これまでの連載でも社会的連帯経済に関する公共政策について断片的に紹介してきましたが、今回はこれら政策をまとめて体系的にご紹介したいと思います。

 2014年初頭現在で、国レベルで社会的連帯経済に関連する法律が制定されている国は、スペイン(スペイン法本文の日本語訳)、エクアドル(エクアドル法(スペイン語))、メキシコ(メキシコ法(スペイン語))そしてポルトガル(ポルトガル法の日本語訳)の4カ国で(成立順)、ブラジルやフランスなどでも同様の法律の制定に向けた動きが見られます。また、地方レベルではメンドサ州(アルゼンチン)(メンドサ州法(スペイン語))やケベック州(カナダ)(ケベック州法(フランス語))において条例が制定されており、カタルーニャ州(スペイン)でも同様の動きが見られます。

 スペインやポルトガル、そしてケベックでは、連帯経済よりも社会的経済のほうが幅広く知られていることもあり、社会的経済法という名前になっています。スペイン法は全部でわずか9条という短い法律で、政府は社会的経済の団体一覧を作成した上で各種推進政策を実施し、諮問・助言機関として社会的経済促進評議会が設置されます。ポルトガル法については第7回の連載で詳細を紹介していますが、構成員・利用者そして受益者の3者が社会的経済の利害関係者とされている点、慈善団体が含まれている点、さらに税制優遇がある点が特徴として挙げられます。ケベック州法では、社会的経済を州経済の重要な一部として位置づけた上で、同州の社会的経済団体の業界団体ケベック社会的経済ワークショップなどと州政府が協議して、5年に1回行動計画を策定することになっています。

 この一方で、連帯経済という表現のほうが盛んに使われる傾向にある中南米では、連帯という単語が使われています。2012年に社会的連帯経済法が成立したメキシコでは、基本的に協同組合のみが認定された上で、国立社会的経済機構や社会的経済の代表者による全国組織の制定などが規定されています。2008年に憲法が改正され、その第283条で「経済制度は社会的かつ連帯に基づくものである」と規定されているエクアドルでは、他国における社会的経済法と協同組合法を組み合わせた形の民衆連帯経済・民衆連帯金融部門法が制定されており、この法律では政府からの各種支援・推進活動に加え、民衆経済関連の諸政策を調整する機関として民衆連帯経済・民衆連帯金融部門総合委員会が設立され、独立法人国立民衆連帯経済研究所や独立法人民衆連帯金融国立法人も設立されています。アルゼンチン・メンドサ州の社会的経済法では、社会的連帯経済評議会や社会的結社経済局に加え、関連政策立案のための社会的連帯経済推進プログラムが設立され、その目的遂行のための基金も創設されています。

 また、このような法律以外にも、社会的連帯経済およびその構成要素を推進する政策は数多くあります。その代表的なものは、ブラジルにおける連帯経済局(SENAES、ポルトガル語)の創設(2003年)ですが、そのほかにもさまざまな国で取り組みが見られます。フランスでは2012年に成立した社会党オランド政権下で、ブノワ・アモン氏が経済金融省社会的連帯経済・消費担当大臣に就任しており(詳細(仏語))、エクアドルやブラジルと提携関係を構築しており、ブラジルとの間ではブラジルからフランスへの技術移転(フランスからブラジルではない点に注意!!)が行われることになりました。国によっては政府が直接、あるいは間接的に、協同組合への融資を支援しています。公共部門の各種調達においても、特に社会的企業に対してはイタリア、デンマークや韓国では優先調達を定めており、またブラジルでは各自治体に対して家族経営農家から一定割合の食材を学校給食向けに調達するよう定められています。

連帯経済分野において、ブラジルからフランスへの技術移転について両国政府が調印したことを紹介する、ブラジル連邦政府労働雇用省のサイト

◀連帯経済分野において、ブラジルからフランスへの技術移転について両国政府が調印したことを紹介する、ブラジル連邦政府労働雇用省のサイト(ポルトガル語

 これに加え、国連関連の機関においても興味深い動きが起きています。社会的連帯経済に最初に関心を示したのは国際労働機関(ILO)で、2010年以降これまで3回、社会的連帯経済アカデミー(英語など)を開催しており(2010年イタリア・トリノ市、2011年カナダ・モントリオール市、2013年モロッコ・アガディル市)、今年2014年は7月21日(月)から25日(金)までの予定でブラジル・サンパウロ州のカンピナス市(サンパウロ市から100km程度)で開催される予定です。参加費が非常に高額となることから(第2回のモントリオールの際には参加費1700ユーロ(約24万3000円))、どちらかといと社会的連帯経済の実践者(特に草の根の実践者)よりも各国政府や国際機関の職員が主に参加する傾向にありますが、ILOのように世界的に影響力のある機関がこのような集中講座を行っていることは、興味深いと言えるでしょう。

ILO社会的連帯経済アカデミーのサイト

◀ILO社会的連帯経済アカデミーのサイト(英語など

 しかし、国連の取り組みが本格化するのは、2013年に入ってからです。国連社会開発研究所(UNRISD)が5月にスイス・ジュネーブ市で社会的連帯経済に関する学術国際会議(英語など)を開き、世界35カ国から300名ほどが参加し、専門的な議論が行われましたが、その後もUNRISDは社会的連帯経済に取り組み続け、社会的連帯経済関係者が主催する複数の会議にUNRISD側からも参加し(6月にオランダ・ハーグ市で開催された社会的補完通貨学術会議や7月にブラジル・リオグランデドスル州サンタマリア市で開催された連帯経済社会フォーラムなど)、積極的に実践者との間で対話を続けています。9月22日に国連NGO連絡サービス(UN/NGLS)が市民社会および社会運動との間で、ミレニアム開発目標の期限が切れる2015年以降についての取り組みに関する対話の機会を持ちましたが、ここでRIPESS(社会的連帯経済推進大陸間ネットワーク、英語など)のダニエル・チジェル事務局長がスピーチを行いました(英語)。そしてその直後の9月30日に国連内で社会的連帯経済推進委員会(英語)が発足し、既存の各機関(UNESCOやILOなど)と協調して国連として社会的連帯経済を推進してゆくことになったのです。

 国連が社会的連帯経済に対して関心を示すようになった最大の理由としては、来年2015年に期限が切れるミレニアム開発目標に代わる社会経済開発モデルとして社会的連帯経済に注目しているという点が挙げられます。確かにミレニアム開発目標のおかげで貧困削減のための各種国際協力プログラムが実施されましたが、まだまだ世界から貧困が削減されたというには程遠い状況です。このような中で、従来の資本主義経済とは異なる社会的連帯経済が国連でも脚光を浴びることになったのです。

 また、国連が社会的連帯経済に取り組むことにより、世界各国の政策にも影響を与えるようになる可能性があります。ご存知のとおり国連には、日本を含む世界のほぼ全ての独立国が加盟していることから、「国連が推進している社会的連帯経済」というお墨付きがつくことで、各国の実践者が政府に対して支援を要請したり、あるいは各国政府が各種経済政策の策定において社会的連帯経済の推進を念頭に置くようになることが期待できます。

 国連については2013年になってから動きが表面化してきたこともあり、今後どのように国連の政策を出すのか、あるいは各加盟国に対して影響を与えるのかについては未知数の部分が多いですが、国連というお墨付きを得たことで、今後社会的連帯経済に対する世界的関心が高まることだけは間違いないでしょう。その意味でも、国連側の取り組みについては今後も目が離せないと言えるでしょう。