廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第60回

社会的連帯経済をあなたの地域で推進するには

 私の連載では社会的連帯経済についてさまざまな側面から紹介してきましたが、これによりお住まいの街で社会的連帯経済を推進しようと思われている方も少なからずいらっしゃることでしょう。今回は、バルセロナ県議会が作成した「市役所向け社会的連帯経済ガイド」というマニュアルをもとにして、私の個人的体験や知見も踏まえて、読者のみなさんの地元(市町村および都道府県単位)で社会的連帯経済を推進する方法についてご紹介したいと思います。

 ただ、地方自治体(市区町村や都道府県)に社会的連帯経済を推進するよう要請する前に、社会的連帯経済セクター側ですべきことがあります。協同組合、フェアトレード、金融(日本ではNPOバンクがこれに該当)、有機農業、社会的企業、NPOなどの関係者は、日ごろは専らそれぞれの分野のみで活動していますが、これら全てを包む枠組みとして社会的連帯経済というコンセプトを使い、このコンセプトの下でネットワークを結成するのです。ブラジルでは特に主要都市では市レベルの連帯経済ネットワークがあり、これらが州・全国ネットワークへとつながっています。スペインでは市レベルでのネットワークは存在しませんが、大半の州(17州中14州)でネットワークが存在し、全国単位でつながっています。社会的連帯経済の推進活動を行うにはその活動基盤として、まずこのようなネットワークを、地元の市区町村や都道府県で結成することが欠かせないと言えるでしょう。

カタルーニャ連帯経済ネットワークのホームページ

カタルーニャ連帯経済ネットワークのホームページ

 さて、例のマニュアルに戻ると、同書ではまず、地域経済振興政策と社会的連帯経済との間で親和性が高いことを強調した上で、以下の3分野において関連の政策を実施することが有効だと述べています。

  1. 地域の経済的・社会的プレイヤーの間で社会的に責任を負った実践例の推進: 社会的企業(長期失業者や障碍者らを優先的に雇用し、彼らに職業訓練の機会を提供する企業)や有機農業、フェアトレードなどを推進する政策。社会的企業についてはいくつかの国で関連法が可決しており、特に韓国では社会的企業育成法(2006年可決)により2015年6月までに1350団体が社会的企業に認定されている(一覧はこちら)。有機農業については、たとえば市役所食堂や学校給食に使う食材を(可能であれば市内の)有機農家から購入するという支援方法があり、ブラジルでは実際にこれが行われている(日本語での情報はこちらで)。フェアトレードを推進する公共政策としては、たとえば市役所内でのコーヒーをフェアトレードのものにするという政策が挙げられ、またフェアトレードに積極的な自治体をフェアトレードタウンとして認知する国際的な運動も展開されている。また、社会的連帯経済と直接関連するわけではないが、公共財経済の枠組みもこの分野では大いに有効。
  2. 社会的起業の推進: この流れには、単に経済的動機から起業するのではなく、それにより社会問題を解決したり、社会の状況を改善したりする社会的使命も備えた社会的起業家の流れや、ソーシャルイノベーションの流れが含まれる。
  3. 地域経済開発計画の中への社会的連帯経済の取り込み: 地域づくりの担い手として、社会的連帯経済の各団体(NPO、協同組合、有機農業、地域通貨など)を認識。

 また、これに加えて以下の概念が、社会的連帯経済の推進には欠かせません。

  1. 必要を満たす: 衣食住、教育、医療、交通、レジャー、融資など、個人の必要を満たすことが目的。
  2. クリエイティビティと協力が主要資源: 資本金がない場合でも、知識や技能、経験や時間などの資源を最大活用。
  3. 公共政策の共同策定: 社会的連帯経済の推進政策の策定を行政に任せるのではなく、自分たちも積極的にそのプロセスに参加。
  4. 総合プロジェクト: 単に目先のカネを追うのではなく、社会や環境も配慮した全体的な観点から政策を立案。
  5. 他の公共政策との協調: 社会的連帯経済だけで独自の政策を行うのではなく、教育や文化、環境や都市計画など行政の他分野と協調し、既存の計画(戦略計画など)も活用。
  6. 推進プロジェクト: 旧市街地の活性化や市民農園の開設など、具体的なプロジェクトを実施。

 その上で、社会的連帯経済の推進の上で行政が果たす役割として、以下のものが挙げられています。

  1. 社会的連帯経済活性化のための条件を整備: 法制度の中には社会的連帯経済を推進するものや、逆に抑制するものがあるが、推進する要素を最大限に整備する一方、抑制するものについては対処する条例や補助金などでその影響を最小限に。
  2. 支援活動: 何も補助金である必要はなく、行政が持つリソースを最大限に提供。たとえば、中小企業経営支援活動の対象を社会的連帯経済の事業に拡大したり、行政が持つ空き設備を無料あるいは格安で貸し出したり、行政が行う各種講習会に連帯経済関係者を招待したりなど。
  3. 啓蒙活動: 失業者、マスコミ、各種学校などに対して社会的連帯経済を紹介する活動を実施。
  4. 優先購入: 可能な限り、社会的連帯経済関係団体から仕入れを実施。地域農家からの学校給食食材の購入や、フェアトレードのコーヒーの市役所での導入などは、その具体例。
  5. 事業参加: 社会的連帯経済分野で新規事業が立ち上がる際に、行政がコーチングしてサポート。
  6. 融資: 社会的連帯経済関係の新規事業が立ち上がる際に行政が融資を実施。

 これに加え、以下の活動が優先事項であると記述されています。

  • 既存の社会的連帯経済活動をマッピングし、ネットワーク化した上で研修やコンサルティングなどを実施
  • 国内外にある社会的連帯経済の実践例を見つけて研究
  • 社会的連帯経済の重要性について、いろんな人に対して啓蒙活動を実施
  • 行政と社会的連帯経済の団体との間で共同実施
  • 社会的連帯経済発展計画を作成

 ここまではマニュアルの中で政策に関連した内容を紹介しましたが、ここからは私見を紹介したいと思います。

 行政が社会的連帯経済を推進するためにはそれなりの理由付けが必要ですが、その中でも最も有効なのが、社会や環境のためになる価値づくりを行っているというものです。たとえば社会的企業により長期失業者などが雇用されると、これにより彼らに収入がもたされるため、彼らに失業保険や生活保護を支給する必要がなくなり、行政側も金銭的に得をします。そうである以上、社会的企業を推進するために行政がある程度資金をかけることが正当化されるのです。また、同様の理由で一般企業と社会的連帯経済の団体が補助金を申請した場合、そのようなメリットを生み出す社会的連帯経済の団体に補助金を出すことが合理的になります。

 市町村あるいは都道府県単位のネットワークができたら、定期的に会合を開き、ネットワークとしてどのようなプロジェクトができるか、あるいは同じ社会的連帯経済の仲間としてどのような相互協力が可能かを話し合います。たとえば、フェアトレードショップを作ろうという話が出てきた場合、ネットワークのその他の参加者が資金を提供したり、ショップの経営を安定させるために各事業者がその店の宣伝を行ったりすることでこのショップを軌道に乗せることができるわけです。定期的に会合を持った上で、そこで現在の地域の課題や新規事業の可能性などについて話し合うことが大切だといえます。

 また、社会的連帯経済というものが存在することを一般の人に知らせるためには、自分たちの内輪で引きこもるのではなく、各種イベントを開催して一般の人に知ってもらう必要がありますが、その中でも個人的に何よりも効果的だと思われるのが見本市です。たとえばカタルーニャでは州都バルセロナ市内で2012年より毎年10月の最後の週末に連帯経済見本市を開催しており、数千人もの参加者で賑わっており、マドリッドやアラゴンなど別の州でも同様のイベントが開催されています。日本でも、できれば同様のイベントを各地で開催して、社会的連帯経済の存在を一般社会に広くアピールできれば幸いです。

▲2013年カタルーニャ連帯経済見本市の記録ビデオ

 いずれにしろ、社会的連帯経済はネットワークベースで動いていますので、まずは地元でネットワークを作ることから始めてみてはいかがでしょうか。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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