さて今回は、私が現在住むスペインはバレンシア州を本拠地として40年近くにわたって営業を続けている消費者生協コンスム(コンスムは「消費」という意味のバレンシア語)についてご紹介したいと思います。内輪ネタで恐縮ですが、現在私が在籍しているバレンシア大学社会的協同組合経済大学研究所(IUDESCOOP)のジョアン・ラモン・サンチス・パラシオ教授とバネッサ・カンポス・イ・クレメント助教授が近頃「コンスムモデル: 責任を負い持続可能な協同組合」(本の発表会についての記事はこちら)という本を刊行したこともあり、この本をベースにしながらコンスムについて紹介したいと思います。

本の発表会の記念写真

本の発表会の記念写真。真ん中の女性がカンポス・イ・クレメント助教授、その右(後方)にいる男性(ノーネクタイ)がサンチス・パラシオ教授(出典:スペイン社会的経済観測所)

 コンスムは1975年に消費者生協として発足し、11月にバレンシア近郊のアラクアス市に第1号店を開きました。奇しくもまさにこの月に、1939年以降スペインの軍事独裁を率いてきたフランコが病没し、それを受けて即位したフアン・カルロス前国王(2014年6月2日に退位表明、18日に正式退位)によりスペインは民主化されることになりますが、この時代には長年のフランコ独裁政権への不満が最高潮に達しており、財界主導の経済発展への代替案として協同組合運動が模索されており、それが結実したのがコンスムだと言えるでしょう。

 この協同組合が発足した理由は、年率20%を超えるインフレが家計を圧迫していた当時、食料品など生活物資を安く入手できるようにしようというものでしたが、発足者たちは他の分野での協同組合運動や民主化運動に関わっており、自然と消費者生協の分野にも関わるようになったと言えます。実際、1969年には住宅協同組合(安価で良質の住宅を入手できるようにすべく、居住希望者が集まって協同組合を作るもの。スペインでは協同組合の一種類として、協同組合法第89条から第92条で定義)が設立され、その経験から教育協同組合フロリダに加え、建築関係のさまざまな企業も作られましたが、その流れの一環としてコンスムが生まれたわけです。

 消費者生協運動はバレンシア以外の地域でも見られましたが、その展開には大きな違いがあります。カタルーニャでは本当に地元密着型の零細消費者生協がたくさん生まれ、それらが連合を作ったのに対し、バスクではモンドラゴングループエロスキが、そしてマドリッドではコエバ(1984年に業務停止)という大規模な消費者生協が作られました。コンスムの経営陣はスペイン国内外の事例を視察してから後者の道を選び、合併や新規開店を通じてバレンシア都市圏、そしてその北のカステリョン県に続々と店舗を展開していったのです。

 その一方、1970年代にはすでに大規模小売店がスペインにも進出を始めており、コンスムもこのような店との競争に容赦なく晒されることになりました。このため、当初は組合員総会で経営の主要事項を決定していたものの、経営の専門化に努めることになり、流通の効率化や市場調査などを行うことで流通コストを下げるようになったのです。

 1981年に規約が改正され、コンスムの従業員も組合員になることができるようになりました(それまでは消費者のみが組合員だった)。これによりコンスムは消費者生協のみならず労働者協同組合の性格も帯びるようになり、黒字を従業員に還元したり、従業員向け各種研修プログラムが充実したりするようになりました。この時点ですでに17店舗、従業員100名そして8200人の消費者組合員を抱え、年間売上は10億ペセタ(当時の為替で約25億円、以下同)に達していました。その後も成長を続け、1987年には32店舗を抱え、年間売上高は70億ペセタ(約82億円)超に達したのです。こうして経営体力をつけたコンスムは、零細消費者生協ではなく、流通網を有する零細スーパーチェーンの買収を始めるようになり、1990年には71店舗と従業員1123名、そして消費者組合員2万9571名を擁し、年間売上高は160億ペセタ(約230億円)に達しました。

 しかしながら、その他の大規模スーパーと比べるとコンスムの成長は緩やかなものであり、さらなるスピードアップが求められていました。このような中でコンスムは前述のエロスキと手を組み、1991年にエロスキグループの傘下に入ることで、スペインで5番目の規模の流通網になりましたが、両組合の組織はそのまま残りました。両組合の方針の違いによりこの提携は2004年に解消されますが、その後もコンスムは成長を続け、この記事を執筆している2014年6月現在では、6州(バレンシア、カタルーニャ、アラゴン、カスティーリャ・ラ・マンチャ、ムルシア、アンダルシア)15県で633店舗を展開しており、バレンシア州(人口約513万人)の企業として第2位の地位を占めるに至っています。

「コンスムモデル」の本のカバー

「コンスムモデル」の本のカバー

 スペインの協同組合法では、売上から諸経費を差し引いた剰余額のうち5%を組合員の教育・協同組合推進活動基金とするよう決められていますが(全国法では第56条)、コンスムの場合にはこのうち半分を各店舗に割り当て(売上に応じて配分)、残りの半分を本部が直接管理しています。また、消費者もある店舗に自分を関連づけることで消費者組合地域委員会を編成し、その店舗における教育・協同組合推進活動基金の使い道について意見を言えるようになります。

 他の協同組合と同様、コンスムにおいても最高意思決定機関は総会ですが、1万人を超す従業員(資本金を出している)、そして約200万人もの消費者組合員がいるコンスムの場合、全組合員が一堂に会することは不可能です。このため、各地の準備委員会から150名の代表を選出し(消費者代表75名、従業員代表75名)、理事の交代や予算・決算などを審議します。理事会は12名(消費者6名、従業員6名)で構成され、規約上は2カ月に1回開催されることになっていますが、実際には毎月開催されています。この下で総務部、開発部、財務・IT部、店舗管理部、人事部、渉外部、消費者会員・マーケティング部、物流営業部、生鮮冷凍営業部が編成されてそれぞれの業務に当たっているほか、組合員委員会や懲罰委員会もあります。

 コンスムは住宅街に(具体的にはマンションの1階部分に)2500〜2500平米(約76〜760坪)の面積の店を構えて、徒歩圏に住む顧客を獲得しています。その中でも消費者がひんぱんに買う商品については自社ブランドを提供し、これにより売上の16%を上げています。また、本部と7カ所の物流センターから商品を各店舗に配送しています。

 コンスムはと各種ステイクホルダー(利害関係者)との関係についても見てみましょう。従業員の基本給は2012年現在で1085.28ユーロ(2012年当時のレートだと約11万円)、組合員従業員の基本給は1178.84ユーロ(約12万円)ですが、当時のスペインの最低賃金752.85ユーロ(約7万7000円)よりもかなり高い額になっています(日本のスーパーでは主婦のパートに頼る例が多いが、コンスムは基本的に正規従業員しかいない)。現在のスペインでは月1000ユーロ未満の給料しかもらえない人も、特に若年層にかなり多いことを考えると、これだけの基本給が保証されているコンスムの待遇は(スペインにしては)かなりよいものと言えるでしょう。さらに、週あたり労働時間が40時間を超えず、5週間の休暇も保証されており、またできるだけ職住接近(住まいの近くの店で働かせる)で通勤時間を短縮したりするなど、特に小売部門ではかなり労働者に優しい待遇であると言えるでしょう。

 消費者組合員にとっては、前述した教育・協同組合推進基金により環境や保健などに関して学習できる機会を得られることが最大のメリットで、この6年間で1000万ユーロ以上(現在のレートで約14億円)がこれらプログラムに割り当てられました。また、最大で購入額の1.25%が割り引かれる小切手が毎月送られ、これにより2012年には1900万ユーロ(現在のレートで約26億円)を消費者に還元しています。この他にも、高齢者が25ユーロ以上の買い物を行った場合には自宅まで無料宅配しており、組合員のへの便宜を図っています。この他、現在失業率が非常に高い(27%)スペインでは生活が苦しい家庭が少なくなりませんが、各種事前団体に賞味期限切れが近い(もののまだ切れていない)食品などを寄付することにより、各団体が運営するこれら貧困層向け食堂への食材を提供しています。

 現在コンスムは、スペインで7番目の小売店となっていますが(ちなみにエロスキは3番目)、バレンシア州はスペイン最大のスーパーマーケットチェーンであるメルカドナの発祥地でもあることを考えると、コンスムはかなり健闘しているといます。さらに、伝統的に日曜日は商店が閉まっていたスペインでも大規模店の中には営業を始めるところがありますが(総合デパートのエル・コルテ・イングレスが代表例)、コンスムは日曜・祝日は原則的に店を閉め続け(年末年始など休みが重なるような場合は例外)、従業員が家族と十分な時間を過ごせるようにしています。

 環境汚染が深刻化した高度成長期に食の安全を求めて生まれた日本の各種消費者生協と比べるとコンスムのビジネスモデルはかなり異なっていますが、特に消費者生協を研究している人にとっては、比較対象として興味深い存在ではないでしょうか。