尖閣反駁マニュアル百題

尖閣反駁マニュアル百題

中国の「ソフトキル」への対策

 経済発展に自信をつけた中国は、近隣防御戦略(A2/AD)に基づいて海洋進出を図り、南西諸島、台湾、フィリピンと結び9断線に至る第1列島線で囲まれた東・南シナ海における島嶼の領有と海洋資源の独占を目論んでいる。尖閣諸島は、日本が1985年に無主地であることを確認して領土へ編入した日本固有の領土であり、この第1列島線上に位置する南西諸島の目と鼻の先にある。中国が尖閣諸島の領有権を始めたのは、国連の機関が東シナ海の海底に石油埋蔵の可能性があると発表した直後であり、その根底には尖閣諸島海域の海底資源の独占と太平洋への進出路の確保の目的があった。
 中国は、「戦わずして勝つ」を最上の策とした孫子の兵法を忠実に実践し、日本に対して、法律戦、心理戦、世論戦からなる「三戦」の軍事工作に、政治、外交、経済、文化などの分野の闘争を密接に呼応させる「ソフトキル」を謀略的に仕掛け、尖閣諸島の領有を狙っている。
 尖閣諸島は「歴史的に中国固有の領土」、「台湾の一部」、「下関条約で中国から剥奪」等々、あたかも根拠があるかの如く「歴史」を主張し、多くの日本人を「ソフトキル」してきた。日本の編入以前から、尖閣諸島は中国固有の領土であるとの「歴史」の虚構を信じ込ませようとしてきたのであった。
 著者は、政府周辺の人々が「尖閣はもう譲歩するしかない」(25頁)とする諦めの空気が支配している状況に危機感を抱き、本書の刊行を決意した。著者が本書を通じ繰り返し強調しているのは、明・清国の領域の軍側外線を明らかにすれば、日本領有当時の尖閣諸島が無主地であったことが明白になるということである。
 著者は、明・清国時代の史料を駆使して、本書で見事にこれを証明している。中国が主張する「歴史」は虚構であって、例えば明国の公式日誌『皇明実録』(1372年)、郭汝霖の『石泉山法房文集』(1561年)等等多くの明・清国時代の史料は、尖閣諸島を自国の版図外と認識していたと結論するのである。
 本書は、尖閣諸島に対する中国の領有主張に反駁する方法を伝授し、明・清国時代の漢籍を十分に読解できない読者のために懇切丁寧に解説を行っている。
 本書のこの手法は、従来の尖閣諸島の領有論争にはなかったものでで、新鮮味がありかつ爽やかな読後感を得ることが出来る。著者が本書で使用する「チャイナ」の用語あるいは正漢字、正仮名遣いは、読み始めの頃こそ取っ付き難いが、読み進めればこの違和感は何時の間にか払拭されていることに気づかされるだろう。本書から尖閣諸島の歴史、文化を読み取ることが出来れば、筆者の狙いは十分達成されている。

「正論」(産経新聞社)平成26年9月号書評欄 読書の時間