社会的連帯経済とは何かを考える際、場合によっては逆説的に考えることが重要です。すなわち、どのような経済が社会的連帯経済ではないのかという定義から始め、その分析を掘り下げてゆくことで、社会的連帯経済そのものの本質がわかるわけです。まさに「敵を知り己を知る」という孫子の兵法さながらの手法ですが、今回はあえて社会的連帯経済の敵とも言えるサイコパス(精神病質者)についてちょっと考えてみましょう。

 サイコパスについてはさまざまな特徴がありますが、その中でも主に脱抑制(思ったことをそのまま表現してしまうこと)、大胆さ(何をも恐れないこと)そして卑劣さ(目的の実現のためには何でもする一方で、他人への悪影響はとことん無視)が主な特徴となっています。簡単にいうと自分の欲望の充足を最優先して我慢はせず、その欲望の実現の上でいかなる権威をも恐れず(場合によっては法制度を平気で無視する)、そして完全な自己本位主義で行動し、他人や自然環境にいくら迷惑をかけても問題視せず、他人の気持ちなど一切考慮しない、というものです。

 ある個人がサイコパスかどうかを知るには、テストにかけることが重要です。サイコパシーチェックリスト改定版(PCL-R)では、以下の20項目について0(あてはまらない)、1(一部あてはまる)、2(あてはまる)で採点し、40点満点のうち30点以上の人がサイコパスと認定されます。なお、この評価は非常に繊細なものなので、心理学などの専門家以外は安易にこのテストを使って他人がサイコパスかどうか評価してはならないとされています。

  1. 口達者/表面的な魅力
  2. 誇大的な自己価値観
  3. 刺激を求める/退屈しやすい
  4. 病的な虚言
  5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る)
  6. 良心の呵責・罪悪感の欠如
  7. 浅薄な感情
  8. 冷淡で共感性の欠如
  9. 寄生的生活様式
  10. 行動のコントロールができない
  11. 放逸な性行動
  12. 幼少期の問題行動
  13. 現実的・長期的な目標の欠如
  14. 衝動的
  15. 無責任
  16. 自分の行動に対して責任が取れない
  17. 数多くの婚姻関係
  18. 少年非行
  19. 仮釈放の取消
  20. 多種多様な犯罪歴

書籍「サイコパス 秘められた能力」

◀書籍「サイコパス 秘められた能力」

 このリストをまとめると、以下のことが言えます。サイコパスは、基本的にうわべの魅力には富むものの、それは粉飾したものであり、むしろその見せかけによって他人を騙したり操作したり利用したりする一方、その発言は誇張されたものであり、自らの行動に責任を取ることはありません。一見魅力的なため異性との関係はすぐに構築できますが、人格面での魅力に根差したものではないため長続きせず、交際・結婚相手を次々に変えることになります。また、基本的に心が冷え切っており、良心も罪悪感も共感もないため、あくまでも自らの刹那的快楽のみを追求しており、実際に犯罪を含む問題行動を過去いくつも起こしています。

 また、オックスフォード大学のケビン・ダットン教授は「サイコパス 秘められた能力」(邦訳はNHK出版より)という本で、サイコパスが多い職種と少ない職種を10種類取り上げています。

 サイコパスの多い職種サイコパスの少ない職種
1企業経営者介護従事者
2弁護士看護師
3マスコミ関係者(テレビ・ラジオ)療法士
4セールスマン職人
5外科医美容師/スタイリスト
6ジャーナリスト慈善団体関係者
7警官教師
8聖職者クリエイティブアーティスト
9コック医師
10公務員会計士

▲サイコパスの多い職種と少ない職種

 企業経営者についてですが、従業員や自然環境を無視してでも企業利益を最大化する必要がある職種であり、また高額の報酬がもらえることから(海外の一流企業なら、日本円にして数億円~数十億円の年収)、サイコパスにとって魅力的な職種となっています。弁護士というと人権派弁護士を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、実際には損害賠償を求めての民事訴訟で勝訴した場合にもらえる多額の報奨金を求めて裁判を起こす人が少なくなく、彼らはその報奨金のためなら、人間関係の崩壊も厭わないのです。その他、マスコミやセールスマン、ジャーナリストも基本的に、人間関係を壊してまで名声と富(報酬)を求める職種だと言えるでしょう。その一方で、医療・介護などに携わる人の場合、職業上患者や被介護者への思いやりが必要とされるため、当然ながらサイコパスは敬遠することになります。

 企業経営者や、その経営者と密接な関係を持つ企業弁護士にサイコパスに多いということは、当然ながらそれら企業自体もサイコパスとなることを意味します。2004年にカナダで公開された映画「ザ・コーポレーション」(DVD書籍)では、利益のためには全てを犠牲にすることを厭わない大企業のサイコパス性が表現されており、ノーム・チョムスキー、ナオミ・クラインそしてマイケル・ムーアなどの知識人も登場して、その冷血性を糾弾しています。

 しかし、何よりも問題とすべきは、サイコパスと親和性の高い資本主義そのものの体質ではないでしょうか。今の資本主義体制下では企業は、その共同所有者である株主にとって、あくまでも打ち出の小槌に過ぎません。その小槌=株券を通じて利益が出れば出るほどその企業はよい企業であると評価され、株価が上昇し、その経営者は株主から評価されて多額の報酬を手にする一方で、その企業の活動によりどれだけ外部不経済が出ようとも、それが本業の業績に響かない限り株主は気にも留めません。その企業が途上国で児童労働を強制したり、工場周辺の環境を汚染したりしていても、株主はそのあたりの問題には関心を示すことはありません。もちろん、たとえば国際的贈賄事件が表沙汰になり多額の罰金が科されたり、あるいは児童労働や環境汚染の問題により消費者からボイコット運動が起きたりして企業業績が大幅な打撃を受けた場合は別ですが、そうでもならない限り株主はこれら問題に無関心のままです。

 もちろん、社会的連帯経済の推進においては、このようなサイコパス性は徹底的に排除する必要があります。百歩譲って組合員などにサイコパスの人がいた場合でも(サイコパスの人であれ個人としては受け入れるのが多様性を尊重する社会的連帯経済の原則であるため)、彼らがその牙をむき出しにして、社会的連帯経済の根本原理を破壊するような事態は避けなければなりません。このため、たとえば組合員に対してサイコパスかどうかの心理テストを行った上で、サイコパスである人に対しては心理カウンセラーなどがサポートを提供して、その凶暴性を表に出さないようにすることが有効でしょう。また、理事長や主任弁護士など、組合の要職を担当する人については、予めサイコパスでないことを証明することを義務付けることも、場合によっては大切になります。この考え方を発展させて、協同組合でなくても社会の要職(政治家や大企業の経営者など)に対しても非サイコパス証明を義務付けるのも、よいかもしれません。

 また、以前この連載で紹介した公共財経済も、このようなサイコパスの暴走を止める上では有効でしょう。公共財経済においては環境や社会面での外部不経済については厳しい評価が下され、これらの分野で悪影響を及ぼす企業に対しては罰金、あるいは増税が下されることになりますので、カネだけが判断基準のサイコパス経営者や弁護士も、利益が全部吹っ飛んでしまう事態だけは避けたいと思い、それなりの経営や業務を行うことでしょう。ある意味では目には目を、歯には歯をといった措置と言えるかもしれませんが、サイコパス的な社会運営を抑える上では彼らの利害そのものに影響を与えるような方法は、それなりに有効性があるといえます。

▲公共財経済の理念について紹介したビデオ(英語)

 サイコパスという概念については日本ではまだまだ知られていませんが、社会的連帯経済にとっては、場合によってはその敵ともなり得る新自由主義型資本主義企業の特質を理解する上でカギとなるものです。現行経済の根本的な問題点を知るうえでも、この記事がご参考になれば幸いです。