廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第23回

第6回モンブラン会議の報告

 さて、今回は11月9日(土)から11日(月)までフランスはシャモニーで開催されたモンブラン会議の報告を行いたいと思います。

第6回モンブラン会議のロゴ

▲第6回モンブラン会議のロゴ

 同会議は世界の社会的連帯経済のリーダーが集まる会議として2004年から行われており、第2回の2005年以降は2年に1回開催されています。前回2011年の会議では、連帯経済の推進にも貢献したブラジルのルラ前大統領がスピーチを行っており、今回もエクアドル・フランスおよびモロッコの各国政府の代表が発表を行い、また今回は国連機関の方も複数参加して発表を行うなど、各国政治や国際政治の舞台にも影響を与える会議となっております。今回は上記のロゴにも記載されているように、「社会的連帯経済を通じてグローバリゼーションの方向を変える」が会議の主題となっており、特にミレニアム開発目標が2015年に期限切れを迎えることから、その後の経済開発の指標や提案づくりが今回の会議のメインテーマとなりました。

 会議は、フレンチアルプスリゾートのシャモニーという町で行われました。シャモニーはまさにモンブランのふもと、イタリアやスイスとの国境にある街で、一般的にはモンブランへの登山客やスキー客が集まる街として知られています。今回の会議は土曜日までは時期の割には暖かい天候に恵まれましたが、日曜日や月曜日の朝方は雪が降り積もっていました。ジュネーブ空港から高速経由で車で1時間程度の距離にあり、交通の便もよいと言えます(会議参加者には空港あるいはジュネーブ駅からシャモニーまでのシャトルワゴンの送迎がついていた)。

シャモニーから眺めるモンブラン

▲シャモニーから眺めるモンブラン

 さて、会議の本編に入りたいと思います。会議ではまず、アブドゥ・サラム・ファル教授(セネガル、男性)とスダ・レディ女史(インド)による、前述のミレニアム開発目標の達成度や課題が発表され、以下のポイントが強調されました。

  • 地球上に住む人たちの相互依存を意識
  • コモンズ(共有材)の価値を世界的に定義し、これらコモンズの生産およびコモンズへの公正なアクセスのために提携関係を構築
  • コモンズの私的横領および管理を禁止し、適切なガバナンス(統治)を実施
  • 個人の参加や繁栄を促す社会的連帯経済の経営モデルを基盤として、競争の論理を克服し社会や環境面での結果を達成
  • 福祉に関する質的指標に加え、社会的連帯経済企業の創設、創造および維持された雇用の数、構造の安定性およびさまざまな人間活動が環境に与える負荷など、2015年後のミレニアム開発目標の進捗を計測するための新しい指標の作成
  • 責任のある生産や消費、さらに富の公正な配分を促す社会的連帯経済の展望を通じた一般民の参加
  • 方向性の変革、起業手法やモデルの変革および規模の変革という三つの戦略的軸に沿った交流構造の構築

 次に、モロッコの手工芸・社会的連帯経済省のブシラ・タウィク局長(女性)が登場し、多くの努力にも関わらず貧困は今でも存在していると述べ、2015年後に別の目標を策定することの重要性を強調しました。彼女はより民主的になった同国の2011年憲法を引き合いに出し、2005年に設立された人間開発ナショナルイニシアチブを紹介し(詳細は後述)、そして「経済成長のない社会的発展はあり得ない。また、グローバリゼーションに付き添い、課題に直面できる新しい経済を構築することが必要である。モロッコは市場経済を選択したが、これは市場社会ではなく、経済的効率と社会的連帯が調和するを社会的経済という意味なのだ」という国王ムハンマド6世のことばを紹介しました。また、協同組合は女性を社会統合し、若者において協同組合への関心が高まっていることや、同国には共済組合が24団体あることを語り、社会的連帯経済の限界(資源、創造性、技術革新、市場へのアクセス、協力や調整などの不足)を説明し、最後に社会的連帯経済を推進する上での同国政府の戦略を紹介しました。

 その後公共政策についてのセッションが行われ、3カ国の代表がそれぞれの国の状況を説明しました。フランスのブノワ・アモン経済財務省の社会的連帯経済・消費担当相(男性)は、同国の国民議会で審議中の社会的連帯経済法について説明し、フランス政府としては中南米での実例からの学習に非常に関心があり(そして実際、フランスとエクアドル両政府との間で社会的連帯経済分野での協力促進の合意が行われた)、また世界各国と協力する用意がある(特にアフリカや米国)と述べ、社会的連帯経済を包摂的成長の戦略と定義しました。次にエクアドルのドリス・ホセフィーナ・ソリス・カリオン経済社会包摂相(女性)が、2008年の憲法改正以前から社会的連帯経済は同国経済において重要な位置を占めており、雇用や収入を生み富を再配分していたことを述べ、ブエン・ビビール(西Buen Vivir、南米先住民のように、あくまでも自然と調和した形で心身両面で満たされた生活を追及すること)の概念を提示しました。さらに、同国では1万7000の社会的連帯経済団体がGDPの25%、雇用の60%および基本的消費財の65%を生産していると語り、同国政府が補助金漬けだった手工芸職人の自立を促した事例を紹介しました。モロッコ内務省のナディラ・エル・ゲルメ人間開発ナショナルイニシアチブ局長(女性)は、自分の職務を「貧困、疎外および不安定性との戦い」と紹介し、全国・地方および市町村レベルでの構造を説明し、2005年から2012年まで3万2000のプロジェクトを通じて700万人がこのプログラムの恩恵を受け、同国政府がこれまで206億ディルハム(約2490億円)投資してきたと話しました。その後、ケベック州で運営されているラコルドリーと呼ばれるタイムバンクをフランスでも運営するための合意文書の調印が行われ、産直農業を目指すキャロットモブ(フランス)、APES(連帯経済のためのNPO、トーゴ)そして国境なきマイクロファイナンス(フランス)の事例が紹介されました。

発表中のブノワ・アモン社会的連帯経済・消費担当相(フランス)。一番左はソリス経済社会包摂相(エクアドル)、その隣にティエリ・ジャンテ・モンブラン会議議長、そして一番右はナディラ・エル・ゲルメ人間開発ナショナルイニシアチブ局長(モロッコ)。

◀発表中のブノワ・アモン社会的連帯経済・消費担当相(フランス)。一番左はソリス経済社会包摂相(エクアドル)、その隣にティエリ・ジャンテ・モンブラン会議議長、そして一番右はナディラ・エル・ゲルメ人間開発ナショナルイニシアチブ局長(モロッコ)。

 9日(土曜日)午後から10日(日)の午後にかけては、前述の三つの軸(方向性の変革、起業手法やモデルの変革および規模の変革)に沿って数多くのワークショップが行われ、以下のような提案が数多く出されました。

  • 社会的連帯経済のアイデンディティを強化する教育
  • 他の担い手と協力した地域開発
  • 社会的連帯経済の視覚化(目に見える形で紹介)
  • ミクロ経済およびマクロ経済的指標
  • 国際機関への働きかけ
  • コモンズの変革について考えるモンブラン会議作業委員会の設置
  • 提携のメカニズムを理解し、担当部署を探す
  • 社会的連帯経済向けの協力プロジェクトを推進
  • 協力的プロセス
  • 熟考のためのグループの作成
  • ニーズの理解
  • 協同組合運動のための政策介入
  • 分野を超えた協力の推進
  • 農業の推進
  • 女性向け社会的連帯経済の行動計画の作成
  • 社会的連帯経済において女性を推進する適切な規制の作成
  • 評価方法の変更
  • 若い女性の参加
  • 女性向けの土地や融資の提供
  • 女性ネットワークの推進
  • 教育の共同構築
  • 社会的連帯経済の価値観に適合した教育
  • 公式あるいは非公式の教育の拡充
  • コモンズの追求
  • 社会的連帯経済の教育に向けた指標の確立
  • 担保を強化することによる金融能力の強化
  • 各国の開発銀行の活用

 この他にも興味深い発表がありました。パレスチナ政府労働省のユセフ・アラヤサ協同組合局長(男性)は、さまざまな困難がある中でも同国経済において協同組合が重要な役割を担っており、さらに発展する可能性があることを強調しました。地域発展民衆銀行のフランシスコ・アントニオ・パチェコ・フェルナンデス総裁(コスタリカ、男性)は、資産総額約40億ドル(約4000億円)そして融資総額約30億ドル(約3000億円)という、同金融機関が果たす役割を紹介しました。フェアトレードアフリカのジェームス・ムワイ取締役(ケニア、男性)は、当初の30万ドル(約3000万円)から200万ドル(約2億円)へと予算が増えた同組織の成長について語り、全てを金銭化する民間部門と共有財を大切にする経済を対比しました。国際協同組合連盟のポリーン・グリーン理事長(英国)は、参加型ガバナンス(特に若者の取り込み)、持続可能性、アイデンティティ、法的枠組みおよび資本という五つの分野で協同組合運動が課題を抱えていることを指摘しました。そして国際労働機関のシメル・エシム女史(トルコ)は、社会的連帯経済に関する国連の取り組みを説明し、協同組合はミレニアム開発目標に寄与することができるが、協同組合側からの参加が未だ欠けていると話しました。

 日曜日にはカナダ・モントリオール市の学生向け住宅プロジェクトUTILE、フランスにおける二酸化炭素排出削減プロジェクトGERES CO2そして女性の社会的連帯経済への参加を促すマリのプロジェクトAPROFEMが紹介されました。スペインのセルジ・モラレス・ディアス氏は、彼が所属する社会包摂協同組合SUARAを紹介しました。

 11日(月曜日)には、「社会的連帯経済の月」(毎年11月を社会的連帯経済の月として、社会的連帯経済を可視化するためのさまざまなイベントを開催)、社会的連帯経済のシンクタンク「Le Labo」、「社会的連帯経済に取り組む女性の国際ネットワーク」そして中南米からの社会的連帯経済に対する取り組みが発表されました。そして最終宣言が読まれ(英語フランス語スペイン語)、閉会式の一環として桜の聖母短期大学の千葉あや女史(日本)が、原発事故後の復興に取り組む福島の様子についてスピーチを行いました。

 今回のモンブラン会議では、若者を社会的連帯経済に取り込む努力がなされていたことが印象的でした。実際、同会議では若者を各種イベントに派遣することで、関係を構築してプロジェクトを推進できるようにしており、この会議はプロジェクトの具体化に向けたステップととらえられていました。個人的にはこの会議がただの討論の場所にとどまるのではなく、新しい社会的連帯経済の取り組みが生まれるインキュベータとなってほしいと思います。

 その一方で、中南米の連帯経済の事例紹介や、中南米と他大陸との連携について十分な関心が払われなかったのは個人的には残念な点に思えました。今回の会議は確かに公用語として3言語(英語・フランス語そしてスペイン語)が使われていましたが、参加者の圧倒的多数がフランス語圏出身者であり、議論がフランス語圏中心に動いていたような気がします。中南米からの参加者を増やし、彼らの素晴らしい体験を他大陸(特に仏語圏アフリカ)の人たちと共有できるような形にできればもっとよかったのではないかと思います。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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