今回は、私が現在住んでいるスペインにおける社会的経済の状況についてご紹介したいと思います。ヨーロッパの中ではスペインは、フランスやイタリアなどと並んで社会的経済が活発な国で、研究も盛んに行われていますが、その中でも特徴的な事例についていくつかご紹介したいと思います。

 スペインの社会的経済を理解する上で大切な点としては、スペインという国の多様性と地方分権です。フランスは中央集権的な国で生活のさまざまな面でパリの中央政府と関わることになりますが、現在の統一国家ができる前にはいくつもの王国が存在していたこともあり、スペインは言語や風習などの面で多様な国ですが、スペイン語以外の地元言語(カタルーニャ語(バレンシア州ではバレンシア語)、バスク語、ガリシア語)が存在している地域では、これらのことばもスペイン語と並んで公用語となっているほか、現在のスペイン憲法では国内に存在する17州の政府に大幅な自治権が認められています。このため、たとえば協同組合法についても、スペイン法の他に15州で州法が存在し、ある特定の州内で主に活動を行う協同組合に対しては州法が適用されることになります。

スペインの言語的多様性

▲スペインの言語的多様性

 また、スペインの社会的経済について語る際に忘れてはならないのは、2011年3月に成立した社会的経済法(原文(スペイン語)英語訳日本語抄訳)です。全9条と非常に短い法律ではありますが、この法律の意義としては何よりも、一部の当事者間でのみ知られていた社会的経済という概念に法的根拠が与えられたことが挙げられるでしょう。同法第2条では社会的経済が「構成員への全体利益に加えて経済的利益一般、あるいはその両方を追求する一連の経済・企業活動」と定義され、第4条では以下の4原則が規定されています。

  • 資本よりも人間および社会的目的が優越。これは、各個人の出資額よりも個人が団体に対して提供する職務および労働貢献、あるいは社会的目的が意思決定においてより重要視される、透明で民主的そして参加型の自主運営で具現化される。
  • 原則として団体の社会的目的に向けて組合員あるいは会員が実施した業務あるいは活動に応じた、経済活動の成果の配分。
  • 内部連帯、地域発展への取り組みを推奨する団体との連帯、男女機会平等、社会的紐帯、社会的疎外の危機にある個人の包摂、安定して良質の雇用の創造、個人生活・家族生活・業務生活および持続可能性との調和の推進。
  • 行政からの独立。

 具体的には協同組合、共済組合、財団および非営利団体に加え、労働者持株会社(スペイン独自の制度で、労働者が株の過半数を所有している企業。実質上労働者協同組合と同じことから、社会的経済の一員と認定)、包摂企業、雇用センター、漁業組合および農業組合が社会的経済の団体として認定されますが(第5条第1項)、これ以外の団体でも前述の4原則を守っている団体であれば社会的経済の担い手と認定されます。また、業界団体としては社会的経済スペイン企業連合(CEPES)が存在し、社会的経済を推進するための各種活動(ロビー活動を含む)を行っています。

 スペインにおける社会的経済の担い手というと、何よりも有名なのがバスク州に本拠を構えるモンドラゴン協同組合(バスク語・スペイン語、英語など、簡単な日本語版も存在)でしょう。1956年にホセ・マリア・アリスメンディアリエタ神父がバスク州モンドラゴン市で5名の若者とともにウルゴルという名前の白物家電製品の生産協同組合を発足しますが(現在ではファゴルという名前になっている)、その後さまざまな分野に進出して今では一大協同組合グループとなっています。主な事業としては労働金庫(カハ・ラボラル、1959年設立、最近イパル・クッチャと合併してラボラル・クッチャへと名称を変更)保険組合ラグン・アロ(1966年成立)消費者生協エロスキ(1969年設立)、そしてモンドラゴン大学(1997年設立)などが挙げられ、グループ全体では8万3569人の雇用を生み出し、324.54億ユーロ(約4兆2478億円)の総資産、そして148.32億ユーロ(約1兆9413億円)もの年間総収入を得ています。日本語でもモンドラゴン協同組合に関する本が何冊か刊行されていますので、機会がありましたらぜひご覧になるとよいでしょう。

モンドラゴングループのホームページ(日本語版)

▲モンドラゴングループのホームページ(日本語版)

 モンドラゴングループ以外の協同組合の中で興味深い事例としては、バレンシア州発祥の消費者生協コンスム(スペイン語・バレンシア語)が挙げられます。1975年にバレンシア市近郊のアラクアス市で生まれたこの消費者生協は、その後数多くの消費者生協と合併したり、経営難に陥った中小スーパーチェーンも取り込んだりすることで成長を続けます。1990年から2004年にかけては前述のエロスキと提携関係を結んで事業の改善にいそしみましたが、その後経営方針の違いから提携は解消されています。2013年6月現在ではスペイン6州に607店舗(そのうち397店舗はバレンシア州内)を構えており、2011年現在では約1万人の従業員を抱え、付加価値税(日本の消費税に相当)抜きで17億5450万ユーロ(約2296億円)もの売上を記録するまでに成長しています。

 エロスキやコンスムと比べるとはるかに小さな規模にはなりますが、この他にもいくつか興味深い消費者協同組合の事例が存在します。その中でも大切なものとしては、1968年に創設されカタルーニャに本拠地を構えるアバクス(スペイン語・カタルーニャ語)で、学用品の共同購入生協としてカタルーニャ州とバレンシア州に37店舗を構えており、2011年には9458万ユーロ(約124億円)もの売上を記録しており、73万人近い組合員を擁しています。また、バルセロナ市内で1989年に開業した協同組合病院シアス(スペイン語・カタルーニャ語)も重要な存在で、16万5000人の会員を抱え、6298万ユーロ(約82億円)の売上を記録しています。

 また、スペインのもう1つの特徴として、金融機関の構成がかなり違うことが挙げられます。日本では金融機関というと普通銀行(都市銀行や地方銀行など)と協同組織金融機関(JAバンクや信用組合、労働金庫など)に大別されますが、スペインでは普通銀行、貯蓄金庫そして信用組合の3種類に分類することができます。

  • 普通銀行: 日本の銀行と同様、法人としては株式会社であり、当然ながら利益は株主に配分する。サンタンデルやビルバオ・ビスカヤ銀行(BBVA)などが有名で、大手銀行は最近国外進出を積極的に行っている。
  • 貯蓄金庫(カハ・デ・アオーロ): 最近法制度の改革が行われ、現在では銀行業務を行う財団という法人格。通常の銀行と同様の金融業務を行うが、あくまでも地方銀行同様に地元の中小企業への融資を主に行う。財団であることから利益の配分が認められておらず(それ以前にそもそも株主が存在しない)、利益は社会的事業(オブラ・ソシアル)という形で社会に還元することが義務付けられている。代表的なものとしてはラ・カイシャ(本拠バルセロナ)や経営難で国営化されたバンキア(カハ・デ・マドリードとバンカハが合併して誕生、本拠マドリード)などが有名。
  • 信用組合: 法的には金融業を行う協同組合。前述のモンドラゴン系金融機関ラボラル・クッチャに加え、特にスペイン南部に地盤を構えるカハマルや各地の農村金庫など。

 この中で社会的経済の一員として認められるのは信用組合だけですが、その理由としてはあくまでも組合員による組合員のための金融機関であることが挙げられます。貯蓄金庫については創設時より財団という性格が強く、一般預金者の経営参加は見られず、さらに地元州政府の経営への参加が認められていることからどうしても地方政治との癒着が見られる傾向にありますが、信用組合の場合には貯蓄金庫以上に地元および利用者と密着した業務が行われ、その創設理由自体も金融業務を通じた組合員の相互扶助にあることから、社会的経済の一員とみなすことができるのです。

 次回は、このような伝統的な社会的経済の枠組みを越えて新しく生まれつつあるスペインの連帯経済の事例についていくつかご紹介したいと思います。