最近、社会的連帯経済促進関連の公共政策についての記事が数多く刊行されたことから、この連載でもそのような公共政策を紹介する機会が増えていますが、今回は分野別、具体的にはフェアトレードにおいて、南米3か国(ブラジル、エクアドル、コロンビア)で実践されている諸政策をまとめた報告書の内容をご紹介しましょう。

報告書の表紙

◁報告書の表紙

 ブラジルの連帯経済関連の政策についてはすでに第44回第45回で紹介しましたが、同国では大統領令7358/2010により、全国公正連帯取引システム(SCJS)と呼ばれるシステムが創設されています。連帯経済については以前も紹介した通り、雇用労働省内にある連帯経済局が推進しており、フェアトレードについてはこれに加えて農業開発省や連帯経済全国評議会(CNES)も参加していますが、このようなさまざまな枠組みの中で、(i) 特に消費者への直販において、連帯組織による製品およびサービスのプロモーションおよび普及、(ii) 経済協力ネットワークおよび生産チェーン内における連帯協力に向けられた、社会経済的プロジェクトへの支援、そして(iii) 公正と連帯を基盤とした販売の実践例を全国規模で認定および推進するシステムの開発といった3つの軸を中心にして、以下のようなさまざまな政策が提唱・実践されています。現在ブラジル全国で339ものプロジェクトが実践されており(予算5億4100万レアル=約198億円)、10800事業に携わる275000名がその恩恵を受けています。

  • 「雇用と市民権」プログラム(雇用と収入の創設手段としてフェアトレードを位置づけ)
  • 連帯経済見本市への支援
  • 生産チェーン作り(例: フェアトレードの肥料を使って綿を作り、その綿からフェアトレードの精神でTシャツを作る)
  • フェアトレードの実践団体の把握のための調査
  • 地域開発のプログラムに統合した形でのフェアトレードの推進
  • 女性、最貧層、脆弱層や先住民・アフリカ系ブラジル人コミュニティの社会包摂
  • 販売網の強化
  • 連帯経済系の融資手法を最大活用してフェアトレード事業への融資を強化
  • 零細家族農業への支援(給食の食材のうち3割をこれら家族農家から仕入れることを法律で義務付け)

 次にエクアドルですが、2008年に採択された現憲法(この憲法でブエン・ビビールという概念が提唱されたことについての詳細は第97回連載記事で)でフェアトレードや連帯経済が取り上げられていることから、政府としても必然的にフェアトレードの推進に積極的になっていますが、以下のような問題が存在しており、これらの問題解決に政府が取り組む必要性が示されています。

  • 法的枠組みや監督・支援体制の欠如: フェアトレードについての具体的な定義や認定基準が存在せず、監督官庁もはっきりしないため、政策を実現しにくい。
  • 販売網・市場: フェアトレードの商品を輸出するにはそれなりの生産・流通体制が必要だが、零細農家のネットワークはまだそれを実現できる体制になっていない(製品のデザインや質、カタログ作成や英語での販売体制が不十分)。
  • 生産性や技術水準の低さ: 所得に余裕のない零細農家は生産への十分な投資ができず、必然的に生産性が下がる。
  • 組織運営のまずさ: 規模の経済を達成できず、農民自体が販売網形成にきちんと取り組んでいない。
  • 消費: これは零細事業者に限ったことではないが、エクアドル国内の消費者にフェアトレードの概念が伝わっていない。

 このような状況を踏まえ、同国では憲法や各種法律で連帯経済の推進が規定されている一方、零細協同組合などがあまりにも零細すぎて、そのような規定を守るだけの余裕がない点、また各種政策の主な成果が連帯経済の実態に関する情報収集や規制体制の確立にとどまっている点が指摘されています。しかし、生産能力の引き上げ、国内外の市場開拓および融資を柱としたフェアトレード強化全国メカニズムが2015年11月に実施され、生産設備の改善、直販市の開催、獲得が困難な第三者認証にかわる認証制度の実施、フェアトレード商品の公共調達、国外市場向けの研修、国外での有機食品やフェアトレード見本市への参加などが実施されています。これらの努力の成果もあり、エクアドルからの連帯経済関連商品の輸出量が、2010年の61千トン、5700万ドルから2015年の534千トン、3億0100万ドルへの大幅に増えています(バナナやカフェ、そして花など)。

 上記の2か国と比べた場合、コロンビアには社会的連帯経済を管轄する法制度は存在していません。同国ではフェアトレード団体は各種社会組織と密接な関係があり、また同国特有の事情として、FARCと呼ばれる反政府ゲリラと政府との間での和平合意の調印を受けて、元兵士の社会復帰の手段としてもフェアトレードが注目されています。また、社会的連帯経済そのものに直接対処する法制度はないものの、その推進に活用可能な法制度は数多く存在していることから、社会的連帯経済の推進政策も、そのような既存の法制度(協同組合や家庭農業、能力開発など)の枠組みを活用したものとなっています。また、首都ボゴタ市(近郊農業支援)や第2の規模を誇るメデジン市(フェアトレード中心)では、市役所レベルで連帯経済の推進が進んでおり、ボゴタ市では農民市が開催されています。

▲ボゴタ市での農民市の様子

 さらに、以下のプロセスを通じた政策立案が重要であることも指摘されています。

  1. 公共政策を通じて対処すべきニーズや問題の把握
  2. 地域社会内でのニーズの調整
  3. 公共政策の参加型策定
  4. 議員との技術的調整
  5. 予算調達のための調整
  6. 立法府での作業
  7. 地域開発計画策定への連帯経済の組み込み
  8. 政策に関する評価、フィードバックや再調整

 フェアトレードにおける課題が山積していることがおわかりかと思います。特にエクアドル政府が挙げた柱のうち、以下の3点について詳しく見てみたいと思います。

  • 生産者支援: これらの国にもさまざまな規模の農家がいますが、大規模農家の場合には規模の経済により各種機械の導入などで効率が高まり、利益性が高いためにフェアトレードの認証のために必要な手続きも比較的行いやすい一方、零細農家の場合にはそもそもそのような資金的余裕がなく、生産設備の改善や認証取得を行えないというハンデを背負っており、このあたりの改善に取り組んでいるわけです。
  • 国内市場開拓: これらの国でも大半の人たちは都市に住んでいるため、潜在的には自国内の都市住民、特に中間層以上で比較的所得に余裕のある層には、フェアトレードの商品を受け入れてもらえる可能性があります。しかし、必然的に通常の商品と比べて値段が高くなりがちなフェアトレードの商品を買ってもらうためには、その値段に見合う付加価値を提供しなければなりません。マーケティングの世界でよく使われる全米マーケティング協会の定義「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセス」に従うなら、国内の都市住民が認識できるフェアトレードの商品に付加価値を提供する必要がありますが、そのためには単に商品を宣伝するだけではなく、たとえば零細農家を集めて協同組合を創設したり、適切な流通網を構築して手頃な価格でこれら商品が買えるようにしたりする必要もあるでしょう。
  • 国外市場開拓: 基本的に欧米など遠隔地の市場を対象とするため、輸出入に関する規制への対策や、商品を輸入してくれる業者との関係構築など、国内市場の開拓以上の困難がつきまといます。有機食品やフェアトレードなどの分野では国際的なネットワークが確立しており、世界各地でさまざまな見本市も開催されていますので、このような資源を活用して輸出先を増やす必要があります。そしてもちろん、零細農家自体が直接輸出を行うことは不可能に近いため、協同組合を設立して輸出しやすい体制を構築することも欠かせません。

 フェアトレードは確実に成長を続けている分野であるため、今後さらなる発展を期待したいと思います。