廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第11回

フェアトレードについて

 主に途上国の製品を正当な価格で購入することで途上国の生産者を支援するフェアトレードについては、日本でも最近知名度が上がっていますが、その実態についてはなかなか知られていません。今回はそのフェアトレードの現状について、少しご紹介したいと思います。

 フェアトレードが必要とされる背景には、いうまでもなく途上国の農民の窮状が上げられます。途上国の農民は多くの場合、首都から遠く離れた農村で小規模農業を行っており、海外市場まで製品を販売する手段を持たないことから、仲買人に生産物を売るしかないのですが、同時に地域のボスであることが多い仲買人はその立場を悪用して、農民が苦労して作った農産物を買い叩く傾向にあります。また、最近は農村部でも教育水準が改善してきているとはいえ、このような農村では読み書きや計算といった基礎教育も十分に受けていない農民が少なくなく、このような無知に付け込んで農民を騙す仲買人も少なくありません。

 これに加えて、世界経済的な観点からはモノカルチャー(単一作物栽培)による脆弱性も指摘することができます。経済性を追求するという目的では1種類の作物の栽培に特化したほうがよいのですが、伝染病などの危険に加え、世界各地で農産物の生産が拡大していることから農産物価格が下落しており、これによりさらに農民の生活が打撃を受けることになります。

 途上国の農民のこのような悲惨な状況を前にして、彼ら農民がきちんとした生活を送ることができるようにしようという目的で始まったのが、フェアトレードです。この運動自体は第2次大戦直後に英米の慈善団体が始めていますが、早くも1960年代には南北連帯運動や開発支援活動として幅広く展開されることになりました。また、伝統的にフェアトレードは主に左派中間層が買い支えていましたが、1980年代になるとマーケティングなど経営学の手法がフェアトレードにも応用され、それ以外の人たちにも広まってゆきました。

 このようなフェアトレードですが、「認証型フェアトレード」と「連帯型フェアトレード」という2つの潮流があります。これについて、今から少し説明してゆきたいと思います。

「認証型フェアトレード」とは、一定基準さえ満たせば誰でもフェアトレードを名乗ることができるというもので、その代表格はFLO(フェアトレードラベル機構、全世界ページ(英語・フランス語・スペイン語)日本支部)です。FLOでは社会的発展、社会経済的発展、環境的発展および労働条件の4分野について、一般基準に加えて商品別の基準も定めていますが、基本的にこの基準さえ守れば大企業の商品であってもフェアトレード認証ラベルを貼ることができるようになっています。認証型は、どちらかというと企業の社会的責任(CSR)に似た形でフェアトレードを推進しているものと言えるでしょう。

FLOによるフェアトレード認証ラベル

◀FLOによるフェアトレード認証ラベル

 それに対し連帯型フェアトレードについては世界フェアトレード機構(WFTO、世界貿易機構(WTO)をもじった名称、英語など)が代表格ですが、あくまでも世界全体に正義をもたらす社会運動としてフェアトレードを推進することを目的にしており、どちらかというと大企業中心の国際貿易体制自体にも批判的な傾向にあります。この団体は毎年5月の第2土曜日を「世界フェアトレードの日」と制定し、フェアトレードの啓蒙などの各種活動を行っています。また、以下のフェアトレード10原則を制定し、社会運動としてのフェアトレードの目指す方向を定めています。

  1. 経済的に不利な立場の生産者に機会創出
  2. 透明性と説明責任
  3. 公正な取引の実践
  4. 公正な価格の支払い
  5. 児童労働および強制労働の排除
  6. 差別撤廃、男女平等および結社の自由への取り組み
  7. 良好な労働条件の確保
  8. 能力開発の提供
  9. フェアトレードの推進
  10. 環境への配慮
世界フェアトレード機構(WFTO)のロゴ

◀世界フェアトレード機構(WFTO)のロゴ

 フェアトレードの市場は、まだ世界的に見ても微々たる割合で、市場全体の1%未満のものが大半です。ただ、特にコーヒーに関しては知名度が非常に高まっており、大企業もこぞってフェアトレードに参加しています。実際、特にロンドン市内では猫も杓子もフェアトレードをうたっており、それだけフェアトレードの認知度が上がっていると言える半面、本当にフェアトレードの趣旨を理解しているのか疑わしい事例もあると言えます。特に大企業については経済支配の構造という点でも批判を多く受ける存在であるがゆえに、本当にフェアトレードの精神に沿うのかという点で議論が巻き起こっています。

 フェアトレードに関連して起きているもう一つの興味深い傾向は、フェアトレードタウン(国際版(英語など)日本版)です。これは、まちぐるみでフェアトレードに取り組む自治体をフェアトレードタウンとして認定する試みで、具体的には以下の5つの目的が定められています(フェアトレードタウン国際版のサイトより)。

  1. フェアトレードを支援する条例を市町村議会が可決し、(市役所や町村役場での会議、事務所内や公営施設内の食堂やカフェテリア内などで)フェアトレードの商品の提供に合意する。
  2. 市町村内でさまざまなフェアトレードが入手可能(内容については国ごとに異なる)。
  3. 学校、職場、宗教施設や公民館がフェアトレードを支援し、可能な場合にはフェアトレードの商品を使用する。
  4. マスコミの取材やイベントにより、地域内でのフェアトレードに対する意識や理解を高める。
  5. さまざまな分野を代表するフェアトレード運営委員会が形成され、目標に関する行動計画を定め、長年にわたって目標を実現してゆく。

 フェアトレードタウンで大切なことは、特に市役所や町村役場がフェアトレードに対して積極的に取り組み、具体的には市役所・町村役場や市町村立の各種施設などでフェアトレードの産品を取り扱うことで、市役所や町村役場としてのフェアトレードに対する取り組みを一般市民に対して紹介し、市民に対して啓蒙活動に励んでもらうことです。もちろん自治体だけがフェアトレードに取り組めば十分なわけではなく、地元住民や地元商店、それに地場企業などが一体となってフェアトレードを盛り立ててゆかなければなりませんが、そういう状況を作り出すにおいては自治体が積極的な役割を演じる必要があると言えるでしょう。今のところ日本では熊本市だけがフェアトレードタウンの認定を受けていますが、世界的には日本を含めて23ヵ国で1301都市がフェアトレードタウンの認定を受けています(詳細はこちらで)。

 フェアトレードについては、認証型と連帯型の2つの傾向があり、それぞれが独自の形でフェアトレードを推進しています。また、フェアトレードタウンの運動は、まだ日本では熊本市だけですが、今後は熊本以外の地域でも同様の運動を推進することが期待されていると言えるでしょう。

◎参考: 「フェアトレード学-私たちが創る新経済秩序」(渡辺龍也、新評論、2010)

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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