2008年3月10日、抗議で連行された14名のセラ寺の僧侶 今年(二〇〇八年)の三月一四日は、もう名前がつけられました。「三・一四事件」です。チベット全域において、これからまた「敏感」な日が増えました。中国中央電視台(CCTV)は、この事件を取りあげた番組を制作し、繰り返し放送しました。ふだんと異なる様子で、とても語気を強めて、いきなりこの日から語り出しています。こうにして、外に対して、次のようなイメージを作り出しています。
 近頃、チベット各地で発生して世界を驚愕させた一連の事件は、この日から始まったのだと。言い換えれば、中国が世界に語った「物語」は、三月一四日に少数のチベット人が突然発狂したということです。

 この三月一四日の前、チベットの中共の役人は、北京で開かれていた「両会」において、「現在はチベットの歴史において、最もすばらしい時期である」と表明していました。ところが、まさに三月一四日の前には、ラサで千人規模の僧侶の平和的な請願を、当局の動員した軍隊と警察が阻止し、寺院を包囲したという事件が起きていました。これは、三月十日から始まりました。この日はチベット史において最も悲壮な祈念の日です。四九年前、無数のチベット人が立ち上がりチベットを占領した中共に抵抗しましたが、武力鎮圧され、ダライ・ラマ尊師と数万のチベット人は、故郷を追われ、異国に亡命しました。そのため、三月十日は、チベット人は骨に刻み、心に銘記した日となり、また中共がものものしく警備を固める日にもなりました。毎年、三月十日には、必ずチベット人が捕まえられたり、殴られたり、投獄されたりします。多くの場合、罪とされる理由は、ただ声を出して、内心の願望を表したということだけです。
 いわゆる「三・一四事件」は、決して突発的ではありませんでした。各地から収集した真実の情報に基づいて、私はブログに、三月十日以後発生した重要なことがらを簡単に記録してきました。それは、以下のとおりです。

2008年3月14日のラサの街頭 三月十日、ラサのデプン寺の五〇〇人の僧侶が平和的に請願したが、当局の軍隊、警察に殴られ、催涙弾などを使用され、数十名の僧侶が捕まえられた。寺院は包囲され、水道は止められ、周辺の食堂は閉鎖され、寺院の僧侶たちの生活は困難に陥った。
 ジョカン寺の周囲では、セラ寺の一四名の僧侶が「雪山獅子旗」を掲げて抗議し、当局の軍隊、警察に殴られ、逮捕され、その凄惨な光景を目撃した多くのチベット人が、警察に止めてくださいと哀願すると、これで逮捕された者もいた。
 三月一一日、セラ寺の六〇〇人の僧侶が平和的に請願したが、当局の軍隊、警察に殴られ、催涙弾などを使用され、捕まえられた僧侶もいた。寺院は包囲され、水道は止められ、周辺の食堂は閉鎖され、寺院の僧侶たちの生活は困難に陥った。セラ寺の周辺にいる多くの民衆が駆けつけ、武装警察に僧侶たちを虐待しないでくださいと哀願した。
 三月一二日、ラサのデプン寺の僧侶二人が腕を切り、セラ寺の僧侶が絶食して抗議した。
 三月一三日、ラサのガンデン寺の数百人の僧侶、チュサン寺の尼僧たち百五十名以上が市街に向かって平和的に請願したが、当局の軍隊、警察に包囲された。ラサの著名な三大寺院〔セラ寺、デプン寺、ガンデン寺〕は当局により閉鎖された。
 三月一四日午前、ラサのラモチュ寺の百人近い僧侶が、デプン寺やセラ寺への連日の弾圧に抗議してデモ行進をしたが、当局の警察に阻止され、殴られ……
 このようなわけで、三月十日から話さなければならないのです。さらには、毎年の三月十日とその後のできごとについて話さなければならないのですが、中国の官制メディアは絶対に伝えません。まして、当局は完全武装あるいはそれに準じた軍隊や警察を出動させ、全く無防備の僧侶たちに何をしたのかなど決して伝えません。僧侶は、仏教において至高で無上の「仏法僧」という三宝の一つで、チベット人は常々僧侶をとても尊敬しています。ところが、中共は以前から僧侶を「寄生虫」と中傷し、宣伝し、その上、僧侶に精神的指導者であるダライ・ラマ法王と一線を画するように強制してきました。このため、チベットの僧侶は、ミャンマーの僧侶のように、平和的に寺院から出て、平和的に訴え、平和的に座り込みましたが、その時に、殴打、連行、包囲に遭遇したのです。そして、チベットの民衆は目の前で起きた暴行を目撃し、当然、積年の怨みや怒りに引火し、みなが知るような大抗議行動となって爆発したのです。これが「三・一四事件」の経緯です。簡単にまとめたものですが、チベット人のために訴えます。

二〇〇八年三月、オーセル

訳者付記:
 福島香織氏の『中国のマスゴミ──ジャーナリズムの挫折と目覚め──』(扶桑社新書、二〇一一年)第三章では、このチベット人の抗議行動と鎮圧をめぐり、オーセルさんのサイトと、中国メディアの大規模な情報操作、それに対して国外メディアが情報不足を補うなどために行った「捏造とも言われても仕方ない編集や間違ったキャプション」について比較検討している。そして、中国国内で外国メディアが「虚偽報道」していると反欧米の愛国民族主義が強まるなかで、「南方週刊」の名コラムニスト長平氏が、本質的な問題は「虚偽報道ではなく情報統制だ」という論評を発表したことを評価している。なお、その後、長平氏は「筆を奪われ」て解雇されたが、福島氏は「体制外メディアなどで再び筆を執ることを願ってやまない」と訴えている。