このたびの余傑氏の事実上の亡命に関して、小社のコラムニスト劉燕子さんより下記のメッセージを頂戴いたしました。ご許可を得て掲載させていただきます。[編集室]

 諸先生各位。作家の余傑さんご家族の渡米に関して、いくつも励ましのお言葉をいただき感謝いたします。彼は事実上の亡命と考えられます。

 そして、彼に先立つ2010年7月、作家、廖亦武さんは雲南省から国境を越えてドイツに事実上の亡命をしました。廖亦武さんについては拙訳『中国低層訪談録』集広舎を参照してください。これは、2008年6月22日の朝日新聞の書評で「声なき声を聞き、影の真実を描く」と紹介され、また2009年6月22日の朝日では「四川大地震から一年」のエッセイが掲載されました。廖亦武さんは言論弾圧下の表現者に与えられるヘルマン/ハメット賞を二度も受賞しています。昨年は、反ナチ「白バラ抵抗運動」の象徴であるショル兄弟賞を受賞しました。彼は、本日、1月14日の授賞式で「自由は必ず勝利する」と訴えました。また、中国地下教会を描いたノンフィクションは英訳され高い評価を受けています。廖亦武さんも余傑さんも劉暁波さんの盟友で、「〇八憲章」の最初の署名者です。

 そして、余傑さんは渡米を前にしてトーマス・マン(ナチスの迫害で亡命したノーベル賞作家)に言及し、自由な魂は自由のないところにはいられない、自由が蹂躙されている社会にあって良心な生き方などできないと語りました。ところが、『人民日報』傘下の『環球時報』の編集長、胡氏は、本日、ウェイボー(中国式のミニブログ)を通じて、余傑さんの出国は中国文化の終結ではないと非難しましたが、すぐさまネット・ユーザーから「お前こそ中国のナチのゲシュタポだ」と反論を浴びました。

 日本人にとって「亡命」という言葉は痛切でリアルな感じがしないかもしれませんが、私はこの十数年、海外亡命中国知識人たち70名以上をインタビューしました(その中でアメリカ在住の詩人、黄翔さんについては『黄翔の詩と詩想』思潮社にまとめました)。そして、序論を『神奈川大学評論』第67号(2010年)で発表し、これからさらに紹介していきたいと考えています。

 グローバリゼーションの現代にあって、国連安保理常任理事国である中国の言論状況と作家たちの亡命は、決して中国だけの問題ではなく、世界的な問題であり、日本人にとっても重大で切迫したこととして受けとめていただきたいです。決して「対岸の火事」ではありません。
 今年は日中国交正常化40周年です。この節目にあたる2012年に、経済成長の実利だけに流されず、真実と大義と尊厳に基づいた日中友好を考えていただきたいです。
 同時に、出国できない作家(例えばチベット女流作家のオーセルさん)の問題や少数民族の問題にも注目していただきたいです。

 最後にエドワード・サイードの「知識人とは亡命者にして周辺的な存在であり、またアマチュアであり、さらには権力に対して真実を語ろうとする言葉の使い手である」(大橋訳『知識人とは何か』)を思いつつ、小文を結びます。ここまでお読み下さりありがとうございました。諸先生のご活躍を祈念します。

敬具。劉燕子

【メディア各社の記事】
◎中国:作家で人権活動家の余傑氏 アメリカへ出国(毎日jp)
◎中国人作家 米に事実上の亡命(NHK News web)
◎「自由のある場所が故郷」中国の人権活動家が出国(asahi.com)
◎中国の著名な反体制作家・余傑氏、米国に亡命か(Yomiuri Online)
◎余傑氏が米亡命 劉暁波氏らと民主化活動(東京新聞 Tokyo web)

※上記URLは永久保存ではなく、Deadlink になる可能性があります。
※写真は livedoor掲載【EPA=時事】から転載させていただきました。