2013年1月に始まり、月2回のペースで続けてきた連載ですが、今回めでたく第100回を迎えることになりました。まだまだ社会的連帯経済については世界各地で様々な情報があるので、この連載を通じて今後も日本の読者の皆さんに多種多様な実例や理論などを紹介してゆきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

 さて、前々回(第98回)および前回(第99回)は、バルセロナ市役所(スペイン)やソウル市役所(韓国)による社会的連帯経済の推進のための各種公共政策について紹介してきましたが、今回は国連社会開発研究所(UNRISD)が最近発表したフラッグシップレポート2016年版の第4章として発表された、社会的連帯経済関連の公共政策についてのパンフレットを紹介したいと思います。なお、今回の記事と合わせて、以下の過去ログもご覧いただければ幸いです。

同パンフレットの表紙

▲同パンフレットの表紙

 この連載の第93回持続可能な開発目標と社会的連帯経済との関係について紹介しましたが、持続可能な開発目標が国連で制定されたものである関係もあり、このパンフレットでもまずその関係が言及されています。具体的には、以下の持続可能な開発目標の実施に関して言及されています。

  • 1. 貧困をなくそう
  • 5. ジェンダー平等を実現しよう
  • 8. 働きがいも経済成長も
  • 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 10. 人や国の不平等をなくそう
  • 12. つくる責任つかう責任
  • 16. 平和と構成をすべての人に
  • 17. パートナーシップで目標を達成しよう

持続可能な開発目標の17項目

▲持続可能な開発目標の17項目

 この報告書は、まず結論として以下の3点を強調しています。

  • 政府は、社会的連帯経済の推進において主要な役割を果たせる可能性がある。そのためには、法律から通常の経済社会政策、開発計画、特定のグループや分野を対象としたプログラム、そして専門の機関といった一連のツールが必要となる。
  • しかしその実現には、リソース面での制約のみならず、1) 政策立案上での社会的連帯経済の阻害、2) 経済・社会発展における社会的連帯経済の役割に関する偏狭な理解、そして3) マクロ経済や投資、貿易そして税制に関連した矛盾といった制約が立ちはだかっている。
  • 政府の支援が社会的連帯経済の規模拡大においてその役割を果たす可能性がある一方、その社会変革の能力を削ぐ可能性もある。制約および矛盾を特定したり修正したりするうえで、モニタリングや評価が重要な役割を果たす。社会的連帯経済の担い手と中間組織が積極的に政策をデザイン・実施するパートナーシップおよび参加が、これら制約の克服において欠かせない。これら協働を推進・制度化するフォーラムを創設および強化する必要がある。

 このパンフレットでは、まず世界における社会的連帯経済の認識の違いの紹介から始まります。アジアや欧州では社会的目的を持った企業やNGOがメインであり、アフリカでは地域社会組織や協同組合の存在感が大きい一方、中南米では社会運動や左翼政党とのつながり、そして資本主義へのオルターナティブとしての色合いが強いことが力説されています。社会的連帯経済の存在感が大きい地域として、ケベック州(カナダ)、エミリア・ロマーニャ州(イタリア)、バスク州(スペイン)、グジャラート州・ケーララ州(インド)、そして江原道(韓国)が挙げられています。また、途上国では生産者による労働者協同組合の事例が多い一方、先進国では消費者や社会的起業家などによる事例が多いことも強調されています。

 とはいえ、社会的連帯経済にバラ色の幻想を求めるのは禁物です。社会的連帯経済といっても、組織によってその能力は大きく異なり、識字率や教育水準が低い地域では社会参加そのものが困難な場合も少なくありません。また、事例が大きくなるとソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が弱くなり、また資本主義企業との競争の中で協同組合の経営も資本主義企業のものと似たようになりがちで、民主的な意思決定は往々にして組織運営におけるスピードやイノベーションを制限しがちです。さらに、通常の資本主義企業ほど利益志向が強くないため、外部からの資金提供を活用した生産活動の成長が阻害され、資本集約的な産業には向かない一方、環境保護や地域社会の発展などには社会的連帯経済の諸事例のほうが向いていることが強調されています。

 また、政府による支援は、社会的連帯経済の成長を促す一方で、政府と社会的連帯経済セクターとの癒着、透明性や説明責任、政府依存や政府による下請け化などの問題も引き起こすため、両刃の剣であるとも指摘されています。このような状況を踏まえたうえで、基本的に国レベルで実施可能な諸政策が紹介されてゆきます。

 政府による社会的連帯経済支援のための諸政策は、規模拡大、能力形成および政府の意思決定への参加といった面で効果があり、そのための具体的な政策としては融資、インフラへの投資、公共調達、補助金、税制優遇、商品のプロモーション、統計や市場情報の提供、技術支援、研修や教育などに関連した労働市場政策、社会的支援や社会保障が挙げられ、農村においては農地関連の諸政策もこれに含まれます。社会的連帯経済全体を包括的に推進する政策を立案している国はそれほど多くありませんが、たとえばマリでは2014~2018年にかけての5か年計画が策定されており、エクアドルでは民衆連帯経済というコンセプトのもとで民衆連帯経済監督局が、フェアトレードや零細農家の市場へのアクセスの改善など各種推進政策を行っています。とはいえ、特に中南米では1) 単なる社会的支援を超えた政策の必要性、2) 縦割り行政の弊害を克服する必要性、3) 市区町村から国際レベルにまで広がる政策の調整、4) トップダウン型ではなくより市民参加型の政策立案、そして5) 全国画一ではなく州や市町村ごとに見合った政策立案、が課題であると示されています。実際、政府ではなく州や市町村レベルでは、前述の州に加えてコロンビアのボゴタ市、メデジン市やカリ市などの主要都市で推進政策が行われています。

 また、持続可能な開発目標の前身であるミレニアム開発目標(2000~2015年)の時代から、その達成の手段として社会的連帯経済が注目されてきた例として、アルゼンチンにおけるマノス・ア・ラ・オブラアルヘンティナ・トラバハによる雇用創出、ケニアにおける若者起業開発基金による起業促進、ルワンダにおけるウブデヘと呼ばれるもやい組織によるコミュニティ医療保険組織、さらにはインド・ケララ州におけるクドゥンバシュリーやニカラグアのアンブレ・セロといったプログラムによる女性支援などが挙げられます。

 日本の場合、NPOセクターに限れば主に大都市や都道府県のレベルで各種支援政策が実施されていますが、第73回の記事でも書いた通り、社会的連帯経済という枠組みが全くといってよいほど知られていない現状では、まず社会認識の枠組みを変えてゆく必要があります。NPOを推進すること自体は結構なことですが、その裏には「利潤を追求できる分野についてはあくまでも営利企業の領域として守った上で、儲からない部分だけをNPOに任せよう」という資本主義的な論理がありますので、社会的連帯経済を推進する場合には、「利潤が出るからといって資本主義企業に任せる必要はない。むしろ、労働者や消費者などが自主運営することで、経済活動における民主的運営の可能性を広げてゆこう」という、哲学面での切り替えを忘れてはなりません。

 また、社会的連帯経済の推進が比較的うまく行っている国では、行政側だけが一方的に支援を行うのではなく、業界側でも連合会を作り、その支援を受け入れたり、逆に行政に向けて政策を提言したりしている場合が少なくありません。スペインの社会的経済スペイン企業連合(CEPES・セペス)オルターナティブ連帯経済ネットワークのネットワーク(REAS・レアス)、それにブラジル連帯経済フォーラムに代表されるような業界組織がしっかりしているところでは、政府としても社会的連帯経済関連の政策を運営しやすくなります。日本でも同様の組織づくりの動きが少しずつ始まっているようですが、韓国でいうところの「生態系」を構築することが欠かせないと言えるでしょう。