バンク・オブ・仏陀の道

第06回

サッカー・ワールドカップ オープニングゲーム

チッタタゴンのアシシュに電話してスケジュールの変更を伝えた。日程の関係もあるのでボツアカリ行きを中止し、ランガマテに少し滞在し、ブッダバンクのめぼしい地域の視察を続ける事。さらにCSメンバーに加えたい人がいる事などである。電話先で彼は少し戸惑ってるようだった…。

2時間、後案の定電話がかかって来た。そしてこちらの意向は受け入れられないという。やっぱりか…。シャンガプリア僧侶に入れ知恵されたようだ。何を始めるにしても、まずは我々の承認をとってから始めるのが筋だろうと言うのである…。

さらに彼は続ける「ボツアカリの人たちがみんな待ってるんですよ。何回も言ってあるんですから。ブッタバンクはしなくてもいいですから、行くだけ行ってください」と電話でアシシュは言う「行って、期待させて何もしないのは、もっと彼らを落胆させるだろう」と僕は答えた。
「それは、私も心が痛いです」とアシシュ本音が出る!

スタッフ全員が20時間かかるボアカリまで行くための交通費は、すでに先日のルワラバラ村での追加融資で足りなくなった事ことを伝えた。僕はそのうえで自費で行けるのか?と聞くと、答えは In possible !(不可能 )想像どうりのリアクションだ…

ちょと気になるところがあって、アシシュに言われるままに払った経費の領収書を確認することにした。
すると、どの領収書にもシリアルナンバーもなければサインもない!金額も大ざっぱだ。

例えばチッタゴンからランガマティまでの二人分の交通費が1000タカ(1350円)と明記されている。が、実際はバスで一人往復140タカ(約200円)のはずだ…。
 
…車で来たのか??何様!…バス使えよ… 俺の移動はバスばっかりだぞ…!

「そのほかの経費」とか「コンタクト費」とか、あいまいな明記ばかりだ。何これ電話代か?
更にドネンション(寄付)と書いた領収書まである!シャンガプリア僧侶に手渡ししていた布施のことだ…。

バングラでは、サインやシリアルナンバーのない領収書は、紙くず同然だという。実際、他で出費した時の領収書を見てみると、屋台のような出店以外は皆サインとシリアルナンバーが明記されている。

…やはり、コラップス(汚職)やろうなのか…

とにかく予算が厳しくなって来た。節約して少しでも必要経費を残して置かなければならない…。
今日からはピブロップの好意でランガマテのNGOアシカ・ネットワークの持っている宿泊施設に泊めてもらうことになった。ありがたい節約できる…。
その夜、前回お世話になったアシカ・ネットワークのスタッフ、ウノポンさんと再開した。焼き討ちにあったバガイチャリ地区へ入場許可書は、今回彼が役所にしぶとく、掛け合ってくれたから可能になったのである。
再会を喜び、そして協力に感謝する。そこへ地酒を持参したビブロップがやって来て話がはずむ。ほろ酔い気分でピブロップ「伊勢は、なぜシングルなんだ?それはよくないな~」年をとったら詰まらん人生だぞ~」て、あんたまだ37のくせして!…俺より一回り下なんだけど…。「どうだ、チャクマの女と結婚しないか!俺が明日いいのを、紹介してやる」って大真面!

いや~参ったな~、、でもちょっと期待、、。

その夜、僕の著書で「リトルチベット」という写真集が夢に出てきた!しかしその写真集、なぜかすごくでかくて分厚い!しかもいくら開こうとしても中を見ることが出来ない……。

そう今日この日、日本では僕の新作写真集「リトルチベット」の発売日なのだ…。

更にこの日は、南アフリカで行なわれるサーカー・ワールドカップの開催日なのである。
FIFAでは、ファーストゴールの懸賞金を、世界の貧しい国の教育費に使う事を決めているという。そこでそのお金を、是非ここバングラディシュに呼び込もうということで、今日それに合わせ、ランガマテ市内でデモ行進が行われるという。
ビブロップにさそわれ、僕も参加することにした。集合場所はサッカースタジアム。そこには、たくさんの地元の学生や教育関係者、ボランティアの人たちが集まっていた。。
突然でかいカメラをぶら下げた外国人の参加に、海外からのマスコミの出現!とでも思ったのか、デモ参加者のモチべーションも上がる…。
街のメインストリートを蛇行するデモ行進の列を、俺は縦横無尽に走り回りシャッターを切りまくる。

…見物人の注目を浴びながら、気分は国際フォト・ジャーナリスト…。

30度以上の炎天下、終了後に滝のような汗が滴り落ちる…着ていたTシャツは絞った雑巾状態!
ミネラルウオーターをがぶ飲みする

…水ってこんなうまかったっけ~

午後からは、ピブロップとブッタバンク開設予定の村を見に行くことになっていた。彼の持つ、250ccのヤマハにダンデムして、村までの一本道をぶっ飛ばす。かなりのスピード狂だ!

チャクマ族の人たちの暮らす100世帯ほどの、のどかな村に到着。村長さんとブッタバンクの話をし、なかなかいい手応えを感じた。さらに明日もうひとつ、候補にある村を見てから、どちらが適してるか決めることにしている。

今日訪れた村では、ジャックフルーツが出た。この大味なくだもの、あまりうまいと思ったことがなかった。
しかしなんとジューシーで、まったり甘いことか、、! 今気がついた…

 いままで、うまいのを食ってなかったんだぁ~~


村から戻りチッタゴンのアシシュに電話した。
3日後の滞在最終日に、チッタゴン市内でブッタバンク役員が全員集まり協議することになっており、その時間を決めるためである。
当日、ビロップを皆に紹介して、新メンバーとして承認を得たい思っているのだが、彼は以前から決定しているダッカでのある国際会議に出席するため、午後2時には空港にいかなければならない。

そこで、集合時間に11時を提案した。アシシュは、11時で大丈夫と言いい、そのあと夜、来れなかったメンバーともういちど開くということで話は決まった。

が!しかし、、30分もしないうち、アシシュから電話が入り変更を要求してきた…また同じパターンだ!

予定が入ったのでアシシュもシャンガプリア僧侶も出席できなくなったというのである。
え!さっき行けるって…こんな大事な会議になんで予定を!…またまたボスいやボウズのシャンガプリアが後ろで糸を引いてるのだろう…。
急用だから!と、とにかく行かないの一点張り…開き直って投げ出しそうな勢いだ。俺は切れそうになる感情を抑え、「わかった、わかった、あなたに従いますから」するとアシシュも切り返す「私じゃありません、お坊さんにですよ」「わかりましたシャンガプリア僧侶の都合に合わせますから、お願いしますよ、あなただけでも11時に来て彼に会てもらえないですか?」と僕は頭を下げた…。

…あ~あ~せっかくの高揚した気分が台無しだ…。

この日サッカー・ワールドカップのオープニングゲームがある。南アフリカ対メキシコの試合を、ここランガマテのサッカースタジアムに大型スクリーンを設置して中継するという。僕もピブロップにつれられてスタジアムにやって来た。
会場には、この特別な日をみんなで盛り上がろうと、数百人の観衆が集まっていた。
しかし、なにやら機械の調子が悪いみたいで、ゲームが始まって、すでに15分もたつというのに、大型スクリーンは「砂の嵐」のまま…。
と!突然スピーカーが破れるんじゃないかと思うほどの大音響が鳴り響く!

と同時に画像が現れたその瞬間!場内は割れんばかりの大喝采がこだました。

ゲームが動くたびに歓声と、どよめき、ドラや太鼓の音が鳴り響く。すっかりその場の雰囲気に乗せられ、初ゴールの瞬間!立ち上がってこぶしを振りかざす自分に、我ながらびっくりしたのだった、、。

コラムニスト
伊勢 祥延
1960年北海道生まれ。中学校を卒業と同時に美容師の道に進む。31歳の時に独立。同時に写真作家として活動を始め、以来世界50カ国以上を撮影して回る。主に難民や少数民族などにフォーカスを合わせたドキュメンタリー映像を製作「写真ライブ」と名付け各地で上映会及び講演を行っている。最近では東日本大震災で、被災者との交流や復興の様子を記録した映像を発表し話題を呼んだ。書籍の他に、2007年から毎年チャリティカレンダー(発行部数約2万部)を製作。主益金は四方サンガによりアジアの貧困地や被災地への緊急支援に使われている。写真集:Scenes (自費出版)TRIVAL VILLAGE(新風舎)カンボジアンボイス(四方僧伽)リトルチベット(集広舎)子どもを産んで、いいんだよ(寿郎社)
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