今年の6月末に、韓国はソウル市内で社会的連帯経済に関するILOのアカデミーが開催されましたが、それを記念する形でILO側でも韓国における社会的連帯経済についての報告書(英語)を刊行しましたので、今回はこの報告書を取り上げたいと思います。

ILOの報告書の表紙

◁ILOの報告書の表紙

 「社会的連帯経済に向けた公共政策: 好ましい環境に向けて 大韓民国の場合」と題されたこの報告書は、2008年に発表したより公平なグローバリゼーションのための社会正義に関するILO宣言の中で、「生産的で利益が出て持続可能な企業は、強力な社会的経済および実現可能な公共部門とともに、持続可能な経済成長および雇用の機会にとって欠かせない」とうたわれていることを示すことから始まります。

 韓国では最近社会的経済関係の公共政策が充実していますが、それら社会的経済のルーツとして、トゥレ(두레、日本のもやいに相当)あるいはケ(契、계、日本の頼母子講に相当)と呼ばれる相互扶助の制度が昔から同国の農村部に存在していたことが挙げられています。もちろん当時は社会的連帯経済という概念は存在しませんでしたが、このような慣習は社会的連帯経済の精神に通じると言ってかまわないでしょう。協同組合については日本植民地時代にも創設されていましたが、現存する協同組合はほぼ全てが独立後に生まれたものです(詳細は第68回の記事を参照)。協同組合に関しては、韓国でも日本同様、分野ごとに別々の法律が制定されていました(1957年に農協と農協銀行法が、1961年に林業組合法および農協と農協銀行の合併法が、1962年に漁協法が、1972年に信用組合法が、1980年に畜産協同組合法が、1982年に韓国地域信用組合連合法が、そして1999年に消費者協同組合法が)。ただ、これらの法律は実際にあった取り組みを法的な枠組みの中に取り込むことを目的としており、実際にはこれらの法律が成立する以前から、信用組合や消費者協同組合は存在していました。2014年末現在では4798組合が存在し(地域信用組合1372組合、農協1155組合、中小企業連合939団体、信用組合920団体、消費者組合177団体)、組合員数は合計で2797万人となっています。

 とはいえ、特に韓国においては、社会的経済の定義が近年まであいまいなままで、関係者の間でも概念定義について合意ができていない状態です。社会的企業や協同組合、コミュニティビジネスやNGOなどを包括するものという漠然とした合意はあるものの、現在に至るまで社会的経済について明確に定義した公的な規定は存在していません。2014年に当時の与野党が社会的経済基本法の法案を韓国国会に提出しましたが、その法律の目的については違いがあります。

  • 与党側の目的の定義: 「社会的経済の持続的な発展に必要な包括的生態系および総合的な政策実施システムを構築し、その結果社会的経済組織の創設および経営に向けてサポートを提供し、貧富の格差の克服を目的として雇用を創出し、地域社会の健全性を高め、韓国経済の調和のとれた成長を保証する。
  • 野党側の目的の定義: 「韓国経済の調和のとれた成長および国民共同体の発展への社会的経済の貢献を認識し、社会的経済の基本原則に関する法的な共通基盤を提供して、これにより社会的経済の組織間での協力および連帯を促進し、中央政府および地方自治体との間での官民パートナーシップを含む効果的な政策実施システムを作成することにより、社会的経済にとって持続可能な生態系を確立する」

 社会的経済の重要性を認識している点では両者とも共通していますが、その詳細に関してはかなりの違いがあります。与党側の定義では貧富の格差の克服が強調される一方、野党側の定義では社会的連帯経済関係者の間での相互協力や行政とのパートナーシップにも力点が置かれています。2017年現在韓国全国レベルでは社会的経済基本法は未成立ですが、ソウル市や大邱市、そして京畿道などでは条例で社会的経済について規定されています。

 韓国での社会的経済関連の公共政策は、1997年に発生したアジア経済危機後に生まれました。従来の市場経済だけでは国民生活に十分対処できないことが明らかになったことから、国民基礎生活保護法(2000年施行)や、脆弱階層向けの雇用創出プログラムである社会的雇用プログラム(2003年導入)、そして社会的企業育成促進法(2007年施行)などの政策が導入されました。さらに、2012年に成立した協同組合基本法により、社会的経済全体に対しても意識が高まることになりました。2015年9月現在で韓国には社会的経済の団体が1万5000団体ほど存在しており(設立中の社会的企業を含む)、5万人ほどに雇用を提供しています。

 また、NPOセクターを入れると韓国の社会的経済はさらに拡大します。2010年現在で44兆ウォン(韓国のGDPの3.8%)を稼ぎ出しており、93万5000名(韓国全体の労働者の4.6%)もの雇用を生み出しています。

 支援政策についてですが、当初は主に人件費の補助が提供されていましたが、その後批判を受けたため現在では経営コンサルや研修、広報、融資やマーケティングなどが中心になっており、社会的経済団体の生産した商品の公共調達も強調されています。しかし、特に社会的企業の場合、起業や運営において資金難に直面する団体が少なくなく、伝統的に行政頼みでしたが、最近ではクラウドファンディングを活用した事例も出始めています。

 政府からの補助金は、確かに社会的企業のスタートアップの面で役に立っており、補助金を受けた企業のうち95%は補助金が切れても存続し続けています。しかし、各省庁や地方自治体、あるいは法律による支援政策がバラバラで、社会的経済の推進に関して総合的な政策運営が行われていない点、また政府からの支援が手厚すぎて、肝心の社会的経済セクター自身の自立が損なわれてしまう点が課題として指摘されています。

 韓国に関しては私も何度も訪問しており、現地の事情についてはそれなりに把握しているつもりですが、確かに法制度を通じた公的支援が充実している一方、社会的企業や協同組合などの担い手自身による社会運動としての側面が薄いように感じられました。社会的連帯経済には経済活動と社会運動という二つの顔がある点については第94回の連載で紹介しましたが、社会運動としての観点からはまだまだ韓国の社会的経済セクターは、今後の発展が必要であるような気がしました。スペインでは社会的経済スペイン企業連合(CEPES)REAS(連帯経済のネットワーク)などの業界団体が存在して活発に活動を行っていますが、韓国には同様のネットワークが見られないのが現状です。韓国における社会的経済をさらに発展させてゆくためには、政府や自治体などと折衝できるような業界団体を作ったうえで、業界団体主催でのイベント(たとえば社会的経済見本市)を開催してゆき、業界側からも社会的経済の推進に積極的に取り組んでゆくことが大切でしょう。

△カタルーニャ連帯経済見本市の様子(2016年)

 とはいえ、民間団体で全く希望がないわけではありません。消費者生協の i-Coop(日本語版)は組合内部のみならず社会的経済全体に関するニュースを配信しており(日本語版はこちらで)、将来的には韓国の社会的経済関係者を束ねる立場になる可能性を秘めています。個人的には韓国の社会的経済関係者同士で会合を重ね、業界団体の設立によりさらに運動を強化する方向に発展してゆくことを望みます。

iCoopの画像(日本語版)

△iCoopの画像(日本語版)