5月13日と14日に、南米ペルーの首都リマ市内のサンマルコス国立大学(1551年創設で、中南米最古の由緒ある大学)で、「平等な包摂経済の課題に対する社会的連帯金融」という副題で、倫理金融世界サミットが開催されたので、今回はこの会議の報告を行いたいと思います。

同会議のロゴマーク

◀同会議のロゴマーク

 倫理金融分野では、INAISE(社会的経済投資家国際連合、英仏語ではイネーズ、西語ではイナイセと発音)と呼ばれる国際ネットワークが存在し、主に欧州・中南米とアフリカを中心として、世界各地に広がっています(日本からは市民バンクが加盟しているようです)。INAISEは1994年より年1回総会を主に欧州で開催してきましたが、今年はリマ市内で開催されたことから、特にペルー国内の関係者に倫理金融に関する世界各地の動向が紹介すべく、INAISE総会の出席者を中心としてこの会議が開催されました。なお、連帯経済関係の金融については、第15回の記事もご参考にしてください。

 初日(5月13日)は、今回の会議の主催団体(INAISEに加え、サンマルコス国立大学と同国の信用金庫フォルタレセール)のあいさつに続いて、基調講演が3つ行われました。まず、ドミニック・レザーフルINAISE理事長(フランス)が、社会正義や環境保護、フェアトレードなどを目的とした事業に融資を行う金融機関が1970代以降世界各地で出現してきたことに触れ、最近の新興国の発展および先進国の経済停滞により、必ずしも「先進国=豊か、途上国=貧しい」という公式が当てはまらなくなっていると説明し、連帯金融の分野でも先進国を凌ぐ金融機関が途上国で生まれつつあると語りました。次に、カトリック教会系の社会アクション司教委員会(CEAS)のウンベルト・オルティス氏(ペルー)が、貧困に加え、基礎的学習や技能の欠如により社会に参加できない状態が社会的疎外であるという欧州委員会の定義を紹介した上で、栄養失調や不適切な衛生環境および不十分な教育に加え、失業や低収入も社会的疎外であることを示し、栄養、教育、健康・医療、雇用・収入、社会参加、倫理、健全な生態系および精神性の8つの観点からの総合的なアプローチで人間の生活を考慮する必要があると述べました。また、労働について「原材料を社会的に役に立つ財やサービスへと変換する人間の能力」と定義した上で、労働の中には対価が支払われないものもあると説明し、地域発展や社会的包摂の点でのよい事例として、サリーナス(エクアドル)やCECOVASAコーヒー農家協同組合(ペルー)の事例が紹介されました。そして、前述したフォルタレセールのペルシー・アンディア理事長(ペルー)が、同国では成人のうちわずか20%しか銀行口座を持たず、特に農村在住者や女性の中に銀行口座を持たない人が多いことに触れ、利息の高さや金融機関からの拒絶などにより貧困層が融資を受けられない現状があることを示した上で、エンパワーメント教育を通じた金融面での社会的包摂を倫理金融が推進する必要性を説きました。

発表中のペルシー・アンディア・フォルタレセール理事長

◀発表中のペルシー・アンディア・フォルタレセール理事長

 5月14日(木)は、協同組合、家族農業そして気候変動という3つのテーマで議論が行われました。協同組合セッションではまず、カナダ・ケベック州にあり、同州でも最大規模の金融機関といえるデジャルダン信用金庫のマルク・ピキャール最高責任者が、同州の経済が民間経済、公共経済そして社会的連帯経済の3つから構成されていることや、英語系の人たちよりもフランス語系の人たちのほうが協同組合に熱心であることを語った上で、同州には3300もの協同組合があり9万9000人に雇用を提供していると説明しました。また、利用者のニーズに沿った業務を提供できる協同組合のほうが普通の企業よりも生存率が高いことを指摘し、115年の歴史を持つ同組合が数多くの協同組合事業やNPOに融資してきたことを紹介しました。

 次に、ペルー信用金庫全国連合(FENACREP)のマヌエル・ラビネスGMが、同連合による金融教育の取り組みを紹介し(バリューチェーンの形成も)、ブラジルの農村信用金庫システム(CRESOL SICOPER)のクレジル・マグリ氏が、同国でも南東部(サンパウロ州・リオデジャネイロ州など)や南部に農村信用金庫が偏在している現状や、貧困層に対して生産活動への包摂のための橋をかける自らの役割について語りました。そしてアフリカはギネア共和国のラマラナ・サディオ・ディアロ農村信用金庫理事長が、人口1200万人弱の同国で30万人以上に金融サービスを提供している現状や、最近のエボラ熱により融資者123名、そして職員4名が犠牲になっていることを説明しました。

 次に、家族農業についてのセッションが行われました。まず、社会セクター信用金庫メキシコ連合(AMUCSS)のイサベル・クルスGMが、家族農業と地域開発が不可分の関係にある点や、最近の中南米の経済成長から農村部が取り残されている点、さらにメキシコでは先住民の子どもに栄養失調が多い点などを指摘し、このような農家への融資においては必要な商品開発やITの整備などが必要だと結論づけました。次に、AGROSOLIDARIAのマリオ・ボニーリャ理事長(コロンビア)が、融資、生産、加工、配送、消費の5分野で同国内各地の家族農業関係者がネットワークを組み、金融に加えて生産、加工および流通面で協力している旨を説明しました。Sen’Financesのファトゥ・ンドゥール理事長(セネガル)は、国民の半数以上が農村に住み、特に女性の識字率が今でも低く(37.7%)、正規雇用にありつけている成人がわずか5人に1人であり、建設業やサービス業の占める割合が多い一方で農業は未発達で、主食であるコメのかなりの部分を輸入に頼っているという同国の状況を語った上で、同機関では金融のみならず各種エンパワーメント教育も施している一方で、灌漑設備や農業器具の未整備、市場へのアクセスの不備や政府からの支援不足などを課題に挙げました。最後にSEMBRARのマリア・エレーナ・ケレハスGM(ボリビア)が、同国の農業の生産性や経済成長率の低さ、また家族農業では市場で売れる作物を作っていないことや経営などを指摘した上で、融資のみならず技術支援と市場アクセスを組み合わせた支援を行っていることを紹介しました。

 最後に、気候変動への対処についてのセッションが行われました。まず、スイスの国際協力NGO・Helvetasのパトリシア・カマチョ・ペルー支部長が、気候変動により熱波や寒波、また豪雨や干ばつの発生が増えているため、これらに対応できるようにすべく農村への投資が必要となっていることを指摘し、危機管理関連の研究や政策を政府などが実施する必要を述べました。次にFondesurcoのガブリエル・マサGM(ペルー)が、環境保護を考慮した事業方針、環境にやさしい金融商品の開発、環境を害さない経済活動の重視、そして省エネや再生可能エネルギーを使用する商品、有機農業や適切な畜産技術、アグリトゥーリズムの推進、さらには水資源の適切な管理といった同金庫の方針を語りました。エコロジー建設協会のポール・エリス氏(英国)が、環境にやさしい方法での住宅建設やリフォーム、また住宅価格が急騰している同国で比較的安価での住宅提供など、同団体の活動を紹介しました。最後に、バオール貯蓄・融資伝統連合(UBTEC)のガシミ・ディアロ氏(ブルキナファソ)が、同連合が再植林関係の事業にも取り組んでいる点を紹介しました。なお、来年のINAISE総会はカナダのケベック州で開催される予定です。

 今回の会議で斬新だったと思われるのは、協同組合運動や家族農業、そして気候変動への対処といった具体的な事項に対して、倫理金融の立場から具体的に何ができるのかについて、世界各地の多様な事例が紹介された点です。金融関係の会議となると、どうしても金融の具体的な技術論など金融関係者以外には取っ付きにくいテーマが多くなりがちですが、社会的連帯経済で重要な上記の3つのテーマに焦点を当てることで、社会的連帯経済系の金融機関がこれらの分野でどのように協力できるかが具体的に発表されたことは、金融部門とそれ以外の経済活動関係者との距離を縮める上で良かったのではないかと思います。

 あと、余談を一つ。この会議の参加後に私を含むペルー国外からの参加者は、ブリサス・デル・ティティカカ(「ティティカカ湖のそよ風」の意味)という劇場でペルーの伝統舞踊ショーを楽しみましたが、ここで強調したいこととして、この劇場が普通の民間企業ではなく、あくまでもNPOとして50年以上にわたって運営されている点が挙げられます。NPOということで、利益追求ではなくあくまでも文化活動の振興(具体的にはペルー各地の伝統舞踊の保存と推進)という目的で、ダンサーとミュージシャンを合わせると50人以上のアーチストが繰り広げる4時間ものショーが比較的低価格で(入場料は1200円~2500円程度、曜日や席によって料金が異なる)楽しめるのは、社会的連帯経済の実例としても非常に興味深いものに思われました。ペルーというとマチュピチュの遺跡が非常に有名で、一度は同国を訪問したいと思われている方も少なくないかと思いますが、ペルー観光の際には「あくまでも社会的連帯経済の事例の視察として」首都リマ市内にある同劇場を訪問するのもよろしいのではないかと思います。

▲同劇場での公演の一シーン。カーニバルの時期に踊られる「モレナーダ」の様子。