今回は、スペイン独自の制度である労働者持株会社(Sociedad laboral)について取り上げたいと思います。

▲労働者持株会社を紹介したエストレマドゥーラ州営テレビの特集(スペイン語)

 労働者持株会社自体は、法人格としては普通の株式会社や有限会社の形態を取りますので、一見資本主義企業のように見えます。しかし、従業員がその会社の資本金の過半数を出資しているため、総会でも従業員が支配的な運営が可能になり、その結果従業員の声がそのまま経営に反映されることになるため、協同組合と似たような運営ができるようになります。特に従業員全員が同じ金額を出資している場合実質上、1株1票という株式会社の論理ではなく、1人1票という協同組合の論理で経営ができることになります。

 また、普通の株式会社や有限会社として創立された企業が、労働者持株会社になる例もあります。会社が倒産したり、あるいは創立者が引退して会社を畳もうとしたりする際に、(元)従業員が株を買い取ったり、出資したりすることでその会社の経営権を取得する場合です。この場合、株式会社や有限会社という以前からの法人格はそのまま残る一方で、労働者持株会社という資格も得られ、それによる各種メリットも手に入るようになります。また、後述するように発行株数や出資金の半数に達しない限り外部からの出資も可能ですから、たとえば創立者本人は引退して株の大半を従業員に売却する一方、残りを創立者本人やその家族が保有するケースでも、労働者持株会社の資格が得られます。この場合創立者家族は純粋な意味の資本家で、出資額に応じて発言権や配当権を保持していますが、特に発言権に関しては労働者が過半数を保有することから、経営権は完全に労働者たちのものとなるのです。

 スペインでは1970年代よりこのような労働者持株会社が存在していましたが、公式に社会的経済の枠組みの中で認識されるようになったのは、1986年に労働者株式会社法が制定されてからです。この法律では、フルタイムの正規従業員が資本金のうち51%以上を出資している株式会社が労働者株式会社(Sociedad Anónima Laboral、略称SAL)と認定され、労働社会保障省(当時: 現在は雇用社会保障省)の管轄に入ることになりました。いかなる株主も25%超の株を持つことが許されない一方で、公共機関が49%までの株を取得することが認められていました(このため、労働者株主が最低3人必要)。労働者が株を手放す場合、会社に通告した上で優先的に別の労働者に売却することになっていました。また、同社に出資していない正規雇用労働者を、従業員全体のうち15%まで(従業員25人未満の企業の場合は25%まで)入れることができました。その一方で、毎年の利益のうち10%を準備金として保留する必要がありました。

 1997年にこの法律が改正され、株式会社のみならず有限会社も労働者持株会社として認定されるようになりました(有限会社の場合の略称はSLL)。出資していない正規雇用労働者の制限は上記の通りですが、人数ではなく労働時間で制限されるようになり、中央政府あるいは州政府の管轄になりました。また、1人による出資額の上限も総額の3分の1まで増額され(3人が同額出資して、そのうち2人のみが労働者の場合も該当)、労働者による出資金の割合も51%から過半数に変更されたため、たとえば50.001%しか労働者が出資していない企業であっても労働者持株会社に認定されることになりました。さらに、行政機関のみならず、NPO(スペインではアソシアシオンと呼ばれる)など非営利団体による出資も認められるようになりました。

 さらに、今年(2015年)の10月に可決され、11月15日に施行された新法では、労働者持株会社に加えて労働者参加会社(Sociedad participada por los trabajadores)という新しい概念も認定されました。この法改正により、労働者2人が同額を出資した会社や、協同組合など非営利ではない社会的企業の団体が出資した会社、また出資していない労働者の労働時間が49%未満の会社も労働者持株会社に認定されることになり、また労働者持株会社の要件をみなしていないものの、労働者が資本面で、また総会に参加しており、そのような参加を促す企業が、労働者参加会社という資格を得ることになりました。

 労働者協同組合と労働者持株会社および労働者参加会社は似ている点もありますが、いくつか違いもあります。その点についていくつか指摘したいと思います。

  • 適用法: 労働者協同組合には協同組合法(全国法あるいは州法)が提供されるが、労働者持株会社や労働者参加会社については通常の商法に加え(株式会社や有限会社として)、先ほどの2015年法が適用される。以下、労働者協同組合については原則的に全国法の規定を紹介。
  • 法人登記: 労働者協同組合の場合は中央政府あるいは州政府の協同組合登記所で登記すれば完了だが、労働者持株会社の場合、株式会社あるいは有限会社としての法人登記を行ってから、労働者持株会社登記所で別に登記をする必要がある。
  • 資本構成: 労働者協同組合の場合には資本金を全額その組合員が出す必要があるが、労働者持株会社の場合には49%まで外部資本の参加が認められる。また、労働者参加会社については外部資本の割合は制限がない。
  • 非組合員による労働時間の割合: 労働者協同組合は基本的に30%までだが、労働者持株会社の場合は49%まで認められる。また、労働者参加会社については特に制限がない。
  • 資本金最低要件: 労働者協同組合の場合には特に必要要件はないが(3000ユーロ必要な州法もある)、労働者持株会社あるいは参加会社の場合、株式会社あるいは有限会社としての要件が適用されるため、株式会社の場合には6万ユーロ、有限会社の場合には3000ユーロが必要となる。
  • 最低賃金: 労働者協同組合の組合員の場合、基本的に自営業者となるので最低賃金が適用されないが、労働者持株会社あるいは参加会社の場合、最低賃金が適用される(2015年現在、月給648.40ユーロ)。
  • 発言権: 労働者協同組合の場合、基本的に出資額に関わらず1人1票だが、労働者持株会社や労働者参加会社の場合には出資金に応じて発言権を増減できる。
  • 利潤配分: 協同組合の場合は基本的に、各組合員の貢献度(労働時間など)に応じて利潤配分するが、労働者持株会社や労働者参加会社の場合、所定の賃金を払った上で残った利潤は、出資額に応じて配当することになる。
  • 出資金を引き下ろす場合: 労働者協同組合の場合、基本的に拠出額に金利を加えた額しか戻ってこないが、労働者持株会社の場合、その株価が上がればそれだけ労働者の資産も増えることになる。

 スペインではこれら労働者持株会社の全国組織として CONFESAL(労働者持株会社企業連合)が存在し、行政との折衝やその他の社会的経済団体との協力、また国内各地の労働者持株会社向けの研修などを行っています。また、社会的経済の一員とみなされることから(社会的経済法の第5条で定義されている)、税務上など各種便益を受けることができます。

労働者持株会社企業連合のサイト

◀労働者持株会社企業連合のサイト

 労働者協同組合でさえ適切な法人格がない日本では、労働者持株会社という制度を創設することは、まだまだ時期尚早に思えるかも知れません。しかし、日本にも従業員持株制度が存在し、特にオーナー経営者の経営権を侵害しない範囲で株式を従業員に発行する会社が少なくありません。これをもう一歩進めて、オーナー経営者が経営権を従業員に譲渡した労働者持株会社を法制度化する可能性について、日本社会で幅広く議論すると、社会的連帯経済への理解が深まるのではないでしょうか。