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集広舍コラム

Archive for August 2009


北京の胡同から/第17回

民間が保護に奔走「梁思成・林徽因故居」

7月11日付の『新京報』に、心の痛む記事が掲載された。北総布胡同24号(番地)にある梁思成と林徽因の故居の一部が、再開発のために取り壊されつつある、というのだ。梁思成といえば、拙訳の『北京再造――古都北京の命運と建築家梁思成』にも登場する、著名な都市計画学者、建築学者、そして建築家だ。都市計画をめぐるその志の多くは実現されなかったものの、古都北京の文化財保護のために奔走し、その卓越した学識は世界でも認められていた。

バウルの便り/第8回

インド西ベンガルの村からバウルの便り

 雨が降り出しました。乾燥し強張っていた大地は水を含みしなやかさを取り戻し、土埃を被っていた木々たちは緑の色美しく洗われ、沐浴後のように緊張をほぐし麗しげに見えます。そして枝枝を天に向けてぐうっと背伸びをしています。雨季の始まりです。新しい枝が、新しい葉が、次から次へと生まれ、ぐんぐん育ち鬱蒼と生い茂っていきます。庭を歩けばハイビスカスの花が肩を突き衣服を濡らします。田植えも始まりました。水田は水を湛えています。この時期の夕暮れの雲は、晴れていれば淡いパステルカラーの黄色、水色、ピンク、菫色に層を成し染められていきます。そして,まるで遊び疲れた子供が家に戻るように大地から姿を隠して行く太陽は、華奢な光を留別の挨拶のように投げかけ、池や水田の水面を輝かせます。
 過酷だった炎暑が終わり、人々も一息つきます。眠れない夜は去りました。とはいえ、自然は快適さばかりを与えてはくれません。今度はじめじめした不快な蒸し暑さが続きます。  こういう暑い時、こちらではタマリンドの豆ざやを使って酸味のある料理を作ります。食欲が増し、身体にも良いそうです。このタマリンドの木は小さい無数の葉をつけますが、それにまつわるこんなお話を師から聞いたことがあります。

歴史時代小説を読む/第13回

雨宮由希夫の歴史時代小説を読む/第13回

書 名  『寂しい写楽』
著者名   宇江佐真理
発 売 小学館
発行年月日 2009年7月1日
定 価   ¥1500E
寛政6年(1794)2月に入ったある日、喜多川歌麿を育てたことでも有名な版元・蔦屋重三郎は日本橋の自分の店・耕書堂に伝蔵(京伝)、鉄蔵(のちの北斎)、幾五郎(のちの十返捨一九)を呼び、手にしたユニークな役者絵を示しつつ、頭を下げる。「是非とも皆様のお力添えをいただきたい」と。
 背景が黒雲母摺りの役者似顔絵大首絵28枚連作を絵師1人で何もかもやるのはやはり無理で、板下絵に背景を加えたり、着物の柄を書いたりする助っ人が必要であった。黙り込む3人に対し、重三郎はなお言葉をつなぐ。
「本人は素性をあかしてくれるなと釘を刺しておりましたが東洲斎写楽と申します。絵師ではございません。本業は能役者で斉藤十郎兵衛という男です」。
「いずれにしても、俺たちは写楽の影武者を仰せつかったことになるのか。ここは黙って蔦重(蔦屋重三郎の通称)に協力しようじゃないか」伝蔵の言葉に鉄蔵と幾五郎は頷いた。北斎(鉄蔵)らは、「今まで眼にしたことのない役者絵を出すのだと意気に感じ、蔦屋の台所でああでもない、こうでもないと思いをめぐらせて役者絵を仕立てあげることになる」。

中国知識人群像/第7回

1989‐2009

『チャイナ・クライシス重要文献』

 4月の中旬から読み始め、7月の後半になってようやく読み終えた本を、今あらためて手に取っている。勢いにまかせて読めば3カ月もかからなかったのだが、はやる気持ちを抑えながらかみしめるように読み進めたのには理由があった。
数年ぶりに書棚から取り出してこの数カ月間手元に置いたのは、矢吹晋編訳『チャイナ・クライシス重要文献』(蒼蒼社、1989年)の全3巻だ。ここでの「クライシス」(危機)とはつまり1989年の天安門事件のことで、当時の新聞や雑誌の記事、壁新聞、ビラ、自主出版物、公開書簡など数多くの資料が翻訳掲載されている。膨大な資料を蒐集・整理・編集・翻訳し、事件からわずか数カ月という驚くべき速さで出版された文献集は、編者の言葉にあるようにまさに「血で書かれた資料」だ。当時の民主化運動を知るためには、欠くことのできない重要史料だといえる。第1巻は1986年末の胡耀邦総書記失脚に関する資料から始まり、胡耀邦追悼が民主化要求運動へと発展した1989年4月中旬から、時間を追って運動の詳細と当局の対応を克明に描き出している。