新年明けましておめでとうございます。今年もこの連載をよろしくお願い申し上げます。

 さて、ここまでは主に諸外国における社会的連帯経済の歴史や事例ばかり紹介してきましたが、今回は日本国内における社会的連帯経済について検討してみたいと思います。

 意外に思われる人も多いかもしれませんが、協同組合運動という点ではむしろ現在よりも戦前のほうが進んでいました。1900年に産業組合法という法律が制定され、この法律の下で現在の農協、消費者生協、信用金庫および信用組合の前身となる団体が数多く生まれました。しかし、戦局が厳しくなるにつれ国家総動員体制が強化されると、各種協同組合もその流れに否応なく巻き込まれ、当時の社会体制を担うべく法制度が改訂され、さらに分野別に別々の省庁が管轄する法制度下に置かれることになりました。戦後になってもこの制度は続き、農協、漁協、消費者生協、商店街信用金庫や労働金庫といった分野別の法律はあっても、協同組合部門全体を包括する法制度はありません(参考資料)。また、労働者協同組合(ワーカーズ・コープ:詳細はこちらで)についてはそもそも管轄法が存在しないため、実践者はNPOや社団法人など別の法人格を取得して運営しています。

 しかし、法制度面での遅れは、必ずしも日本国内における実践の遅れを意味しているものではありません。実際、特に消費者協同組合の分野では日本は世界でも冠たる存在であり、韓国や台湾といった他のアジア諸国のみならず、欧米諸国からも注目を浴び続けています。日本生活協同組合連合会のサイトによると、2012年度には3兆3199億円の売上高を記録しており、小売部門において2.71%のシェアを占めています(ソース)。また、あまり知られていませんが全国各地に100以上の医療生協が存在し、283万5000人の会員に対してさまざまな医療や福祉サービスを提供しており、2012年度には3191億円の総事業高を達成しています。

 また、特に1995年に発生した阪神淡路大震災をきっかけとして非営利団体(NPO)に対する関心が高まり、1998年に制定された特定非営利活動促進法により、福祉や環境などの分野でNPO法人を設立することができるようになりました。2013年7月末においては4万7548団体が認証され、そのうち492団体については認定を受けています(ソース)。なお、NPOという略語は日本や韓国、台湾などで主に使われる表現であり、英語圏諸国、特に米国ではnon-profitという表現が一般的です。

 この他、地域通貨や倫理銀行(日本国内ではNPOバンクという表現が使われる)についても、日本国内には数多くの事例があります。地域通貨については、時間預託制度(高齢者への介護など)が1990年代まで全国各地で実践され、「ふれあい切符」という名称で欧米諸国でも幅広く知られるようになりましたが、介護保険の導入により現在ではかなり下火になっています。NHKのBSドキュメンタリー「エンデの遺言」(1999年放送)をきっかけとして2000年代前半(2003年頃まで)地域通貨ブームが巻き起こり、600を超える事例(準備中も含む: 2011年現在。ソース)が生まれたのですが、ブームが去るとともにその多くが活動を停止しています。また、NPOバンクについては12ほど事例が存在しており、預金総額が5億8650万円で、これまでに27億円以上の融資実績があります(ソース)。

 また、日本国内においては連帯経済は、主にアジア太平洋資料センター(PARC)によって紹介されており、特に2009年11月には同センターが主催する形で第2回アジア連帯経済フォーラムが東京で開催され、今年(2014年)には東アジアレベルでのイベントが開催される予定です。また、社会的連帯経済の研究を行っている国際公共経済学会(CIRIEC)日本にも支部が存在しています。

東京で開催された第2回アジア連帯経済フォーラム(2009年11月)

▲東京で開催された第2回アジア連帯経済フォーラム(2009年11月)

 諸外国の類似の事例と比べた場合に、日本の社会的連帯経済においてはいくつかの特徴があると言えます。

  1. 基本的に中流階層の運動であること。途上国のみならず先進国でも、社会的連帯経済の取り組みの中には貧困層の社会的包摂が含まれていますが、日本国内ではそのような事例はそれほど多くありません(障害者の社会的包摂は多いが)。
  2. 食と社会福祉が中心になっていること。消費者生協は、特に1960年代から70年代にかけて食品の安全が問題になるにつれて発展し、また高齢者の人口が増えるにつれ社会福祉、特に老人介護の分野でさまざまな事例が増えています。
  3. 社会的連帯経済としての枠組みが弱いこと。日本でも一部の研究者や団体などによって社会的連帯経済という概念が紹介されていますが、日本社会全体において幅広く受け入れられているというには程遠い状態です。

 また、社会的連帯経済が盛んなラテン諸国などと日本との間の文化的違いについても考慮する必要があります。ラテン諸国は宗教的には主にカトリックであり、その教義を基盤としたヒューマニズムの観点から社会的連帯の取り組みが数多く生まれたのに対し、神道や仏教が支配的な日本ではそのようなヒューマニズムはありません。神道については、万葉集で柿本人麻呂が日本のことを「神ながら事挙げせぬ国」(万葉集:3253)と定義しているように、そもそも教義が存在しません。また、仏教は因果応報論が基盤となっており、他人への善行はあくまでも最終的に自分自身への利益を基にしているため、完全な意味での利他主義やヒューマニズムとは異なります。宗教や道徳の面から社会的連帯経済を推進する人が多いラテン諸国と比べて、そのような基盤の弱い日本社会では、別の形での推進力が求められていると言えるでしょう。

 さらに、日本社会には独特の同調圧力があります。ここ10年ほど「空気を読め」という表現が日本社会では頻繫に使われるようになりましたが、これにより組織内での深刻な問題に気付いても、それを提起して解決に努めるのではなく、対立を避けて組織の安定を優先する風潮が支配的になります(詳細はこちら)。第6回の連載でパウロ・フレイレの代表作「被抑圧者の教育学」を紹介いたしましたが、社会の抑圧的構造を分析してそれに対して闘いを挑むよりも、空気を読んで現状の枠組みの中に自分を押し込めることが優先される社会では、少なくても中南米型の連帯経済を実現することはかなり難しいといえるでしょう。

 この他、一億総中流だった社会構造が崩壊し、日本でも貧困が拡大しつつあることが問題になり始めています。給食費が払えない家庭や、生活保護が受けられずに飢え死にする人が出始めている状況を考えると、韓国の社会的企業育成法を日本にも導入して、脆弱階層に対して雇用や社会サービスを提供することが求められているのではないでしょうか。

 貧困にも関連しますが、欧米と比べると日本では、外国人の社会統合を目的とした実践例が少ないことも特徴的です。この連載でも社会的連帯経済の先進国としてブラジルをひんぱんに取り上げており、2013年12月にはブラジルとフランス政府との間で連帯経済に関する技術協力の協定が調印されていますが(詳細(ポルトガル語)、フランスからブラジルではなくブラジルからフランスに対する技術協力である点に注意!)、日本にも約19万2000人のブラジル人が住んでおり(法務省、2012年末現在)、国籍別に見ると韓国・朝鮮、中国そしてフィリピンに次ぐ規模の在日外国人コミュニティを形成しています。日本がバブル経済のまっただ中にあった1990年に出入国管理および難民認定法が管理され、日系人2世あるいは3世であれば日本国籍がなくても労働ビザが簡単に取得できるようになり、各地の工場などで労働者として働くようになりましたが、経済危機を受けて彼らの多くが仕事を失っています。日本での生活がかなり長くなっているため、子どもたちもポルトガル語よりも日本語のほうが堪能になり、子どもたちの将来を考えるとブラジルへの帰国もままならない家庭が少なくありませんが、こういう人たちに対してブラジル本国の連帯経済を伝えて、生活を再建できるようにする必要があるのではないでしょうか。

愛知県豊田市役所のホームページ(ポルトガル語版)

愛知県豊田市役所のサイト(ポルトガル語版)。ブラジル人が多く住む地域の自治体では、ポルトガル語による行政サービスも行われている。

 これに加え、国内ネットワークがまだ形成されていない点も指摘したいと思います。前述したように日本では主にPARCが社会的連帯経済の推進役を果たしてきましたが、ブラジル連帯経済フォーラムREAS(スペイン)などのように全国の社会的連帯経済関係者が集まったネットワークは存在しておらず、運動としての基盤が成熟しているとはいえない状況です。日本国内で社会的連帯経済を定着させるためには、まずそのようなネットワーク作りを行う必要があるのではないでしょうか。

 日本の社会的連帯経済の現状はこのようなものですが、東アジア連帯経済フォーラムが開催される本年(2014年)が、日本の社会的連帯経済にとって飛躍の年になることを祈ってやみません。