連帯金融

連帯経済も経済活動の一環である以上、金融も重要な要素で、ブラジルでは回転基金(フンド・ロタチーヴォ)と呼ばれる動きと、コミュニティバンクと呼ばれる2つの動きがあります。

 回転基金については、日本の頼母子講に似ていますが、基本的に地域住民が一定額を出し合って基金を作り、その基金を順番で借りて設備投資に充てるというものです。個人個人の資金は乏しくても、このような形で投資ができるようになれば経済活動が発展してゆくわけです。

 コミュニティバンクについてですが、これで最も有名なのはフォルタレザ市にあるパルマス銀行でしょう。漁村だった地域がリゾート開発の余波を受けて強制立ち退きに遭い、その元住民らが内陸部にパルメイラス地区と呼ばれるファヴェーラを1970年代に建設し、上水道やメインストリートの舗装、小学校の建設などを達成しましたが、皮肉なことに生活水準が向上するとともに生活費も高くなり、それを払いきれなくなった人たちが家を売り払って別の地区に移住せざるを得なくなる事態になりました。そこで地域づくり運動のリーダーだったジョアキン・メロが、大銀行(ブラジル銀行)と掛け合ってマイクロクレジット資金を獲得し、あくまでも地域コミュニティが運営する銀行として金融活動を開始しました。その後、地域通貨パルマも発行し、地域社会による自主運営型の金融機関として非常に高い評価を得ており、今ではブラジル全国で100以上のコミュニティバンクが存在しています。なお、コミュニティバンクについてはこちらのサイト(ポルトガル語)も参考になりますので、ぜひご覧ください。

パルマス銀行の創設者ジョアキン・メロが語るコミュニティバンクの哲学

連帯交換市・見本市

 連帯経済関係者が一堂に会する連帯交換市がブラジル各地で開催されています。場所によってはこの交換市でしか使えない地域通貨を発行して、連帯経済関係者同士の取引を増やす試みも行われています。これに加え、毎年7月にリオ・グランデ・ド・スル州サンタマリア市で開催される連帯経済会議(近隣諸国に近い地理的条件もあり、ブラジル国内のみならずアルゼンチンやウルグアイなど周辺諸国の人も参加)では同時に見本市も開催され、ここでは食品や各種民芸品などが直売されています。

インキュベーター

 また、ブラジルで注目すべき他の運動としては、連帯経済の事業を生み出すためのインキュベーターが存在していることでしょう。ブラジルでは各地の大学内に民衆協同組合インキュベーターと呼ばれるものが存在し、ここで大学生や院生が民衆協同組合の設立のためにさまざまな支援を行っています。また、全国のインキュベーターでネットワークを組んでおり、定期的に会合を開いて交流や情報交換を行っています。

 連帯経済に取り組むという点では非常に興味深いこのインキュベーターですが、重要な点としてはこれらインキュベーターにおいては学生自身が企業家になって貧しい人たちに雇用を提供するのではなく、あくまでも貧しい人たち自身が自主運営型の協同組合を作り、安定した経営を実現するための手助けをするという脇役に徹していることが挙げられます。

 民衆協同組合インキュベーターについては、こちらの本(PDFファイル)が非常に参考になりますので、こちらもご覧いただければと思います。また、この連載の第16回および第17回でも、ブラジルの連帯経済における起業のノウハウをまとめていますので、こちらもご参考にしてください。

公共政策

 ブラジルの連帯経済が非常に注目されている理由の一つとして、公共政策が充実していることが挙げられます。「連邦政府における連帯経済の公共政策の発展と課題 2003〜2010」と題された報告書(ポルトガル語)によると、連邦政府の連帯経済局では特に以下の分野で重点的に取り組んだと記されています。

  • 連帯経済関係の業務に取り組む連邦、州および市町村の職員に対する、連帯経済関連の研修
  • バリューチェーンを推進するための認定プログラム
  • 回復企業への支援
  • 民衆協同組合技術インキュベーターへの支援
  • 連帯経済公共センターの開設
  • 連帯経済企業の全国レベルでのマッピング
  • コミュニティ開発バンクへのサポート
  • 連帯経済技術支援州センター
  • 廃品回収業者への協同組合運動に関する研修
  • 連帯経済研修センターの開設
  • 連帯経済の政策担当者向け研修講座

 このように、諸外国と比べると行政・大学そして実践者の3者が協調することにより順調な発展を遂げているブラジルの連帯経済ですが、課題もいくつかあります。

  • 連帯経済基本法が未成立: この連載でポルトガル(第7回)フランス(第41回)の社会的連帯経済法については取り上げましたが、ブラジルではまだ同様の法律が成立しておらず(法律としてあるのは連帯経済局の設置を定めたもののみ)、ブラジル連邦政府全体の政策として連帯経済が取り扱われているとは言えない状態です。このため、ブラジル連帯経済フォーラムでは同法の成立に向けたキャンペーンを行っています。
  • 協同組合設立へのハードルが高い: ブラジルの現在の協同組合法は、軍政下の1970年代に成立したもので、労働者や零細農家よりも大地主の協同組合を対象としており、組合の成立には最低でも20人が必要となっていることから、実際にはNPOなど別の法人格で運営されています。ブラジル連帯経済フォーラムでは、この点でも法改正を促し、より簡単に協同組合が結成できるよう活動しています。
  • 一般への認知度が低い: 世界的に見ればはるかに連帯経済が進んでいるブラジルでも、一般市民への浸透度は非常に低く、社会運動に特に取り組んでいない人にはそれほど知られていません。連帯経済をさらに発展させるためには、若者や工場労働者など社会のさまざまな層を取り込み、雇われ人の立場から連帯経済の担い手への移行を促したり、消費者として連帯経済を支えるよう支援したりすることが必要となります。
  • 社会運動としての側面が非常に強い: 他国と比較しても社会運動家が参加する割合が高いブラジルでは、社会運動の一環として連帯経済が理解されており、運動家の間でもその意識が非常に高くなっています。連邦政府側で一時期、連帯経済局と中小企業局との統合が検討されましたが、中小企業と一緒くたにされたくないという現場の反発に遭い、この統合は撤回されました。このため、連帯経済運動の中での結束は堅い一方で、中小企業や自営業など、必ずしも資本主義的な論理では動いていない経済活動との協調関係が生まれにくくなっています。
  • 政府からの支援への依存度が高い: 2003年に成立した労働者党政権の下でブラジルの連帯経済が推進されてきたことについては前述した通りですが、このため連帯経済関係の各イベントや研修プログラムを開催する際に、連邦政府や各州政府からの資金的支援に依存することが多くなっています。実際、サンパウロ市では政権交代により連帯経済への支援が中止されており、行政依存的な連帯経済の推進には、常に政権交代というリスクがつきまといます。幸いにも先日の総選挙で現職である労働者党のジルマ・ルセフが僅差で再選されましたが、労働者党政権が永遠に続くわけではないので、今のうちに連帯経済側で経済力をつけて、政権交代が起こってもこれら各種イベントを続けて連帯経済を成長させる戦略が必要であると言えるでしょう。
  • 政府側の都合による連帯経済の枠組みの押し付け: 連帯経済局は労働雇用省内にありますが、労働者党政権は環境保護や非資本主義型自主運営企業の促進という側面には目を向けず、あくまでも雇用増大のツールとして連帯経済をみなしており、その分野でしか連帯経済を促進していないという問題があります。
  • 中産階級の取り込み: ブラジルでは連帯経済は、主に貧しい人たちへの雇用創出の手段として推進されている話は前述しましたが、それ以上に中産階級の人たち、特に連帯経済以外の分野の公務員や民間企業の職員など、生産者としては連帯経済に直接関わっていない人たちとの関わりについては、依然として脆弱であると認めざるを得ません。どのようにして中産階級を消費者として連帯経済に関わらせるか、また民間企業でこき使われる労働環境から自主運営的な労働環境に中産階級の人たちを移行させられるかについて、今後模索してゆく必要があるでしょう。

第2回ブラジル全国連帯経済会議(CONAES、ブラジリア、2010年6月)の様子

 ブラジルについては、日本から地理的に非常に遠く、同国の入国にはビザが必要で(在東京(東日本在住者)、在名古屋(西日本在住者)あるいは在浜松ブラジル領事館(静岡県在住者)での手続きが必要)、また連帯経済関係の文献が現地語であるポルトガル語以外ではほとんど入手できないことから、日本の社会的連帯経済関係者にとってはアクセスが非常に困難な国であると言えますが、ぜひとも機会を見つけて現地を訪問し、現地の連帯経済について実感していただければと思います。

 なお、ブラジルの連帯経済については、ブックレット(原文(ポルトガル語)日本語訳)で詳しく紹介されています。ご一読いただければ幸いです。