前回はアジアにおける連帯経済の全体的な動向と、ヨーロッパや中南米と比較した上での現状分析についてご紹介しましたが、今回はそのアジア各地にある実例について深く掘り下げたいと思います。なお、前回もお話しましたように、日本国内における連帯経済の実例については、回を改めてじっくり掘り下げる予定です。

 アジアの連帯経済について語る場合に欠かせないのは、やはり何と言ってもマイクロクレジット(少額融資)の実践でしょう。1970年代にバングラデシュで開業したグラミン銀行が成功を収め、アジアのみならずアフリカや中南米などを含む世界各地に同様の事例が広がってゆきました。

 マイクロクレジットについてはご存知の人も多いでしょうが、簡単にご紹介したいと思います。銀行は伝統的に大企業や国営企業などにはお金を貸し出しますが農村の貧しい人たち、それも子どもを持つ女性に対しては基本的にお金を貸すことがなく、これにより農村の人たちは事業を起こして貧困から脱する機会を得られないことになります。この現状を前にしてムハマド・ユヌス氏は、あえて貧しい人への融資に特化した銀行を作ることでこの問題を解決しようと決断し、グラミン銀行を創設しました。1990年代頃よりこの取り組みはバングラデシュ国外でも知られるようになり、2006年のノーベル平和賞受賞で知名度がさらに飛躍的に高まったのです。

ノーベル賞受賞記念講演を行うムハマド・ユヌス氏

◀ノーベル賞受賞記念講演を行うムハマド・ユヌス氏

 とはいえ、前回の記事でもお届けしたように、連帯経済という世界的ネットワークという観点から見た場合には、他のネットワークや実践例が重要になってきます。今回は、前回の記事を補足する形で、各国の取り組みをご紹介してゆくことにしたいと思います。

 連帯経済のネットワーク作りをアジアで最初に行った国は、言うまでもなく第1回アジア連帯経済フォーラムのホスト国を務めたフィリピンです。同国では各地でさまざまな企業が連帯経済のネットワークに参加していますが、その代表例としては同国を構成する81州のうち70州で活動を行っているAPPEND(英語)が挙げられます。この団体は具体的には、①零細中小企業育成プログラム(融資、資本積み立て、マイクロ保険)、②業務開発サービス(業務創出プログラム、技術教育、技術サービス、業務アドバイス、営業およびマーケティング)、③教育(各種奨学金制度および研修)、④地域開発(インフラ建設、地場企業育成プログラムおよび医療サービス)、⑤環境にやさしい技術の提供、⑥地域投資金融、⑦出稼ぎフィリピン人からの送金を活用した起業プログラム、⑧リーダーシップ能力養成、⑨流通網育成による連帯経済のプログラム、⑩能力および(金融教育、携帯電話ベースの世論調査)、⑪研究開発および⑫プロジェクト管理および資源の活用という多様な活動を行っています。この中でマイクロクレジットについては、2500ペソ(約6000円)から30万ペソ(約72万円)の範囲で提供されており、2011年には290万人が利用しています。

 マレーシアでは、国立大学のデニソン・ジャヤスリア教授が中心となって連帯経済のネットワーク作りが進められてきました。マレーシアは東南アジアの中でもシンガポールに次ぐ高い1人当たりGDPを達成しており、アジアの中では豊かな国ですが、それでも特に農村部では、経済発展に取り残された貧しい人たちが少なくありません。彼らは一般的に伝統的な農業に従事し、大家族で教育水準も低く、マレーシア社会一般との接触も少なく、生活水準を改善しようという意欲に乏しい傾向にあります。このため、マレーシア政府としてもこのような地域の生活状況を改善すべく、さまざまな機関を通じて貧しい地域における起業活動を促進しようとしていますが、社会的企業についてはマレーシア国内で定義づけが行われていないため、現場で混乱が生じているようです。また、各大学でも貧困層向けに雇用を生み出す起業家を養成する教育プログラムが用意されています。

 韓国については、前回もご紹介した通り2007年に社会的企業育成法(日本語訳PDF)が施行され、2013年4月現在で801団体が社会的企業に認定されています。主な事例としては、脱北者を雇用して各種包装箱の生産活動を行うMezzanine I-Pack、視覚障害者による芸術活動を行うハンビッ芸術団(ハンビッは韓国語で「一筋の光」の意味)、農村地域において適切な教育活動を行う忠清南道教育研究所、高齢者や障害者とその世話を行う職員の双方の生活水準の向上を目指して活動するヒューマンケア、青少年に加えて韓国人と結婚した外国人女性や再就職に苦しむ女性などが飲食業界に入れるよう手伝うオーガニゼーション料理、お弁当やおやつの販売を通じて脆弱階層に雇用を提供する幸福弁当、古着や古本などをリサイクルして安価で販売し、その利益をさらに社会に貢献する美しい店、ともすれば非行に走りかねない青年層を芸術活動に携わらせるノリ団、そして持続可能な国内外旅行を推進するトラベラーズマップ(韓国語日本語版ブログ)などが挙げられます。

韓国の社会的企業・ハンビッ芸術団の公演

▲韓国の社会的企業・ハンビッ芸術団の公演

 また、ソウル市では人権派弁護士で数多くの市民運動に関わってきた朴元淳(パク・ウォンスン)氏が2011年10月に市長に就任して以来、社会的企業開発センターや社会的経済支援センターおよび協同組合総合支援センターの開設(社会的企業開発センターについてはこちら[韓国語]を、社会的経済支援センターについてはこちら[韓国語]を参照)、さらに協同組合を今後10年間で8000団体創設し、ソウル市のGDPの5%を協同組合部門が占めるようにする意欲的な計画を発表したり(詳細についてはこちら[韓国語]を参照)、今年(2013年)11月に社会的経済博覧会の開催を計画するなど、かなり意欲的な取り組みが行なわれています。

 この他、インドネシアでは協同組合やビジネススクールなどにより、連帯経済のネットワークが生まれつつあり、中国語圏では香港をハブとする形で緩やかなネットワークが生まれています。また、日本で1995年の阪神・淡路大震災をきっかけとしてNPOに対する注目が高まったのと同様、中国でも2008年の四川大地震をきっかけとして社会的企業への関心が高まっており、具体的には都市戸籍のない子どもたち向けに格安で学校を運営する蒲公英(簡体中国語・英語)、長時間低賃金工場労働の対象になりがちな貧困層の女性に、中国国内で容易に入手できる素材から宝石を作らせ、米国など国際市場に販売するスターフィッシュ・プロジェクト(英語)、北京在住の地方出身者やその子どもに教育を行う花旦(簡体中国語・英語)、農村向けにマイクロクレジット、子どもの早期教育や有機農業などを実施する北京富平学校(簡体中国語・英語)などが挙げられます。