廣田裕之の社会的連帯経済ウォッチ

第117回

社会的連帯経済における行政の役割:フェアトレード・タウンに学ぶ

 前回(第116回)は、社会的連帯経済における生産者と消費者の関係について検討しましたが、今回は、社会的連帯経済における行政の役割について考えてみたいと思います。

 社会的連帯経済における行政の役割としてまず思いつくのが、各種支援政策の実施であり、これについてはこの連載でも様々な形で取り上げてきましたが、今回は社会的連帯経済の事例への行政の支援ということで検討してみたいと思います。なお、それ以外の記事については、以下をご覧ください。

 国によっては、社会的連帯経済により生産された商品を行政が優先的に購入する制度が整っている場合があります。給食の食材のうち3割を地元の小規模農家から購入するよう義務付けたブラジルや、社会的企業育成促進法で行政による優先購入を認めている韓国がその主な例です。また、韓国やメキシコでは社会的企業や協同組合に対して補助金や減税などの金銭的支援が行われていますが、メキシコでは補助金目当ての協同組合が乱立し、本当に意味での社会的連帯経済の推進につながっていないという批判があります。

 社会的連帯経済の商品やサービスを行政が積極的に買い取ったり、関連事業に補助金や減税などの支援措置を提供したりすることは、社会的連帯経済の実践を推進するというメリットもある一方で、社会的連帯経済の発展が行政頼みになってしまうとデメリットもあります。協同組合の第4原則「自治と自立」では、行政や他の企業などから自立して運営することをうたっていますが、社会的連帯経済の事例がその売り上げの大部分を行政に頼ったり、補助金なしでは経営がうまく行かない状態が長く続くことになったりしてしまった場合、本当に自立しているのか疑問符を付けざるを得なくなります。

 もちろん、行政による社会的連帯経済の推進活動そのものを否定しているわけではありません。むしろ、一般にはなじみの低い社会的連帯経済について行政が各種PRを行って、一般市民に社会的連帯経済の意義を理解してもらうことは、その推進において大切なことです。
  この部類に属するものとして参考になるのが、フェアトレードに積極的な自治体を認証するフェアトレードタウンです。フェアトレードタウンに認証されるためには、以下の5つの目的を達成しなければなりません。

  1. 市議会が、フェアトレードを支援し、フェアトレード製品の使用に合意する決議を採択する。
  2. フェアトレードの商品が地域内の商店で簡単に入手でき、地元の飲食店で注文できる。
  3. フェアトレードの商品が地域内の数多くの職場や地域団体(宗教団体、学校、大学など)で使用されている。
  4. キャンペーンに向けてマスコミの取材および市民のサポートを引き付けている。
  5. フェアトレードタウンの資格維持のために継続的な取り組みを約束する地元のフェアトレード推進グループが存在していること。
フェアトレード・タウンのページ

◁フェアトレード・タウンのページ

 また、日本でフェアトレード・タウンを推進している日本フェアトレード・フォーラムでは、上記の5つの基準に加えて、地域活性化への貢献も基準に加えています同フォーラムのホームページでは、「地場の生産者や店舗、産業の活性化を含め、地域の経済や社会の活力が増し、絆(きずな)が強まるよう、地産地消やまちづくり、環境活動、障がい者支援等のコミュニティ活動と連携している」ことを重視しているわけです。

 2017年10月現在、全世界では2000都市以上がフェアトレード・タウンに認証されている一方で、日本では3都市(熊本市、名古屋市、逗子市)しか認証されていませんが、ここで大切なのは、単に自治体側だけでなく(たとえば市役所食堂や市営地下鉄などで取り扱うコーヒーを、フェアトレードのものに取り換える)、地域の店舗でもフェアトレードの商品を取り扱ったり、市民運動として地域内でフェアトレードの取り組みを推進し続けたりすることが求められているのです。単に行政が積極的になるのではなく、官民一体となってフェアトレードの普及に取り組む必要があるのです。

 そこで提案があります。今のところ社会的連帯経済タウンのような取り組みはありませんが、この考え方を応用して社会的連帯経済についても似たような認証制度ができて、世界各地の自治体がこの認証資格を求めるようになると、社会的連帯経済がさらに活発になるでしょう。今のところ私の個人的なアイデアにしか過ぎませんが、先ほどのフェアトレード・タウンの基準をちょっとアレンジして、以下のような社会的連帯経済タウンを世界的に制定すると、社会的連帯経済に対する世界的な自治体ネットワークが強化されるように思われます。

1. 市区町村議会で社会的連帯経済の理念や実践の推進に関する条例を制定し、社会的連帯経済の商品やサービスの公共調達に取り組む。
2. 当該市区町村内で、あるいは当該市区町村を含む広域圏で、社会的連帯経済を推進するネットワークが存在しており、前者の場合にはそのネットワークに所属する、後者の場合にはそのネットワークに所属するもののうち当該市区町村に本拠地を置く協同組合やNPOなどを一定数以上擁するもの。
3. 社会的連帯経済の一般への周知目的で、行政あるいは社会的連帯経済関係者により、さまざまな啓発活動(社会的連帯経済見本市の運営、地域の大きなイベントへの参加、市区町村報や地域のマスコミでの掲載、小中学校での特別授業など)を官民一体で定期的に行っている。
4. 社会的連帯経済支援センターに相当するものが当該自治体内に存在する(日本の場合、以前の記事でも書いたように既存のNPO支援センターを社会的連帯経済支援センターに模様替えして、NPOに加えて協同組合や社会的企業、フェアトレードなどの支援も担当するようにすれば十分)。

 フェアトレード・タウンの5つの基準のうち、商品の入手可能性や利用度についてはあまり意味がないと判断し割愛しました。協同組合や社会的企業などの事例がある程度存在していれば、必然的にその商品やサービスは地域内で入手・利用できると思われるためです。その一方で、社会的連帯経済の広報については要件を加え、単に地元のマスコミに取り上げられるだけではなく、さまざまな方法で社会的連帯経済というものが存在することを地域の人に知ってもらうことを重視しました。今の日本では社会的経済や連帯経済という概念がほとんど話題にならず(試しに「社会的経済」や「連帯経済」という単語でニュース検索してみましたが、該当する記事は見つかりませんでした)、社会的連帯経済の当事者でさえそのような概念が存在していることを知らない状況ですが、このような状況を打開し、日本社会で社会的連帯経済について幅広く議論が展開されるようになるためには、やはり知名度を上げるための各種努力が大切だと思われます。

 また、NPO支援センターを社会的連帯経済支援センターに模様替えするのも、地域内の関係者に社会的連帯経済を幅広く知ってもらうためには有効な手段だと言えるでしょう。NPO支援センターは各地のNPO関係者には知られた存在ですが、ここが社会的連帯経済全体を支援するようになれば、そこの利用者を中心として社会的連帯経済というコンセプトが幅広く知られるようになります。韓国のソウル市では社会的経済支援センターがありますが、日本でも同じような取り組みが広がると、社会的連帯経済の知名度が一気に高まることでしょう。

ソウル社会的経済支援センターの様子

ソウル社会的経済支援センターの様子

 上記の4基準はあくまでも私案であり、世界の社会的連帯経済関係者に受け入れてもらうためには、今後さらなる検討が必要だと思われますが、社会的連帯経済の認知度や理解度を世界中で高めるために、このような取り組みが進むことを祈ってやみません。

コラムニスト
廣田 裕之
1976年福岡県生まれ。法政大学連帯社会インスティテュート連携教員。1999年より地域通貨(補完通貨)に関する研究や推進活動に携わっており、その関連から社会的連帯経済についても2003年以降関わり続ける。スペイン・バレンシア大学の社会的経済修士課程および博士課程修了。著書「地域通貨入門-持続可能な社会を目指して」(アルテ、2011(改訂版))、「シルビオ・ゲゼル入門──減価する貨幣とは何か」(アルテ、2009)、「社会的連帯経済入門──みんなが幸せに生活できる経済システムとは」(集広舎、2016)など。
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