さまざまな分野における連帯経済の実践については、この連載で紹介してきましたが、今回は社会的連帯経済の分野における世界的ネットワークであるRIPESS(大陸間社会的連帯経済推進者ネットワーク)の憲章(英語版フランス語版スペイン語版)をご紹介したいと思います。

RIPESSのロゴマーク

◀RIPESSのロゴマーク

 RIPESSは、1997年にペルーの首都リマ市で、社会的連帯経済関係者が世界的会合を行ったことで立ち上がった組織です。その後4年ごとに(2001年カナダ・ケベック市、2005年セネガル・ダカール市、2009年ルクセンブルク各地、2013年フィリピン・マニラ都市圏)世界的会合を持つ一方で(2013年の会合についての日本語での報告はこちらで)、大陸ごとにネットワークを作っており(ネットワークの全容はこちらで)、大陸ごとの会議も行われていますが、そのRIPESSの行動理念をまとめたものがこの憲章です。なお、同憲章の日本語訳はこちらで公開されています。

 この憲章では前文で、社会変革の手段としての、そして雇用や福祉を生み出す手段としての社会的連帯経済を提示しており、その中には経済の民主化も含まれています。今や大企業が世界の経済のみならず政治さえも牛耳り始め、民主主義の原則が脅かされようとしている状況下で、そのような大企業支配に抗して民主的な運営を推進する社会的連帯経済の重要性が増している、というわけです。

 次にRIPESSの信念が記述されていますが、その中でも大切なのが、「経済により人々が男女を問わずそのニーズおよび大志を充足できる一方で、将来世代がそのニーズを充足できなければならないと信じる」という記述です。持続可能性については、1980年代に国連が作成した持続可能性に関する報告書(ブルントラント・レポート)の中で、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と定義されていますが、当憲章によるこの記述により、あくまでも持続可能な開発の文脈に沿ったものとして社会的連帯経済を位置付けていることがわかります。

 その後、価値観としては以下の11の概念が提示されています。

  • ヒューマニズム: あくまでも人間中心的で、誰もが潜在能力を発揮できるような経済を目指す。言い換えれば、基本的人権を尊重した上で経済活動を行う。当たり前のように思えるかもしれないが、資本主義中心の経済ではこの原則が守られていないことが多々ある。
  • 民主主義: 経済活動においても、あくまでも市民参加に基づいた意思決定を重要視し、生産内容やその方法、利潤の配分や投資などについて、各地域社会が自らの実情を反映した発展を模索できるようにする。
  • 連帯: より公正で民主的かつ平等な社会の構築という共通の目的の下で、連帯経済運動の活動家のみならず、その他の社会運動などとの連携や相互協力を行う。
  • 包摂性: 世界各地の実践例は、それぞれ異なる現実から生まれていることから、自らの価値観を押し付けるのではなく、それら差異を尊重する。
  • 補完性原理: 社会問題などについては、できるだけ小さな単位(地区>市町村>郡・広域圏>都道府県>地方>国)で決定し、その小さな単位では実現できない問題のみをより大きな単位に任せるという考え方で、特にEUでは一般的になっているが、社会的連帯経済でも可能な限り自分たちで問題解決をすることが重要。
  • 多様性: 民族、文化、性アイデンティティなどの面での多様性を尊重。特に、女性や先住民など疎外されがちな人たちの利益を守る。
  • 創造性: 社会変革を実現するためには、限られた資源や地元文化などの所与条件の下で独創的になり、また適切な技術を導入する必要がある。適切な技術とは、現地の経済力や技術力などを考慮した上で、その地域で持続可能な形で運営可能な技術のこと。
  • 持続可能な開発: 持続可能性については前述の通りだが、この点で従来の新自由主義型開発モデルに疑問を呈し、環境や生物多様性を重視。
  • 平等性、公平性そして万人向けの正義: 弱者への差別や弾圧の撲滅を訴えている。
  • 各国および諸国民・民族の尊重および統合: 通常の経済ではどうしても先進国による途上国支配が起きやすいが、RIPESSとしてはこれに反対し、あくまでも平等な立場からの南北交流を推進。
  • 多様で連帯に根差した経済: 規制緩和の下で資本の論理のみで経済を動かす新自由主義経済ではなく、市民の力により規制され、政府が再配分機能もきちんと担う経済の実現。

 その後、RIPESSの使命として「あらゆる経済活動に社会的・倫理的側面を組み込んだ社会的連帯経済の建設および推進」を打ち出しています。ここでは資本に対して労働が、そして金銭的利益に対して個人や地域社会のニーズ充足が優先され、民主的で透明な意思決定や経営が行われ、安定した雇用や生活の質の改善、男女平等などいった効果が生まれます。ビジョンではこのような各種権利や民主的運営についてまとめ、各種ネットワークの形成や交流、反植民地主義や多文化主義、社会的目的を持った企業の育成などのアプローチを紹介した上で、「もう一つの世界は可能だ」という世界社会フォーラムのスローガンを引用して締めくくっています。

 全体的に、基本的人権や参加型民主主義といった、社会運動に取り組んでいる人であればお馴染みの概念を、経済活動の分野に応用したのがRIPESS憲章の内容だと言えるでしょう。世界レベルでの基本的人権の基本条約としては、1948年に採択された世界人権宣言がありますが、この中で差別されない権利(第2条)、安全権(第3条)、奴隷制や苦役からの自由(第4条)、拷問や屈辱的待遇からの自由(第5条)、法の下の平等(第7条)、思想・良心・宗教の自由(第18条)、表現の自由(第19条)、結社の自由(第20条)、労働権・労働組合結成権(第23条)、教育権(第27条)などが規定されています。世界人権宣言自体は法的強制力のあるものではなく、またRIPESS憲章も世界人権宣言に言及はしていませんが、(1948年当時の)国際社会で行われた人権に関する基本合意として世界人権宣言が今でも有効であり、またその内容に沿ってRIPESS憲章も書かれていることは、忘れてはならないでしょう。

 もちろん、日本国憲法との間でもRIPESS憲章は整合性があります。日本国憲法の中の幸福追求権(第13条)、奴隷制や苦役からの自由(第18条)、思想・良心の自由(第19条)、信教の自由(第20条)、集会・結社・言論の自由(第21条)、生存権(第25条)、教育権(第26条)、勤労の権利および児童の酷使の禁止(第27条)、団体交渉権(第28条)などは、RIPESS憲章とも通じる内容のものです。日本国内では社会的連帯経済という概念はまだまだ理解度が低いですが、このように日本国憲法で保証されている基本的人権を尊重した経済活動の推進であることを考えると、RIPESS憲章は日本においてもそれなりに意義のあるものだと言えるでしょう。

 個人的には、国際交流の点で最近生まれつつある、南南協力という枠組みについて解説したいと思います。南南協力は国際協力の一形態ですが、いわゆる先進国が何かと恩着せがましい形で途上国を推進するのではなく、途上国同士で国際協力活動を行うというものです。先進国からの押し付けに嫌気が差している途上国同士で国際協力プログラムを実施する場合、支援元の国も支援先の国の事情がよくわかっているため、より支援先の国のためになる国際協力が可能となります。また、場合によっては支援元の国と支援先の国との間で文化背景を共有していたりするため(特に宗教や言語)、むしろ先進国よりも国際協力のプロジェクトを実施しやすい場合もあるわけです。いずれにしろ、本当の意味で平等なグローバリゼーションを達成するには、先進国を経由せずに途上国同士で直接、特に大陸を超えて交流を深めることが必要です(たとえばインドとブラジル、メキシコと南アフリカ、モロッコとマレーシアのように)。

社会的連帯経済における南南交流の場としても機能している、国際労働機関(ILO)の社会的連帯経済アカデミーのサイト

◀社会的連帯経済における南南交流の場としても機能している国際労働機関(ILO)の社会的連帯経済アカデミーのサイト(画像クリックで当該サイトへ移動)

 国によっては各国の連帯経済ネットワークがこれとは別の憲章を持っているところもありますが(スペインブラジル)、少なくとも世界全体の社会的連帯経済運動を束ねる理念としては、このRIPESS憲章が有効だと言えます。日本でも社会的連帯経済の全国ネットワークを構築する際には、何らかの形で憲章を作ることが大切ではないでしょうか。