インド解き放たれた賢い象/書評・北海道新聞
自伝的要素濃い経済史

著者は青春期をアメリカで過ごし、ハーバードに学んだ。しかしいわゆる海外で成功したインド人ではなく、卒業とともに帰国し米国企業の現地法人に就職。地方都市の商人とバザールの流儀で交渉し、国の規制に縛られ、許認可のために完了相手の不毛な時間を浪費する。経済開放以前のインドビジネスと政財界を随まで経験し、文字通り叩き上げてトップに登りつめた。現在はベンチャー投資家を兼ね作家活動する、その自伝的要素の濃い現代インド論である。
著者はインド独立前年の生まれ。個人の成長が新生インドの歩みと完全に重なる。ビジネスマンとしての成長過程もそのまま現代インド実録経済史である。アメリカ仕込みの教養と経済、ビジネス感覚、インドの現場体験を併せ持った記述や分析には納得させられ、読みごたえがある。地方都市の家系出身の都市中間層という立ち位置は今のインドのリーダーたちの一つの典型で、その点から著者の価値観や社会観には注目しておく必要があるだろう。
ただ原著は二〇〇〇年の出版。すでにIT分野では知られていたが、RICs(新興四カ国)という用語も登場していない。この十年にインドは著者の想像を超えて成長した。一方で予想しなかった事態も生じた。富裕層は増えたが貧困は解消せず、格差は拡大。宗教ナショナリズムやテロリズムなど難問を抱えたままであることもわれわれは知っている。発展がすべてを解決するような本書の結びを(日本版への追補的文章は加えられているが)今の時点で読むと、仕方がないことだが消化不良を感じてしまう。
もう一点。インド人への関心の高まりから関連図書の翻訳が増えている。
が、本書のようにインドの知識人レベルが対象の本を日本の一般読者に紹介するのは、訳語の表記や馴染みのない事項の解説など難しいことだと思った。
北海道新聞 2009年(平成21年)5月3日(日曜日)
評・関口 真理
(亜細亜大非常勤講師・南アジア近現代史)
書名:インド解き放たれた賢い象
著者:グルチャラン・ダース
訳者:友田浩
A5平/418頁
定価 3,486円(税込)
発行:集広舎
発売:中国書店
ISBN:978-4-904213-04-9 C0098 ¥3320E
インド人による初めての本格的なインド紹介の本と評判の『インディア・アンバウンド』の邦訳。ノーベル経済学賞受賞者アマルティア・センも「自叙伝、経済分析、社会調査、政治点検およびビジネス展望が、ない交ぜになってインド理解へと導く素晴らしい本」と絶賛する。
















