社会的連帯経済は、利益のみならず人や地球環境も配慮した経済活動を目指していますが、このような経済活動を考える上で非常に参考になるのが、世界人権宣言や持続可能な開発目標です。世界人権宣言との関係についてはRIPESS憲章の紹介の際に取り上げたので、今回は持続可能な開発目標について見てゆきたいと思います。

 RIPESS憲章についておさらいすると、社会的連帯経済分野での世界的ネットワークであるRIPESSが南米ウルグアイの首都モンテビデオで2008年に採択したものですが、ここでは「ヒューマニズム」、「民主主義」、「連帯」、「包摂性」、「補完性原理」、「多様性」、「創造性」、「持続可能な開発」、「平等性・公平性そして万人向けの正義」、「各国および諸国民・民族の尊重および統合」、そして「多様で連帯に根差した経済」という11の理念がうたわれています。この11の理念の一つとして持続可能な開発がすでに含まれているため、RIPESS検証と持続可能な開発目標との間にはある程度の親和性があることは想像に難くありませんが、具体的にどのような親和性があるかについて把握するべく、持続可能な開発目標について見てみることにしましょう。

 その前に、持続可能な開発目標が制定された背景を紹介しましょう。2000年に国連では、2015年にまでに達成すべきミレニアム開発目標として「極度の貧困と飢餓の撲滅」、「普遍的な初等教育の達成」、「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」、「乳幼児死亡率の削減」、「妊産婦の健康の改善」、「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病のまん延防止」、「環境の持続可能性を確保」そして「開発のためのグローバルなパートナーシップの推進」というという8つの目標が採択されました(詳細は国連開発計画のサイト(日本語)で)。2015年になり、改善がみられた分野もあるものの、全体としてはまだまだ開発目標全ての達成にほど遠いということで、2030年に向けた新たな目標として国連総会で採択されたのがここで紹介する持続可能な開発目標で、以下の17分野から構成されています(詳細は国際連合広報センターのサイトで)。また、採択された文書の全文は、こちらで読めます(英語日本語)。

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と構成をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

▼持続可能な開発目標一覧

持続可能な開発目標一覧

 これら17の目標のうち、1〜6は人間としての尊厳のある最低限度の生活水準の達成という枠組みでまとめられます。また、7に加え11〜15は環境保護や天然資源の有効利用という枠組みでまとめられます。そして残りの8〜10や17は、これら生活水準を達成するために必要な経済構造を世界中で実現するための協力体制作りであると言えるでしょう。この17の目標の中でさまざまな項目が設定されていますが、その中で直接連帯経済に関係する項目を以下取り上げたいと思います。

▼南米ペルーの砂漠地帯で、網を活用して飲料水や農業用水を得ている事例

  • 「適正な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービス」(目標1.4): 適正な新技術という表現は見慣れない表現ですが、これは単に最先端であるだけではなく、現地で十分維持管理が可能な技術であるという点を指します。先進国から最新鋭の機械を途上国に導入しても、その機械をメンテナンスできる技術者がいなかったり、交換部品を購入するだけのお金がなかったりしたら、遅かれ早かれ機械は粗大ゴミになってしまい、せっかくの援助が台無しになってしまいます。そうではなく、たとえば乾燥地帯でも空気、特に霧の水分を網でキャッチして飲料水や農業用水を作り出す技術の場合、メンテナンスも簡単で、現地の人たちの生活水準の長期的な向上に対応しており、より適切な技術だといえます。また、マイクロファイナンスの重要性は、グラミン銀行(バングラデシュ)の事例でおわかりかと思います。
  • 「女性、先住民、家族農家、牧畜民および漁業者をはじめとする小規模食糧生産者の農業生産性および所得を倍増」(目標2.3): 大規模農園ではなく、小規模農民の支援をうたっていますが、これはまさに連帯経済支援だと言えるでしょう。
  • 「世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる」(目標7.2): 社会的連帯経済は当然ながら再生可能エネルギーと親和性が高いですが、この開発目標でもその方向性が示されています。
  • 「金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する」(目標8.3): これは連帯経済のみをターゲットにしたものではありませんが、連帯経済の事業は多くの場合中小零細企業であるため、これに該当すると言えます。
  • 「雇用創出、地方の文化振興、産品販促につながる持続可能な観光業」(目標8.9): 大手資本のホテルや旅行代理店だけが潤う観光ではなく、現地の普通の人たちの生活向上につながる観光に焦点を当てていますが、まさにこれは連帯観光のアプローチです。

 また、社会的連帯経済を直接推進するわけではないものの、側面支援としてさまざまな項目が提案されています。

  • 貧困や飢餓の撲滅(目標1・2): 特に満足な食事を得られない状況では仕事に集中できず、それゆえ満足な食事を得られるだけの収入を得られないという悪循環に陥りますが(まさに「貧すりゃ鈍する、鈍すりゃ貧する」)、この悪循環を断ち切る必要があるわけです。
  • 健康や教育の向上、良質で安価な水の確保(目標3・4・6): 良質の仕事を行うためには、健康や適切な教育が欠かせないので、そのための努力を各国政府などに求めています。また、健康の維持には良質で安価な水の確保も欠かせず、そのためには責任のある公的管理が必要になります。上水道を民営化して貧困層への水供給を絶つなど、論外です。
  • ジェンダー面での向上(目標5): 男性と比べて弱い立場の女性を守る各種政策の必要性が掲げられています。
  • 海や陸の自然保護(目標14・15): 持続可能な漁業や農業の実現、汚染防止や森林保護・砂漠化防止や緑化などの取り組みが掲げられています。
  • グローバル・パートナーシップの強化(目標17): 途上国の生活水準の改善のために各種国際協力プログラムが実施されることになりますが、途上国側のパートナーとして協同組合など連帯経済関係団体が選ばれることも少なくないので、この点は見逃すわけにはいきません。

 このように、持続可能な開発目標は、社会的連帯経済にとりわけ焦点を当てたものではありませんが、特に間接的な形で社会的連帯経済の掲げる目標の実現を目指していることから、社会的連帯経済との間での親和性は非常に高いと言えます。特に持続可能な農業や天然資源の管理、満足できる水準の衣食住や教育・医療、男女平等などの面で、途上国のみならず日本を含む先進国でも、持続可能な開発目標の実現により社会的連帯経済が受ける恩恵は少なくないことでしょう。

 この持続可能な開発目標は、実質上世界どこの国においても適用されるものであるという点で、重要なものです。世界の特定の国あるいは地域連合が採択した宣言の場合、採択国以外には関係ないものとして割り切ることもできますが、持続可能な開発目標は国連で採択されたものであるため、少なくとも国連加盟国全て(言い換えれば世界のほぼ全ての国)において一定の影響を与えることになります。もちろん持続可能な開発目標はあくまでも国際的な目標であり、達成できなかった国や企業などに対して罰則が科せられるわけではありませんが、それでもさまざまな開発プロジェクトを立案する際に、この開発目標を気に留める必要があるわけです。

 持続可能な開発目標というと、途上国の生活水準の底上げだけを目標としたものに思われがちですが、日本を含む先進諸国もクリアすべき課題が数多く提示されています。宇宙船地球号の一員である日本も、持続可能な開発目標の達成に向けて本腰を入れて、それにより社会的連帯経済が描くビジョンの実現のために邁進するべきではないでしょうか。