川はふるくから鴨川であるが、桂川に関しては、京都盆地流入以南の桂川を、古代人は葛野川(かどのがわ)と呼んでいた。長岡京は葛野川の下流の乙訓(おとくに)郡長岡村に、平安京は葛野川の上流の葛野郡宇太村にそれぞれ造営された。
古代、「葛野」と呼ばれていた桂川流域の平野は京都盆地最古の、しかも最高の豊穣の地であった。本書『葛野盛衰記』の「葛野」は“古代京都”の意味である。
歴史時代小説を読む/第21回
雨宮由希夫の歴史時代小説を読む/第21回
書 名『江戸・東京百景 広重と歩く』
著 者 名 大久保博則 安田就視
写 真 家 安田就視
発 売 角川グループパブリッシング
発行年月日 2009年11月25日
定 価 本体1280円+税
広重の絵『名所江戸百景』119景と、絵の描かれた場所で撮った写真「平成の東京百景」119葉が左右に並べられて配置され、鑑賞できる。カメラマンの安田就視氏は「情緒がなくなりつつある東京の風景を広重の心になって美しく残しておきたい」と思い、シャッターを切っている。しかも、10年もの歳月をかけて。広重の絵と安田氏(以下、Y氏と表記)の写真を比較しながら、読者は“広重気分”で江戸と東京の時空を思うがままに往還できる本のつくりとなっている。
本書の巻頭を飾るのは《日本橋雪晴》。「日本橋」は広重の頃とは思いもよらないほど変り果ててしまったものの代表格である。
雨宮由希夫
2006年まで三省堂書店に勤める。神田本店(現・神保町本店)にては新刊書・人文書の仕入れ販売に従事、かつ、作家や将棋棋士などのサイン会を盛んに催した。北方謙三、浅田次郎、柳美里、塚本青史、谷川浩司、羽生善治の各氏とも交流が深い。特に、柳美里さんサイン会中止事件の際の毅然とした行動はあまねく知られ、「90年代の神保町の名物店長」といわれている。三省堂書店退社後は大学出版社勤務の傍ら、主に歴史時代小説の書評などの執筆を続けている。中国古代・近代をふくめ、源平から幕末維新まではむろんのこと、明治大正期までを背景とした歴史時代小説 の中に、歴史の真実 とそこに生きた人々の息吹きを嗅ぎとることを評論の要とする手法に特色がある。













