保存と開発の相克に学ぶ教訓の書

 古い歴史を背負った建築やその集合景観が新しい時代の波に呑みこまれて姿を消してゆく世相はわが国でも例外ではない。本書は1950年代に古都北京の歴史的景観保存する都市計画プランを提出した一建築家梁思成がいたこと、またこの人が日本で生まれ育った人で、奈良・京都を太平洋戦争時の空襲から守るためにもかかわったらしいことなど、わが国にもかかわる人物であることを本書によって知らされた。
 現在わが国では飛鳥保存法や古都保存法など、古都の景観保存が成立し、さらには世界遺産などに登録されるまでに至った。梁氏らの活動は、このような古都保存思想の流れのなかでも先覚者的位置を占めるものであったといえよう。現在のわが国では20世紀までに、都市開発ブームのなか、第一次から第四次に至る全国総合開発計画(一全総〜四全総)がすすめられてきた。この計画の推移を通じて文化財の保存・整備で開発側と保存側当局間の事前協議がなされ、歴史的遺産をとり入れた新しい都市計画が策定される段階にまで進展してきた。戦後の文化財保護法公布以来、半世紀の歩みの成果であった。このようなわが国の状況と照らしながら古都北京における梁氏らの保存への活動を読みすすめてゆきとき、わが国にもおとらぬ苦労のほどが察せられる。そしてこれらの努力に感銘したジャーナリズム記者王軍氏の十年にも及ぶ取材成果が出版されて中国内にも大反響を呼び、政府筋から好い評価を得ることとなったのは慶賀にたえない。まさに人を得た、時を得た公刊事業であった。本書は単なる他山の石でなく、わが国の古都保存施策のうえでも参考すべきところ多い教訓の書でもある。文化財保護にかかわる諸氏に必読をすすめたい一書である。