BOOKレビュー

書評『インド 解き放たれた賢い象』

インド 解き放たれた賢い象 - ジャケットインド 解き放たれた賢い象
著者/グルチャラン・ダース
訳者/友田浩 発行/集広舎
A5判/ソフトカバー/418頁
定価/3,486円(税込)

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もしあなたがインド人のものの考え方を学びたいと思うのなら。
もしあなたがインドの歴史と今を知りたいと思うのなら。
この「娯楽性に富んだ超専門書」の一冊を是非。

 
書評/若林忠宏(民族音楽演奏家)

 神秘の叡智の国インドが、植民地時代にどう変革し、独立によってどう変わったのか? 1970年代に欧米のヒッピー達が楽園と呼び、1980年代には日本のバックパッカーが自由を満喫し、1990年代にはIT企業がこぞって活路を見出した不思議の国インド。しかしインドは、苦悶と矛盾と混乱を抱えながら、重たい足を引きずるように前へと進まんとしていた「象」の様だったのだろう。
 私は40年近くインド音楽を通じてインドと関わって来たが、伝統、カースト、ガンディーからネルー、インデラ・ガンディーに至る国民的英雄、長閑な田園、バガバド・ギータの叡智、ITで見せた知性、忍耐力の強い民衆、それらを強く慈しみ、理解し、愛しながらも、鋭くメスを入れ、今迄誰も言わなかった様なことを堂々と語ったインド人が現れたことに、大きな感動を覚えた。
 とりわけ、前書きに書かれた「インドはグローバル文化の襲来に対抗して、その生活習慣、および多様性、忍耐、精神性といったインド文明を維持できる可能性が大きい。もしそれができれば、インドは多分、賢い象なのだ。」文章に見られる、本書の視座の清らかさには、感銘を覚え、日本と日本人が忘れて来た何かを必ずや教えてくれる一冊であることを確信した。 加えて、著者が若くして成長企業の代表になった手腕と同時に、祖父、両親、妻、子どもを心底愛し、深いコミュニケイションを持って来た事実に、インド人が持ち続けて来た「人間力」の強大さに改めて感服し、大いに勇気付けられもする。 
 本書は、「悠久のインドの神秘性」に憧れる人をも飽きさせず、IT関連でインドとの取引をする人には大きな教科書であるばかりでなく、私の様にインド文化に学ぼうという者にとっても、インド人の物の考え方を深い所で理解出来る、素晴らしい一冊であることを明言したい。何よりも、418頁、45万字に及ぶだろうかという膨大な文章であるにも拘らず、まるで気の利いた、それで居て温かい友人が語ってくれるかの様な分かり易さで一気に読めてしまい、且つ、頭にも心にもしっかり届く「専門書」は、実に珍しいのではないか? 否、「専門書」でありながら、まるで冒険物語の様なワクワクすることも多々在った。それがフィクションではなく、一つの国の今を語るものであり、その国が世界有数の歴史と伝統を誇る、神秘の国でもあるというのだから、真実は小説よりも奇也と言うか、フィクションよりも娯楽的だ。筆者の人柄、懐の大きさに加えて、訳者氏、及び編者氏の卓越した才能の賜物と拍手を送りたい。 

◎著者:グルチャラン・ダース
 著述家、経営コンサルトタント(主に企業のグローバル戦略)。ハーバード大学哲学・政治学科卒。ハーバード・ビジネススクールで学ぶ。リチャードソン・ヒンドスタンの会長兼最高経営責任者。P&GのSEO、P&G本部の経営幹部を務めた。小説、劇作集、エッセイ集などもある。

◎訳者:友田 浩
 英エコノミスト誌翻訳担当者。西日本天神文化サークル講師。西日本新聞ワシントン、北京、香港特派員を歴任後、論説委員、テレビ西日本客員解説委員、西南大学非常勤講師などを務めた。

◎評者:若林忠宏
 日本初の民族音楽演奏家(1972年デビュー)世界に数十名の師匠を持ち、世界の民族楽器を2500点以上収集し、900種類を演奏する。著書は共著も含め14冊に及び、ポピュラー・ミュージック、CM録音も多く、「題名のない音楽会」「タモリ倶楽部」「何でも鑑定団」などの出演でも知られる。インド音楽弦楽器シタールでは、1980年に現地ラクナウ市国際交流センターで日本人初のリサイタル、日本人初の国営放送TVラジオ出演を果たす。

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