さて今回は、いつもとちょっと視点を変えて、社会的連帯経済運動やその具体的な事例などではなく、社会的連帯経済と地域社会のつながりを考えた上で、地域経済を振興させる方法をご紹介したいと思います。

 協同組合の7つの原則については、連載の第3回でご紹介しましたが、その第7原則で「地域社会(コミュニティ)への関与」がうたわれています。すなわち、単にその組合が儲かって、組合員がその利益を山分けすればよいのではなく、その組合が根ざしている地域社会との間でも共存共栄の関係を築く必要がありますが、実は、この原則は1995年に制定された現在の協同組合原則で初めて採用されたものであり、その前の1966年に制定された協同組合原則にはこのような規定はありませんでした。

 地域社会との関わりという点では、最近は資本主義企業側も「企業の社会的責任」(CSR)というコンセプトを持ち出してきています。確かに両者は似ている面もありますが、はっきりと違う点もありますので、それについて書き出したいと思います。

 CSRが生まれた背景を把握する上では、ステイクホルダー(stakeholder)という概念が重要になります。これは、「株主」(shareholder、シェアホルダー)をもじって作られた単語で、ある企業に対して「利害関係」(stake)を持つ人たちという意味ですが、企業をうまく運営してゆく上では、いろんな関係者との間でできるだけ良好な関係を保つ必要があります。ステイクホルダーについて詳述すると、それだけで1回の記事になってしまう分量になることから今回は割愛しますが、従業員や投資家、取引先や消費者などさまざまなステイクホルダーのうちの1つとして地域社会、具体的にはその企業が立地している自治体や、そこの住民でその企業と特に経済関係を持っていない人たちなどが重要となってくるのです。具体的には、単に最低限の法令を遵守するだけではなく、自治体や一般住民に対して積極的に支援活動をすることでイメージを良くして、地域社会から愛されるような存在になろうというのがCSRなのです。

 しかし、企業の場合にはあくまでも経営戦略の一環としてCSRをとらえているのに対し、自ら地域に根ざす社会的連帯経済の場合には地域社会への関与は、ある意味でその存在意義でさえあると言えます。協同組合の究極の目的は、その原則を組合内だけではなく全世界のあらゆる場所に普及させることですが、多くの場合地域に根ざしている協同組合(たとえば農協や商店街)の場合、その地域を健全で活気あふれるものにすることにより、協同組合自身にも見返りが来るようになります。

 このあたり、ちょっと考えてみましょう。東京に本社のある企業の場合、イメージ戦略だけで単発的なイベントを工場のある地域で時折行う一方、特にその工場のトップクラスの人たちは転勤族として数年で去ってしまい、その地域に定着しませんが、協同組合の場合、そこの組合員自身が地域住民として長年、そして多くの場合生まれてからずっと住んでいるので、地域社会への取り組みももっと実質的なものになります。たとえば、組合の教育基金(スペイン法では協同組合は利益の最低5%を組合員向けの教育基金に充てることを義務付けています)を活用して、組合員のみならず地域社会の人一般に向けた研修講座を開いたり、保育所が足りなければ協同組合の事業の一部として運営して組合員以外にも門戸を広げたりすることができます。

 さて、本題に入りましょう。英国の新経済学財団は地域振興に関してさまざまな活動を行なっていますが、その中でも興味深いのが、「水漏れ防止」と名づけられたワークショップマニュアル(英語)です。このマニュアルの内容を、今回は詳しくご紹介したいと思います。

 このマニュアルでは、工業団地を作って企業を誘致しようという各自治体の取り組みに対する批判から始まります。英国(日本と読み替えてもかまわないでしょう)内外で工場誘致合戦が熾烈を極めており、そう簡単に企業はやって来ないし、やって来たところで、その企業への補助金や工業団地の建設費用などが、その企業による経済効果よりも大きくなってしまい、最終的に赤字になってしまう場合も少なくありません。さらに悪いことに、それよりさらに条件のよい場所が出たらすぐに移転してしまう企業も多々あります。また、幸いにも大手自動車メーカーの組立工場が定着しても、その工場に部品を提供する下請工場の大部分が地域外にある場合、その地域に残る経済効果は微々たるものになってしまいます。

 また、地域を本当に活性化しようと思った場合、地域外からのコンサルに任せっきりにしないことが大切です。コンサルはあくまでもその地域に住んでいないことから、その活性化プロジェクトが成功しようが失敗しようが地域住民としてその結果から影響を受けることはありませんし、地域住民でないことからどうしても地域事情の理解には欠ける点があります(もちろん、逆に地域住民にない新しい視点をもたらしてくれることもありますが)。そうではなく、地域住民、地場企業と自治体が三位一体となって地域経済の活性化に取り組むことが欠かせないわけです。
 さて、このような地域経済の振興を考える際に、いくつかのキーワードがあります。

①灌漑

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 地域経済を畑に例えて考えると、この地域経済にはさまざまな方法で「水」=お金が入ってきます。その方法としては、地場企業の儲けだったり、観光収入だったり、あるいは高齢者が中央政府からもらう年金だったりしますが、このお金は必ずしも地域社会全体に浸透しているわけではありません。そうであれば、何らかの形で「灌漑」させ、地域の誰もがそれなりに潤うような地域社会作りを考える必要があるわけです。

②水漏れ防止

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 しかし、そうやって入ってきたお金は、いろんな形で最終的には地域外に流出することになりますが、地域によってこの流出速度には差があります。たとえば、米国でも貧困層が多い地区にはほとんど地元の人が経営している店がなく、そこに住んでいる人は手当をもらうと大型モールやファストフードチェーンなどでお金を使いますが、当然ながらそうするとそのお金の大部分が地域から去ってゆきます。その一方で、豊かな人の多い地区では地域内でお金が何度も流通して循環するため乗数効果が期待でき、地域に富が蓄積してゆくのです。

③雨傘

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 また、地域にお金が落ちるといっても、そのお金をきちんと受け取る能力が地域社会にあるとは限りません。先ほど、せっかく大手自動車メーカーの工場を誘致してもその工場に部品を供給できる技術を持った企業が地域にないと経済効果が限定的であるという話をしましたが、これは他の面でも言えます。たとえば、ビーチリゾートとして有名で国内外からたくさんの観光客を呼ぶ街であっても、そこにあるホテルやレストランの大部分が地元ではなく東京や外資の保有である場合、その地域に残るお金は限定的なものとなるでしょう。また、大きな公共事業の話が舞い込んできても、それに対応できる技術力が地域になければ、よその地域に仕事が取られてしまって地域にはそれほど経済効果が残らなくなるでしょう。

④じょうご

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 当然ながら、このような雨傘を黙って見過ごすわけにはいきません。むしろ、上記のような「雨傘」構造があるのであれば、逆にせっかく降ってくる雨粒を直接地域社会に届けるような「じょうご」を作れないか検討してみることも大切です。具体的には、その大手自動車メーカーの組立工場に商品を納入できるような下請工場を地域社会一丸となって育てたり、公共事業に対応できる技術を持つ建設会社を地域で作ったり、あるいはビーチリゾートであれば地元資本のホテルやレストランを建てたりすることが大切になります。そして、レストランではできるだけ地元の食材を使った料理を提供することにより、地域にお金が循環し、高い経済効果が生まれるようになるわけです。

 さて、このマニュアルでは、このような「灌漑」、「水漏れ」、「雨傘」および「じょうご」という観点から、一般市民、地場企業そして行政関係者が集まって1日ワークショップを開催することを提案しています。

①はじめに(30分)

このワークショップで行なう内容を伝えた上で、参加者に自己紹介してもらいますが、その際に最近買った地元産の商品と地域外の商品についても話してもらうようにします。その後グループ分けを行ないますが、この際に住民・地場企業・行政の3者が適度に混じるようにすることが大切です。

②水漏れ検索(90~120分)

穴が開いたバケツに実際に水を入れて、これが地域経済の実情だと参加者に説明します。そして、地域社会へのお金の流入とそこからの流出方法について参加者に考えてもらい、水漏れ=資金流出を防ぐ具体的な方策を検討してもらいます。

③それ以外のアイデアの模索(60~90分)

水漏れ以外にも、先ほど説明した「灌漑設備」、「雨傘」や「じょうご」という概念を紹介して、どのようにして地域社会に残るお金を増やすか考えてもらいます。

④水漏れを防ぐ具体策の検討(90分)

②と③でさまざまなアイデアが出ましたが、ここではそれらアイデアをまとめて実践に向けて整理します。すなわち、優先順位を決めた上で、それらを実践するための具体的な方法を探るわけです。

 「水漏れ防止」のサイトによると、このワークショップは、英国9カ所に加え、4大陸6カ国(イスラエル、ブラジル、ペルー、ホンジュラス、南アフリカ、モザンビーク)で実施されています。マニュアルはかなり長いですが、要点をかいつまめば日本でも実施できる内容ですので、これを機会に挑戦されてはいかがでしょうか。