さて、今回は趣を変えて、語学という観点から世界の社会的連帯経済を概観してみることにしたいと思います。

 言うまでもなく社会的連帯経済の分野でも、英語は非常に重要な言語です。しかし、社会的経済が伝統的にフランス語圏で盛んに研究・実践活動が行われ、さらに連帯経済が中南米で勃興していることから、スペイン語やポルトガル語(ブラジル)もこの分野においては欠かせない言語となっています。

 日本にいるとフランス語はそれほど重要なことばではありませんが、世界的に見ると今でも英語に次ぐ重要度を保っています。フランス語はフランス本国のみならず、ベルギー(ワロン地域)、スイス(西部)やカナダ(ケベック州)の一部でも日常的に使われており、欧州の小国ルクセンブルク(RIPESS欧州の本拠地)でも公用語として幅広く使われています。また、アフリカ大陸でも幅広い地域で現在でも公用語としてフランス語は使われており(北アフリカ諸国は以下の地図では水色になっているが、実際には高学歴層を中心にフランス語が広く通じる)、特に最近はアフリカのフランス語圏諸国で社会的連帯経済への関心が高まっていることから、社会的連帯経済運動におけるフランス語の重要性は高まっていると言えます。さらに、イタリアやスペイン、そして中南米でもフランス語を学ぶ人は少なくなく、英語は通じないけどフランス語なら通じる場合もあります。

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▲世界のフランス語圏

 スペイン語とポルトガル語についてですが、この両者は非常に似ており、特に連帯経済関係の会議では実質上1つの言語として扱われることも少なくありません。この場合、スペイン語の通訳をブラジル人が聞いて理解して、ブラジル人がポルトガル語で発言した内容を通訳が英語やフランス語に通訳することになります(スペイン語圏の人は通訳なしでポルトガル語を理解可能)。以下、どれだけ似ているか1例を示したいと思います。

例文:「連帯経済は、『もう一つの世界は可能だ』という世界社会フォーラムのスローガンを経済分野で実現しています」
 
スペイン語
La economía solidaria está logrando “Un otro mundo es posible”, el eslogan del Foro Social Mundial.(ラ・エコノミーア・ソリダリア・エスタ・ログランド・ウン・オトロ・ムンド・エス・ポシブレ、エル・エスローガン・デル・フォーロ・ソシアル・ムンディアル)
 
ブラジル・ポルトガル語
A economia solidária está atingindo “Um outro mundo é possível”, o lema do Fórum Social Mundial.(ア・エコノミーア・ソリダリア・エスタ・アチンジンド・ウン・オートロ・ムンド・エー・ポシーヴェウ、オ・レーマ・ド・フォールン・ソシアル・ムンヂアル)

 スペイン語はスペイン本国の他、ブラジル以外の中南米諸国の大部分(メキシコ、キューバ、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチンなど)などで使われており、また最近では米国でも中南米系住民の増加により、スペイン語を使う機会が増えています。ポルトガル語はブラジルとポルトガルの他にも、旧ポルトガル領のアフリカ諸国(アンゴラやモザンビークなど)でも使われています。そして日本国内でも、在日ブラジル人やペルー人などを中心として、スペイン語やポルトガル語を使う人たちがかなり住んでいます。なお、ブラジルとポルトガルのポルトガル語との間にはかなりの違いがありますが、連帯経済分野ではブラジルの存在が圧倒的であり、日本国内のポルトガル語の教科書もほぼ全てがブラジルのポルトガル語を対象としていることもあり、ポルトガル本国を研究対象としない限りはブラジルのポルトガル語だけを勉強すれば十分です。

Spanish Portuguese

▲世界のスペイン語圏(黄色)とポルトガル語圏(青)

 英語と比べると、これらラテン系言語には男性名詞や女性名詞があり(ドイツ語と違って中性名詞はない)、また動詞の活用が複雑ですので、これら言語を勉強する場合にはこの点に特に注意する必要があります。また、フランス語は発音もかなり複雑ですので、この点も努力が必要です(スペイン語やポルトガル語、特にスペイン語は発音は簡単)。

 この他に日本で比較的広く学ばれている外国語というと、ドイツ語、イタリア語そしてロシア語が挙げられますが、社会的連帯経済の分野ではフランス語やスペイン語・ポルトガル語と比べると重要度が落ちます。ドイツ語圏は社会的連帯経済よりも環境保護分野に対する関心が高く、社会的連帯経済関連の会議でもドイツ語圏からの参加者はそれほど多くありません。イタリアも社会的連帯経済においては重要な国ですが、フランス語やスペイン語・ポルトガル語と違ってイタリア語圏がほぼイタリア国内に限られることから、イタリアの事例を研究対象にしない限りはイタリア語はそれほど必要ありません(スペイン語やフランス語ができたら、イタリア語もなんとなく理解できてしまうという事情もある)。また、ロシア語圏=旧ソ連では社会的連帯経済がほとんど知られていないこともあり、現在のところロシア語はこの分野ではほとんど必要されていないと言えます。

 アジアで社会的連帯経済の運動が盛んな国としては、フィリピンやマレーシア、インドネシアや韓国などが挙げられますが、国際会議においては英語が共通語として使われています。もちろん各国の事例調査を行う場合には現地語(タガログ語やマレー語、インドネシア語や韓国語など)が必要となりますが、東南アジア諸国の連帯経済に関しては英語での情報が豊富にありますので、何はともあれ英語を習得し、特定の国に深く関わる場合にその国のことばを勉強することになります。なお、マレー語とインドネシア語は非常に似ているため、片方を覚えるともう片方の理解が非常に容易になります(スペイン語とポルトガル語の関係に似ている)。

 また、韓国については社会的企業や協同組合などの分野でここ数年発展が目覚しく、さらに韓国語が日本語に似ていることもあるため、韓国語も勉強しておいて損のない言語だと言えます。韓国語と日本語の間では機械翻訳もかなり正確な水準に達しており(たとえばこちら)、これを活用することで韓国語のサイトを日本語で読んだり、韓国人との間でメールのやり取りをしたりすることができますが、ハングルのみで表記される韓国語はどうしても同音異義語が多くなり(「景気」、「競技」そして「京畿」は全て경기)、機械翻訳ではどうしても誤訳が避けられないため、やはり韓国語の学習が欠かせないと言えます。

 日本では英語が苦手な人が多いため、語学=特殊技能という感覚が強いと言えますが、語学学習は基本的に以下の5つの分野での学習の積み重ねということができます。

  1. 聴解(リスニング): インターネットを活用して各国語のニュース放送を視聴する。例:アルジャジーラ(英語)France 24(フランス語)TVE 24 horas(スペイン語・スペイン)TELESUR(スペイン語・中南米)TV Brasil(ポルトガル語、ブラジル)YTN Radio(韓国語、ラジオ)など。
  2. 読解(リーディング): とにかく社会的連帯経済関係の記事に目を通し、わからない単語を徹底的に調べる。最初は大変だが、基本的に同じ専門用語が繰り返し使われるので、そのうち慣れる。英語であれば Asahi Weekly(朝日新聞社)あるいは週刊ST(ジャパンタイムズ社)を活用すると読解力や語学力が高まる。
  3. 会話(スピーキング): 海外の会議や視察などでは、とにかく喋ってなんぼのもの。NHKラジオの語学講座を活用するとお金を使わなくても会話力がつく。
  4. 文章表現(ライティング): 日本人の場合、英語の文章を書く場合にも日本語のクセがどうしても抜けず、英語としては読みにくい文章になる傾向があるので、とにかくネイティブの書く文章を音読して、英語の文章構成を頭に叩き込む。
  5. 単語力(ボキャブラリ): 日常会話に加え、社会的連帯経済関連の単語力が必要。とはいえ、社会的連帯経済ではそれほど専門用語は多くないため、一般的な単語力があればそれほど心配はない。

 このため、英語であれスペイン語であれ韓国語であれ、語学を勉強する上では、上記の5つの能力をバランスよく高めるためのプログラムを自分で作って、それを毎日実践する必要があります。1日1時間語学学習に充てて、生の英語などに接するようにすると、数ヵ月もすれば英語の苦手意識はなくなり、1年ほど頑張れば国際会議に参加できる程度の英語力はつくようになることでしょう。