この連載でも韓国については断片的な形で何回か取り上げていますが、今回はまとまった形で紹介したいと思います。なお、今回の記事の執筆にあたっては、I-Coopの金亨美(キム・ヒョンミ)さんにご協力をいただきましたので、その旨感謝申し上げたいと思います。なお、彼女の博士論文(日本語)は、こちらで読めます。

 韓国において非常に重要な点としては、1986年の民主化直後に制定された現憲法(1987年制定・公布)の経済の章(第119条~第127条、なお日本国憲法には経済についての規定はない)で、「国は、均衡ある国民経済の成長及び安定並びに適正な所得の分配を維持し、市場の支配及び経済力の濫用を防止し、経済主体間の調和を通じた経済の民主化のため、経済に関する規制及び調整をすることができる」(第119条第2項)と規定されている点です。この章では他にも農業や地域経済、消費者や中小企業の保護・育成が政府の義務として規定されていますが、個人的には「経済の民主化」という表現に注目したいと思います。経済と民主主義は通常別々の分野に属するものとされていますが、憲法上の理念とはいえ、一部の特権階級による独裁的な経済体制ではなく、国民全体が潤うような経済を模索しているということは特筆すべきではないでしょうか。

 韓国における社会的経済の歴史は、日本植民地時代の1920年代に遡ります。当時、政治的のみならず経済的にも日本人による支配を朝鮮人が受ける中で、朝鮮人のための経済を目指し、消費者生協を中心として、その他各種協同組合が結成されましたが、太平洋戦争中の国家総動員体制の中で、当時の朝鮮総督府によりその大部分が解散させられたり、当時の統治体制に組み入れられたりしてしまいました。独立直後に朝鮮戦争が発生して南北分断が固定化され、国土が荒廃しましたが、農村に設立された学校を基盤として、教材関連の消費者生協や信用組合、そして農協の結成に至ったプルム学校(忠清南道)のように、当時結成されたものが現在まで持続しているものもあります。その他、労組や教会関係者などにより結成された組合もありましたが、多くは軍政時代に強制解散させられました。金融面では、1960年代に農村地域で住民がお金を出し合ってマウル(村)金庫運動を始まり、当時の軍事政権によるセマウル(新しい村)運動と提携して広まり、1982年にはセマウル金庫法ができました。また、1960年にはソウルと釜山で信用組合が生まれ、その後主にカトリック教会を中心として信用組合が各地に設立され、1972年には法律が制定されました。

 しかし、韓国で社会的経済の団体が飛躍的発展を遂げるのは、民主化後になり自由な市民活動ができるようになってからです。以下、分野ごとに詳細を見てゆきたいと思います。

 労働者協同組合運動についてですが、今日活発な運動は1990年代にソウル首都圏で創設された自活企業が基盤となっており、1997年の経済危機以前から、建設業や縫製業などの分野で労働者協同組合として運営されています。また、スペインのモンドラゴングループの事例がこの時期に紹介され、それに触発されて韓国でも労働者協同組合運動への関心が生まれ始めました。このような中で国民基礎生活保障法が2000年に制定され、最低生計費以下の収入のない人に対して収入が補填されるようになりましたが、同法では就労可能な低収入者への支援も含まれており、これにより自活企業などで働いている人にも最低限の収入が保証されることになりました。主に医療・福祉、建設業、対人サービス(家事など)および飲食業の分野で、これら自活企業が活動を行っています。さらに2010年にはコミュニティビジネス(食や介護など地域住民の社会的な問題やニーズを解決するために地域住民が作る企業、韓国ではマウル企業と呼ばれる)に対する起業資金の支援や税制優遇などが始まり、これらコミュニティビジネスへの関心も高まっています。

 消費者協同組合については植民地時代から事例はありましたが、現在活発な事例な事例の多くは、都市化が進み中産階層が厚みを増した1980年代以降に生まれたものです。有機農産物を取り扱う消費者協同組合が韓国各地に設立され、日本の生活クラブ生協の事例に学びつつ、消費のみならず生活を総合的に取り扱う生活協同組合として発展しました。1997年の経済危機により全国の生協のうち3分の2が破産しましたが、これを教訓としてそれまでは地域ごとにバラバラだった流通網を統合し、事業連合として規模の経済を達成しています。

 このような中で、協同組合運動にとって大きな前進となったのが、国際協同組合年だった2012年を記念して施行された協同組合基本法(原文(韓国語)、日本語訳)です。協同組合全てを統括するこの法律ができたことにより、5人以上集まればさまざまな分野で活動を行う協同組合が結成可能になり、利益配当を求めず脆弱階層向けの業務を行う協同組合も社会的協同組合として、また協同組合の協同組合も協同組合連合会という形で認定されることになりました。2014年末現在で協同組合が5985組合、社会的協同組合が233組合、そして協同組合連合会が33組合で、合計6251組合が結成されています。

 社会的企業についてですが(社会的企業についてはこの連載の第10回および第24回も参照)、特に1997年に発生した通貨危機の中で、当時英国や米国で盛んになり始めていた取り組みが韓国に紹介され、韓国でも社会的企業が次々に誕生することになりました。2006年には社会的企業育成促進法(原文日本語訳)が可決され、翌年に施行されました(その後2010年に改正)。この法律では社会的企業は「脆弱階層に社会サービス又は仕事場(就労)を提供し地域社会に貢献して地域住民の生活・命の質を高めるなどの社会的目的を追求しながら、財貨及びサービスの生産販売など営業活動をする企業」のうち雇用労働部(日本風にいうなら雇用労働省)の認証を受けたもの(第2条・第7条)と定義されており、他国と違って貧困層向けに格安のサービス(食堂、学習塾、各種福祉サービスなど)を提供する企業も社会的企業とみなされます。この法律の下で韓国社会的企業振興院が創設され、2015年8月現在で1382社が社会的企業に認定されています(一覧リストはこちらで)。なお、社会的企業という名称になっていますが、法人格としては株式会社などである必要はなく、NPOや協同組合なども社会的企業として認証を受けられるようになっています。

 また、経済危機の時期には地域通貨に対する関心も高まり、一時期は韓国各地で地域通貨が導入されましたが、その後活動が衰退したところも少なくありません。現在でも比較的活発に動いている事例としては大田(テジョン)市のハンバンLETSが挙げられます。また、こちらの論文(英語)では、韓国各地の地域通貨の概況に加え、環境保全やオルターナティブの模索など各地域通貨の方向性が紹介されています。

▲動画: ハンバンLETSの活動を紹介したビデオ(日本語字幕付き)

 金融面では、1960年代に農村地域で住民がお金を出し合ってマウル(村)金庫運動を始まり、当時の軍事政権によるセマウル(新しい村)運動と提携して広まり、1982年にはセマウル金庫法ができました。また、1960年にはソウルと釜山で信用組合が生まれ、その後主にカトリック教会を中心として信用組合が各地に設立され、1972年には法律が制定されました。

 さらに注目すべき動きとして、社会的経済基本法が現在審議中であるという点です。この法律については、可決され次第この連載でも改めて取り上げたいと思いますが、自活企業(2000年)>社会的企業(2006年)>コミュニティビジネス(2010年)>協同組合(2012年)という形で少しずつ法整備が進んできた韓国で、ついにこれら各種事例をまとめ上げる社会的経済基本法ができると、現在は部門ごとにバラバラな行政の推進業務が統一され、社会的経済全体の発展により効果的な各種政策が推進可能になるものと期待されます。

2014年のグローバル社会的経済フォーラムで挨拶する朴元淳ソウル市長

◀2014年のグローバル社会的経済フォーラムで挨拶する朴元淳ソウル市長

 また、全国レベルではないですが、ソウル市役所もここ数年、社会的経済の育成に本腰を上げています。市民運動向けシンクタンク希望製作所(韓国日本(希望の種に名称変更))やチャリティショップ「美しい店」(ちなみにこの美しい店が韓国で初めてフェアトレードを実施)などを創設していた朴元淳(パク・ウォンスン)氏が2011年にソウル市長に当選しましたが、市長となった同氏は社会的経済の推進にも積極的で、社会的経済センターを市内に設立して社会的企業や協同組合などの設立支援活動を行ったり、グローバル社会的経済フォーラムを2013年と2014年に同市で開催したり(次回は2016年9月にモントリオール市で開催)しています。

 以上、韓国の状況について簡単に説明しましたが、欧州や中南米の事例と違い、日本語で読める情報も多く、また機械翻訳(たとえばこちらのサービス)を使えば韓国語のサイトやメールも簡単に日本語で読めるようになるため、特に語学が苦手な方は、韓国の動向に注目されてはいかがでしょうか。