廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第46回

社会的連帯経済国際リーディングチーム第1回会合

 去る9月22日にニューヨークの国連本部で、社会的連帯経済国際リーディングチームの第1回会合が開催されました。今回はその様子についてご紹介したいと思います。

同会合の様子を記録した動画(英語)

 このリーディングチームは、特に国連を通じて国際的に社会的連帯経済を推進する諸政策を実現すべく、2013年に結成されました。現在時点では5カ国政府(50音順でエクアドル、コロンビア、フランス、モロッコ、ルクセンブルク)とカナダのケベック州、そして国連付属の20機関、さらにモンブラン会議(MBM、2013年11月に開催された同会議の様子についてはこちらを参照)、国際協同組合同盟(ICA)都市開発世界基金(FMDV)国際共済組合連合(AIM)なども参加しています。

 モンブラン会議のティエリ・ジャンテー議長の挨拶の後、フランスのアニック・ジラルダン開発・フランス語圏相が最初のスピーチを行いました。同相は国連のミレニアム開発目標により多くの人が極貧状態から脱したもののまだ不十分である点、また開発モデルが持続可能である必要を指摘し、そのためには今までとは別の行動を起こす必要があり、そのツールとして人間と環境を尊重し民主的に運営され、人間関係を築き、雇用を創出して地域経済を振興する社会的連帯経済の重要性、特に雇用がないために貧困に陥る若年層が多いことから、彼らへの雇用創出の重要性を強調しました。また、2014年7月に可決された同国の社会的連帯経済法(同法についての私の記事はこちら)や、同年1月に可決した社会的連帯経済分野での国際協力法についても言及しました。

 次に、モロッコファトマ・マルアン工芸品・社会的連帯経済相の代理としてアブデラー・ラーマイド同国国連代表参事官氏が、同グループへの同国の参加の意思、および同グループにさらに多くの国が参加するように呼びかける旨を、簡潔に説明しました。その後、エクアドルからカルロス・エマヌエレ・オルティス公的医療省国内外協力部長が、同国政府の取り組みを紹介しました。まず新植民地主義や新自由主義により途上国で医療や教育、インフラ整備などに十分に資金が回っていない現状を説明し、他の中南米諸国と協力してより多様、包摂的かつ平等な社会経済体制の構築が必要だと話しました。その後、ラファエル・コレア現大統領が2006年に就任してからその状況が一変したと説明し、周辺諸国よりも大きな同国政府の公共投資の対GDP比やより小さな同国の政府債務について言及し、教育への財政支出の拡大によりはるかに多くの子どもが初等・中等教育を受けられるようになり、また医療支出も増大させ、最貧層の撲滅に向けて邁進していると語りました。その状況の中で、同国憲法に書かれた「ブエン・ビビール」(環境と調和した上で、人間としての尊厳のある生活を送ること)の推進手段として社会的連帯経済をとらえており、資金や知識などが一部の富裕層に独占されていた現状を改革するという政治的意思の下で一連の政策を導入しているものの、包括的な政策の策定や導入のためにはまだまだ努力が必要であると述べた上で、あくまでも経済の主役は人間であり、市場はその人間に供するためのものであるべきだと締めました。

 次に、ルクセンブルクのジャン・クロード・クネブラー総領事が、同国における社会的連帯経済について語りました。同国は、周辺諸国から数多くの労働者が働きに来るほど伝統的に雇用に恵まれていましたがここ数年失業率が上昇していることを説明し、単に金儲けではなく社会的目的の達成のために起業しようとしている若者が多いことから、社会的企業の創設に関心を寄せていると述べました。

 その後、コロンビアのルイス・エドゥアルド・オテロ・コロナド連帯組織特別行政局長がスピーチを行いました。同氏はまず、同国経済同様、同国における連帯経済が最良の局面を迎えていると切り出し、同国には連帯経済企業が21万5000社以上あり、500万人以上が関係しており、年間130億ドル以上を動かしていると説明しました。また、政策としては社会的連帯経済に向けた教育や短期的なプロジェクトの策定を同局で行っていると語りました。また、社会的連帯経済分野でも生産性や利益率を上げる必要があると述べ、企業としての側面を強調しました。その一方で、生産から販売に至る過程でさまざまな困難に直面してきたことも認めました。

 また、独立国ではないものの、社会的連帯経済の分野では独自の存在感を持っているカナダのケベック州からは、ステファン・ファレッカー同州ニューヨーク事務所経済部長が同州の状況を紹介しました。同国は独立国ではないため、正式メンバーではなくオブザーバーの立場での参加ではありますが、国際的な場面でも積極的に活動を行っており、2年に1回同州で協同組合についての国際会議が開かれていると述べました。同州では2013年10月に社会的経済法が可決しており(英語フランス語)、2002年というかなり古い統計ではあるものの、同州の社会的経済では15万人が雇用され200億カナダドルの経済規模であり、また協同組合の5年・10年生存率が一般企業よりも倍の高率であることを示しました。さらに、若年層などの疎外の問題にも触れ、この克服において国内外での協力の重要性を力説しました。

 各国(州)政府代表の発表の後に、国際労働機関(ILO)ニューヨーク事務所のヴィニシウス・ピニェイロ副所長が続きました。まずILOとして、2015年に期限を迎えるミレニアム開発目標の次の開発目標の制定作業の中で社会的連帯経済が十分に検討されていない点に関して遺憾を示した上で、経済成長による雇用創出を促す重要性が力説されました。また、その際に社会包摂や人間としての尊厳を守る雇用を創出するのが社会的連帯経済であると語りました。また、ピーター・ポーシェン企業部長は、民間企業や公共部門では創出できない経済活動を社会的連帯経済が実現可能である点に触れ、経済危機や少子高齢化などによる社会構造の変化、さらには貧困問題に社会的連帯経済が対応可能であると語りました。そしてILOとしては国連内の社会的連帯経済作業部会の発足に加え、2010年以降社会的連帯経済アカデミーを開催しており、インターネット上で「コレクティブ・ブレイン」と呼ばれる情報サイトやe-ラーニングモジュールを開設していることを伝え、各国間で連携関係が生まれていると述べました。

コレクティブ・ブレインのサイト

◀コレクティブ・ブレインのサイト

 引き続き、国連事務局経済社会局(UNDESA)社会的政策開発部のヤン・ウェンヤン開発に関する社会的見通し課長が、国連の社会的連帯経済作業部会について説明しました。彼女はこの作業部会が、2013年5月に開催された学会から生まれたものであると説明し、2013年9月30日に第1回会合が開かれ、現在では国連内の19の関連組織などが参加していると話しました。そしてその目的として、持続可能な開発において社会的連帯経済への認識を高め、その知識を推奨しネットワークを強化し、社会的連帯経済を実現する制度や政策環境を支援し、国際的な取り組みを調整することを挙げました。そして、国連関係の大規模なイベントにおけるサイドイベントの開催や政策方針書「社会的連帯経済と持続的開発の課題」の刊行を紹介して、各国政府が社会的連帯経済およびその自主運営を認知・保護し、各種政策と組み合わせ、各地域において実践例をマッピングし、開発政策を再考すべきだと提唱し、「尊厳のある雇用」、「富の平等な配分・環境に配慮した経済活動」、「地域発展」、「持続可能な都市」、「女性の活躍」、「食糧の安全性」、「国民皆保険」および「金融の改革」という8つの特徴を示しました。

 その後、社会的連帯経済関係者の発表が続きました。まずモンブラン会議のアブドゥル・サラム・ファル学術委員長(セネガル)が、社会的連帯経済に関する世界各国の政策について話し、ブラジルにおけるコミュニティバンク、ホンジュラスにおける有機農業、アフリカ大陸における協同組合の勃興と法制度の欠如、日本などアジアにおける企業の社会的責任に関する法律や日本における消費者生協、脆弱者や障碍者の社会的疎外との戦いを支援する法制度などを紹介した上で、社会的連帯経済の世界的ネットワーク結成や、環境保護、教育、医療、住宅、脆弱者などに対する法制度の制定などの進展について述べました。

 次に、デジャルダン連帯経済金庫(ケベック)のジェラール・ラローズ理事が発表を行いました。まず、複数の経済ということで、いわゆる通常の経済が民間経済、公共経済と連帯経済の3つから構成されており、経済活動は手段であり目的ではなく、あくまでも人間や地域社会のために供するものであるべきであることなどを紹介し、次に貧富の格差の拡大を問題視する声が世界的に日増しに強まっていることや、教育水準の高まりや女性や移民による起業の増加、フェアトレードやリサイクル、有機農業や医療サービスなどの新しい種類の企業を取り上げ、金融や保険、医療や農業などの部門で有力な組織があるものの、国際的な社会的連帯経済の知名度の低さや戦略計画の不足などを指摘し、このリーディングチームによりこれら諸問題を解決しようとしていると結論づけました。

 次に国際協同組合同盟のマーティン・ロウェリー理事(米国)がスピーチを行いました。1895年設立という古い歴史への言及から始め、現在94カ国が加盟しており、世界中の組合員数の合計は10億人超に達し、5000万人以上に雇用を提供しており、2兆ドル以上の年間収入があり、このため世界経済の中でも重要な位置を占めると、世界規模での協同組合運動の現状を説明しました。組合員1人1票などの協同組合の価値観はその原則同様に重要であると彼は述べ、自助努力、自己責任、民主的統治、平等や連帯といった原則が十分に活用されていない点を認めました。また、50万軒への電力の供給に加え地域社会の発展に尽くすボリビア・サンタクルス州の電力協同組合を始め、米国やフィリピン、そしてバングラデシュでの農村地帯で電力協同組合が活躍していることを紹介し、協同組合であるがゆえに安価な電力供給や地域発展が促進されると語りました。

 都市開発世界基金のカルロス・デ・フレイタス氏(フランス)は、同基金が社会的連帯経済を推進すべく、環境や税金面での政策を提案していると語り、世界的な提携構築の必要性を訴えました。最後に国際共済組合連合のアナ・マリア・シルヴァ・マルケス副理事長(ポルトガル)が、社会的連帯経済における共済組合の役割を語りました。非営利で連帯と民主的統治を基盤とする共済組合により個人がリスクから保護され、同連合は27カ国に加盟団体があり、2億人以上に医療保険を提供していることを説明し、皆保険の提供により基本的な社会保障を提供していることを明らかにしました。また、西アフリカで共済組合の開発サポートプログラムを展開しており、2015年以降の国連の開発計画でも医療の大切さが謳われている中で共済組合の果たす役割の大きさを強調しました。その上で、共済組合の発展のための法的枠組みの必要性を訴え、同連合も同リーディンググループを支援していることを表明しました。

 2時間という限られた時間内で、政府や各機関の代表が数多く発言したことから、1人あたりの発言時間が10分前後と非常に限られたものであり、このイベント自体は深い議論に至るものではありませんでしたが、社会的連帯経済という概念やその展望が国連本部で紹介され、さらに国連各機関が社会的連帯経済の推進に向けて動いている点は注目に値します。ニューヨークというと遠く感じるかもしれませんが、日本も国連加盟国である以上、ILOをはじめとした国連関連機関を通じて社会的連帯経済の推進を行う必要が出てくることでしょう(ちなみに、日本にも国連関連機関として国連大学が東京に、そしてハビタットの事務所が福岡にあります)。また、国連自体が開発目標に社会的連帯経済を取り込むようになった場合、日本政府としてもその流れに乗った政策を打ち出さざるを得なくなる可能性が十分にあります。日本国内では社会的連帯経済はほとんど未知の存在ですが、国連という枠組みを活用することで、日本政府へ の働きかけを始めることも大切ではないでしょうか。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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