インド 解き放たれた賢い象 - ジャケットインド 解き放たれた賢い象(原題 India unbound)
グルチャラン・ダース著、友田浩訳(集広舎)

新聞社ならびに報道機関関係者 各位

 インドが中国を追う形で BRICs の雄として台頭するにつれ、日本でもインドへの関心が高まり、インド紹介の書籍やテレビ番組が増えてきた。だが三千年の歴史と、カーストを含めて他に例を見ない多様性と、欧州全体が一つの国家になったような十億人の「モザイク国家」の理解は至難の業である。
 そうした中で本書は、インドを丸かじりできる貴重な一冊である。インドに関する本は古代から現代まで外国人によるものが多かったが、これは珍しくインド人自身が、内側と外側から丹念にインドを見詰めて、あるいは見つめ直して書いた本であり、「自叙伝、経済分析、社会調査、政治点検、およびビジネス展望がない交ぜになって、インド理解へと導いてくれる」(ノーベル経済学賞受賞者アマルティア・セン)。
 著者はカーストでいえば上から二番目のクシャトリア出身。高校生として米国で新聞配達をしながら奨学金を得てハーバード大(哲学・政治)を卒業、その後の企業勤めを早めに引退して、現在はインドの有力紙タイムズ・オブ・インディアの定期コラムニストを務めるほか、フィナンシャル・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ニューズウィークなどへ随時寄稿する世界的知識人の一人。また有力企業数社の経営コンサルタントとして企業のグローバル戦略を助言している。
 著者の鋭い切り込みは、インドについての「通念」を覆している。ネルーの社会主義的な《官許統治》が、独立後のインドの立ち遅れの元凶として断罪され、さらに英国統治の功罪の「功」の部分にも新しい光が当てられている。
 インドの現在の台頭の二大要因は、一九九一年からの経済改革および世界のIT革命である。外部にはほとんど知られていない九一年改革の内幕は圧巻の一つである。また、抽象概念と英語に強いインド人がIT革命にうまく乗った事情も分かりやすい。著者は何度も来日しており、特に明治維新前後の事情に詳しく、随所に出てくるインドと日本、インドと中国の対比も興味深い。
 産業革命を跳び越える形でIT革命のまっただ中に入ったインドの将来について、著者はかなり楽観的だ。地球温暖化、および現在の「資本主義の暴走」についての言及がないのはやや物足りないが、インドの特殊事情を考慮すると無いものねだりかもしれない。
 本書はその読みやすさから世界的なベストセラーに入っているが、邦訳も、ストーリーテラーとしての著者の持ち味を生かすよう努力している。