はじめに
 今回、本サイトにコラムを連載させて頂くことになった黒田孝伸です。よろしくお願いいたします。
 大学卒業後、青年海外協力隊を経て、外務省および国際協力機構(JICA)において、継続的にアフリカ・アジアへの政府開発援助(ODA)業務に従事してきました。
 日本のODAの基本方針は「自助努力支援」であり、途上国の自発的な取り組みを促し、援助依存からの脱却、自立・自律的な開発に向けて支援することを目的としていますが、長年ODA業務に関与していく中で、ここ数年、「望ましい開発援助/開発協力とは何か」を改めて自分に問いかけることも多くなりました。一方、アフリカのリーダー達は以前から「援助よりもビジネス(投資・貿易)を」と主張してきましたが、今年6月に横浜で5年ぶりに開催された「アフリカ開発会議(TICAD-V)」はキャッチフレーズとして「アフリカ、ともに成長するパートナーへ」を掲げ、ようやく長い時間を経て、アフリカが「援助の対象」から「ビジネスの対象」へと大きく変わりつつあります。
 現在、筆者は28年ぶりに戻った福岡で、ODAの現場から距離を置き、BOP(ベース・オブ・ピラミッド)ビジネス、ソーシャル/コミュニティー・ビジネス(SB/CB)、地域通貨/地域経済活性化、社会的連帯経済などを学んでいます。そして、アジア・アフリカの現場や東京では気づかず、ODAとビジネスの境界線という立ち位置にいるからこそ得られる新たな視点で「開発」を考察することも有意義ではないかと感じているところです。
 1998年度ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン教授は「開発」を「人々の自由を拡大するプロセス」と定義し、「自由の拡大」が「人々の潜在能力の拡大」につながると主張しています。本コラムでは、「自由の拡大」「潜在能力の拡大」を通じて、途上国自身が実現すべき自立・自律的な開発の方向性を見据えた上で、自分が慣れ親しんだアフリカやアジアの国々の最新の政治・経済の動きを紹介しつつ、月1~2回をめどに「開発」につき考察したいと思います。

 第1回は「第5回アフリカ開発会議(TICAD-V)」を巡る報道・記事においてもほとんど言及されていない本年5月公表の「アフリカ進捗報告2013(The Africa Progress Report 2013:APR2013)」の内容および関連するアフリカの現地報道などを紹介しつつ、アフリカにおける天然資源開発を巡る課題を考察したいと思います。

「アフリカ進捗報告(APR)」は、アフリカ開発に係わりのある10名の著名人から構成される「アフリカ進捗パネル(The Africa Progress Panel)」(議長はアナン前国連事務総長、メンバーはオバサンジョ前ナイジェリア大統領、マンデラ元南ア大統領夫人、アフリカ支援活動を続けるボブ・ゲルドフなど)が毎年5月に公表している報告書であり、「2013年版報告書(APR2013)」の副題は「鉱物資源がもたらす富の公平な分配に向けて」となっています。公式サイトから全文をダウンロードできます。

 今年5月にケープタウンで開催された「アフリカ世界経済フォーラム(World Economic Forum on Africa)」において、アナン元国連事務総長は「APR2013」の内容を報告しています。本報告では鉱物開発およびそれに伴う「租税回避」の問題に焦点が当てられており、今年6月17日~18日の英国ロック・アーンで開催されたG8サミットにおける議論(「ロック・アーン宣言」採択、【注1】)とあわせて、「租税回避」への対応に向けて、今後の議論の大きな流れを作ったと言えそうです。

「APR2013」における現状分析は以下のとおりです。

  • 多くのアフリカ諸国では天然資源開発によって得られた収益が貧富の差の拡大をもたらしている。アフリカ諸国は援助総額の2倍に相当する380億ドルを毎年、不透明な資金の流出により失っている。多国籍企業の中には、非倫理的な「租税回避」、利益を最大化するための資金移転や匿名企業の活用を行っている事例がみられる。
  • アフリカは過去10年間、5%を超える目覚ましい経済成長を遂げてきたが、国民の保健・教育・栄養面における改善は見劣りしている。アフリカ諸国の指導者は天然資源開発から得られた収益を数百万人の現在世代と将来世代の雇用創出のために活用するか、雇用なき経済成長と不平等を永続化させるかという岐路に立っている。
  • 「租税回避」は、G8諸国にとっては歳入の損失であるが、アフリカ諸国にとっては母親や子供たちの命に係わるほどの直接的な影響を有する地球規模の問題である。この点で、本年のG8サミット議長国である英国や他のG8メンバー国による税と透明性の問題解決に向けての新たな動きを歓迎する。

 このような現状を踏まえて、「APR2013」は以下の提言を行っています。

  • 国際社会は透明性確保と情報開示のための世界基準を策定し、「租税回避」に対応し、マネーロンダリングや実体のない匿名企業の行動に対処する必要がある。
  • アフリカ諸国は資源開発政策の中核に「透明性」と「国民への説明責任」を据え、鉱物資源開発産業を管理する能力を強化し、資源開発から得られた収益につき、しかるべき割合を国民のために確保し、平等な公共サービスの提供を通じて、この富を分配すべきである。また、資源開発において地元企業を参画させ、自国内で雇用を創出すべきである。
  • 国際的に活動する資源開発企業は、資源国政府の能力強化に協力し、現地での調達・雇用を増やし、企業としての説明責任の基準を引き上げるべきである。

 上記提言が今後どれほど具体的な政策として実施に移されていくのかを注視する必要がありますが、この分野においては既にいくつかの先行事例が見られます。

「採取産業透明性イニシアティブ(EITI)」は、2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」において、ブレア英首相(当時)が提唱したものであり、石油・ガス・鉱物資源の開発にかかわる採取産業から資源産出国政府への資金の流れの透明性を高めることを通じて、腐敗や紛争を予防し、成長と貧困削減につながる責任ある資源開発を促進するという多国間協力の枠組みです。2013年6月時点で、16か国が「候補国」(=EITI基準にある加盟に関する要件を満たした資源国)、23か国が「遵守国」(=「候補国」となって2年半以内にEITI認証要件をすべて満たした資源国)となっており、資源開発企業から資源国政府への資金の流れの透明性は高まりつつあります【注2】。
 なお、レオナルド・ディカプリオ主演の米映画「ブラッド・ダイヤモンド」(2006年)は西アフリカのシエラレオネの内戦時(1991年~2002年)に紛争当事者の資金源として不正に取引された「紛争ダイヤモンド」を扱っており、2002年にEITIが提唱される背景を理解できる作品です。

 ボツワナは南アフリカの北に隣接し、ダイアモンド産出額世界第1位の国です。1966年の独立時は最貧国に過ぎなかったものの、67年に発見されたダイヤモンドにより急速な経済発展を遂げ(過去30年間の年平均経済成長率は7%)、「中進国」に位置づけられますが、注目すべき点は政府がダイヤモンドから得られた収益をインフラ整備や社会サービスを通じて積極的に国民に配分し、高い教育水準を達成してきたことです。ボツワナ政府の透明性の高さ・汚職の少なさについては市民社会の積極的な役割が指摘されています。
 一方、従来ダイヤモンドは原石として国外に輸出されてきたことから、ダイヤモンド開発によりボツワナ政府が得られる収益は限られており、富の大部分が国外に流出している状況でした。そのため、ボツワナ政府はダイヤモンド原石輸出からの脱却を図り、販売・加工を含めたダイヤモンド関連産業からの収益を確保すべく、採掘権を有するデ・ビアス社との2010年の契約更新において、アフリカ初となる「ダイヤモンド原石取引所」の設置、新たな産業・雇用を生みだす「ダイヤモンド研磨工場」の設立を契約更新の条件として提示し、デ・ビアス社の合意をとりつけることに成功しています。交渉成功の背景として、中国やインドの企業もボツワナのダイヤモンド開発に関心を持ち、デ・ビアス社に比べて、ボツワナ政府にとって、より有利な条件を提示していたことがありました。原料(一次産品)として輸出するのではなく、資源国国内で新たな価値を付加することで、国内での収益を増やし、雇用を創出している事例です。アフリカとの関係において、中国は「資源獲得」の側面が強調され、批判的な報道も目立ちますが、Win-Win(互恵関係)アプローチをとる中国やインドの存在が国際ビジネス市場におけるアフリカ政府の交渉力を強化させつつある点も注目されます【注3】。

ボツワナ首都ハボロネのショッピングモール(2013年1月筆者撮影)

▲ボツワナ首都ハボロネのショッピングモール(2013年01月筆者撮影)

ボツワナ首都ハボロネ市中心部の行政・ビジネス地区(2013年01月筆者撮影)

▲ハボロネ市中心部の行政・ビジネス地区(2013年01月筆者撮影)

ハボロネ国際空港(2013年01月筆者撮影)

▲ハボロネ国際空港(2013年01月筆者撮影)

ハボロネの三長老モニュメント(2013年01月筆者撮影)

▲ハボロネの三長老モニュメント(2013年01月筆者撮影)

 ガーナは、野口英世博士が1928年に黄熱病の研究中に逝去した地(当時は英国領ゴールドコースト)であり、チョコレートの原料のカカオ豆の生産で有名な西アフリカの国ですが、2007年にギニア湾沖の海底油田の埋蔵量が確認され、2011年には商業生産が開始されています。筆者は2007年からから3年間、首都アクラに勤務しましたが、当時から新聞・TVは連日のようにナイジェリアやコンゴの過去の過ちを引用しつつ、「ガーナはいかに「資源の呪い」を克服できるか」という問題を取り上げており、ガーナは石油がもたらす富を国民に適正に分配するための制度構築を早急に進めるべきとの意見が国民レベルで盛り上がりを見せていました。米コロンビア大学スティグリッツ教授も2008年のガーナ訪問時に「ガーナ国民は外国石油開発企業とガーナ政府との間で不適切な契約が締結されないように交渉を注視すべき」と警告を発しました。一方、ノルウェーは1969年に北海油田で見つかるまでは欧州の中では貧しい漁業国であったものの、石油から得られた富を適正に国民に配分し、高度な福祉国家に転換したというサクセス・ストーリーを有していることから、ガーナ政府にアドバイザーを派遣し、制度構築の支援を行っていました。石油の商業生産・輸出が始まった2011年のガーナの経済成長率は14.4%にも達し(世銀)、石油はガーナに大きな富をもたらしていますが、すでにノルウェーをモデルとする「石油収益管理法(PRMA)」を有しており、石油収益を、①一般予算向け、②将来世代のための貯蓄、③将来的な国際石油価格の変動に伴う調整のための予備財源、として配分し、現在世代と将来世代の間での適正な利益配分の制度を構築しつつあります。更に内部告発法の改正に続き、石油産業における国内資源活用を確保するための法案、情報公開法案などが現在国会審議中であり、石油からの収益の適正な管理・国民への配分、石油開発への国内産業の関与に向けて、着実な進展を見せています【注4】。

 上記の事例は、アフリカの資源国が資源開発により得られる収益を適正に管理し、国民の福利厚生の充実を進める上で政府自体が透明性を確保するとともに、資源開発を国内産業・雇用創出に結び付けていくことの重要性を示しています。一方、今年のG8サミットでも取り上げられ、早急に解決すべきグローバル問題として注目されている「租税回避」については、国際社会全体としての取り組みが不可欠となります。特にタックス・ヘイブンとの深い関わりが指摘されているロンドン・シティ、ウォール街を擁する英国、米国の今後の「租税回避」問題への取り組みの「本気度」を注視していきたいと思います【注5】。
 アフリカ資源国が援助への依存度を大幅に軽減させ、より自立的で自律的な「開発」を実現する上では、これらの取り組みが確実に進展していくことが不可欠であるといえます。

【注1】外務省(ロック・アーン宣言)
【注2】外務省(EITI)
【注3】NHKスペシャル「アフリカン・ドリーム:資源回廊の挑戦」(2010年5月放送)、NHKスペシャル取材班著「アフリカ:資本主義最後のフロンティア」(新潮新書、2011年)
【注4】ガーナ現地紙 Daily Graphicガーナ石油オンライン
【注5】志賀櫻著「タックス・ヘイブン~逃げていく税金」(岩波新書、2013年)

【その他参考文献等】
◎平野克己著「経済大陸アフリカ」(中公新書、2013年)
◎NHKクローズアップ現代「“租税回避マネー”を追え~国家vs.グローバル企業」(2013年5月放送)
◎「日経ビジネス2013年5月27日号 アフリカ:灼熱の10億人市場」
◎「国際開発ジャーナル2013年6月号」(国際開発ジャーナル社)
(独)国際協力機構
世界銀行