廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第76回

共済組合について

 共済組合は私たちの普段の生活ではそれほど話題にはなりませんが、協同組合やNPO、そして財団と同様、社会的経済の立派な一員です。今回は、この共済組合に焦点を当ててみたいと思います。なお、今回の記事の作成にあたっては、「フランスの共済組合」(Jean Benhamou, Aliette Levecque, 1983)の日本語訳を参照しましたので、ここでご紹介しておきたいと思います。

 社会的経済のその他の団体同様、共済組合もそのルーツは19世紀に遡ります。当時は保険制度についてもまだまだ未発達で、労働者が病気になってもわずかな給料からその治療費を自分で払う必要がありましたが、そのような保険を労働者たちの手で自ら作り非営利組織として運営することで、できるだけ安くサービスを提供しようとしたわけです。民間企業により営利目的で運営される保険の場合、その企業の儲けが重視される一方、保険金の支払い基準を厳しくしたりするなど利益第一主義の運営になりがちですが、共済組合の場合には利益が出た場合、すなわち出資者である組合員の掛け金全てを保険金として払い戻す必要がなかった場合、そのぶんだけ組合員に返還したり、翌年度の掛け金を減らしたりすることができるため、そのぶんだけ被保険者が得をすると言えます。その後各国政府による保険制度が整備されてゆきましたが、これら公的保険を補完する役割を持った共済組合は、日本を含む世界各国において、現在に至るまで存在しています。

 共済組合には、協同組合やNPOといった他の社会的経済の団体と共通点があります。まず、保険金を支払うことで誰でも組合員になれるという点ですが、これは出資金さえ出せば誰でも組合員になれる協同組合と共通しています。また、組合員になりさえすれば総会に参加して投票する権利が得られる点も協同組合と共通していますが、実際には数十万人から数百万人規模に達する組合員が一堂に会して総会を行うのは不可能なので、組合員代表を選んだうえで、代表のみが集まる形で総会が開催されます。さらに、共済組合は非営利ですが、これは当然ながらNPOと共通していることになります。まとめると、組合員でもある被保険者の、被保険者による、被保険者のための保険制度が共済組合だと言えるわけです。

 共済組合という形で登場するのは19世紀になってからですが、歴史を紐解くと、それ以前にも同様の理念で運営された団体が存在したことが判ります。古代においては神殿などの建設作業は今と比べてもはるかに多大な危険を伴うものでしたが、この危険に対処すべく現在の共済組合に近いものが存在しており、中世ヨーロッパのギルドや信徒会でも共済事業が行われていました。

 また、歴史的にはこのような共済事業は、日本の頼母子講や無尽と同じルーツを持っていると言え、これらを通じて旧相互銀行系のさまざまな金融機関が誕生しています。頼母子講や無尽についてご存じのない方について説明すると、地域住民や草野球チームなどお互いに信頼できる人間同士の間で定期的に集まって、たとえば5000円なり1万円なりのお金を出し、そこにいる人たちの間で順繰りに、あるいは必要に応じてそのお金を持ってゆくというものです。25人のグループで毎月集まり、毎月1万円ずつ出し合うことにした場合、ほぼ2年に1回の割合で25万円が手に入ることになり、このお金を使って古くなっていた電化製品を買いなおしたり、下宿生となった子どもの学費を払うのに使ったりすることができます。現在でも日本各地で頼母子講や無尽は信頼のおける仲間同士で行われており、また無尽会社としては日本で唯一残る日本住宅無尽株式会社が、この無尽のやり方を応用して住宅供給を行っています。

 フランスでは1789年のフランス革命により、それまではカトリック教会が担っていた救貧や医療といった活動が全て国家の責任となり、また伝統的なギルドが廃止されましたが、1848年に始まった第2共和政において市民の結社が認められるようになると雨後のタケノコのように次々と設立され、1870年には5788団体もの共済組合が存在していました。1898年には共済組合法が施行され、これによりそれまでは法的に不明確だった共済組合の立場が明確に定義されるようになりました。第2次大戦後に国家による各種社会保障制度が充実しますが、共済組合はその規模を保ち続けてきました。また、常に労働者とのつながりを保ち続け、労働者のための保険提供団体という姿勢を明確にして、社会的経済全体においても大きな存在感を発揮しています。

 フランスの共済組合の中で有名なのは、フランス学校教員保険相互会社(MAIF)フランス職人保険相互会社(MAAF)フランス商工業業者保険相互会社(MACIF)および共済労働者保険相互会社(MATMUT)で、保険相互会社(相互会社についての詳細は後述)と呼ばれるこれらは、生命保険のみならず自動車保険や火災保険、傷害保険なども幅広く手掛けており、10億ユーロ以上の売上高を誇っています。特にMACIFは社会的連帯経済関係のイベントの協賛にも積極的で、フランスで行われる関連イベントに参加すると同社のロゴマークを目にすることも少なくありません。このほか、MSAなど農業共済組合も存在しており、これら共済組合の大部分がフランス全国共済組合連合に加盟しています。

フランス商工業業者保険相互会社(MACIF)のロゴ

◀フランス商工業業者保険相互会社(MACIF)のロゴ

 日本でも、大手保険会社の中には制度上、相互会社として運営されているものがあります。具体的には日本生命住友生命明治安田生命富国生命朝日生命の5社で、これらの会社で保険契約を結ぶと社員になることができます(従業員については職員と呼ばれる)。また、各社のサイトでも相互会社についての説明が行われており(日本生命住友生命明治安田生命富国生命朝日生命)、あくまでも株式会社とは違い、社員=被保険人のための経営を行っていることが強調されています。また、大手生命保険会社4社のうちに相互会社3社がランキングしており(日本生命、住友生命、明治安田生命)、保険業における相互会社の重要性が理解できるでしょう。

 とはいえ、これら5社はそれぞれ旧財閥系のグループに所属しており(日本生命は三和グループ、住友生命は住友グループ、残りの3社はみずほグループ)、その意味では社会的経済の担い手としてはあまり適切ではないと言えます。また、以前はこれ以外にも相互会社がありましたが、外部資本の受け入れにより事業拡大を目指すべく株式会社化したりして、現在では5社にまでその数が減っています。さらに、フランスの相互会社組合と比べてみても、前述したフランスの保険相互会社は教員や商工業者、農民などによる社会運動として創立・発展してきたのに対し、日本の相互会社は財界人によって設立されており、社会運動としての側面が弱い点が挙げられます。

 しかし、日本においてもフランスのように、実際の運営においてより社会的経済に近い共済組合が存在します。日本には共済組合全てを管轄する法律が存在しないことから、実際には農業協同組合法(JA共済)や消費生活協同組合法(全国労働者共済生活協同組合連合会(全労済)コープ共済など)のような協同組合として、あるいは特別法による制度として(農業共済中小企業退職金共済、国家公務員や地方公務員向けの共済組合など)運営されています。

全労済のサイト

◀全労済のサイト

 保険というと、実際に病気や事故などといったトラブルに巻き込まれない限り日常生活ではあまり意識しないものですが、いざという際には何かと頼りになるものです。最近の日本では外資を含む保険株式会社との競争が激しくなっていますが、社会的経済系の保険業者である共済組合には、その理念をより多くの人に伝え、安心できる保険の運用を続けてもらいたいものです。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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