バルセロナ市における社会的連帯経済の発展の歴史や現状については、第77回および第78回の連載ですでに紹介していますが、最近バルセロナ市役所が一連の推進政策を発表(カタルーニャ語)しましたので、今回はそれについて紹介したいと思います。

 スペインでは2015年5月の統一地方選挙により、各地で新しい市長が生まれましたが、その中でも各種先進的な取り組みで最も有名なのが、バルセロナ市長に就任したアダ・コラウです。もともと、住宅ローンが払えなくなったために自宅からの退去を迫られた人たちを守る運動家として有名だったコラウは、市民プラットフォーム型政治を目指す地域政党バルセロナ・アン・コムーから市議選に出馬し(スペインでは首相のみならず、州知事や市長も議院内閣制で、州議会や市議会の議員から州知事や市長が選出される)、見事市長に選出され、シリア人難民の受け入れを進める一方、観光客向け宿泊施設の乱立を抑制するなどさまざまな政策を行っていますが、そのような政策の一つとして市内における社会的連帯経済の推進も行っているわけです。

第4回カタルーニャ連帯経済見本市(2015年10月開催)の開会式で挨拶を行うアダ・コラウ・バルセロナ市長

第4回カタルーニャ連帯経済見本市(2015年10月開催)の開会式で挨拶を行うアダ・コラウ・バルセロナ市長

 この政策は、まず一般的な目的として社会的連帯経済の推進(プロモーション)と強化を掲げており、前者では社会的連帯経済というコンセプト自体の広報や、既存の企業から社会的連帯経済系事例への業態転換、また雇用の創出が、後者は既存の社会的連帯経済系事例の強化(事例同士の相互協力、地区ネットワーク化、広報、雇用創出など)が挙げられます。このような中で6つの軸(フォローアップと研修、金融、相互協力、広報および関係構築、設備およびリソース、そして地域化とコミュニティアクション)が定められ、これら軸ごとに以下のような活動が提案されており、2019年までに約2458万ユーロ(約29億9000万円)の予算が割り当てられています。なお、各活動はさらに細かく定義されていますが、ここでは基本的に割愛したいと思います。

軸A:フォローアップと研修
目的
A1: バルセロナ・アクティバ(同市の経済発展支援局)が社会的連帯経済の事例に向けたフォローアップと研修のリソースになるようにする
A2: この分野におけるフォローアップおよび研修のツールを強化する
A3: 雇用創出および社会性を持つ起業や地域社会の活動のための支援ラインを構築する
A4: 小学校から大学に至るまで、教育機関において社会的連帯経済を統合する
活動
1: 既存の事例向けに協同組合的な総合経営において研修およびフォローアップを実施する
2: 雇用推進のための活動を始める
3: 新規プロジェクトの推進のためのフォローアップおよび研修の活動を行う
4: 市役所やバルセロナ・アクティバなどの職員向けに社会的連帯経済に関する研修を行う
5: 各種教育機関において社会的連帯経済推進のための活動を行う

 この分野においてですが、社会的連帯経済の社会や環境への影響を評価するツールの開発、女性が大部分の事業への支援、そして教育機関における社会的連帯経済の教育活動の推進が特筆できます。影響評価ツールは、スペイン全国の連帯経済ネットワークREAS(レアス)や、カタルーニャ州のネットワークXES(シェス)が推進している社会的市場を応用したもので、基本的に社会や環境にプラスの影響を与えているかを測定した上で、そのような商品やサービスであれば行政としても積極的に購入したり、あるいはその他一般に推進したりしようというものです。また、教育機関における社会的連帯経済の教育活動についてですが、スペインでもまだまだ一般には知名度の低い社会的連帯経済という概念を広く知らせるには、青少年向けの啓発活動を積極的に行うことがカギというわけです。

軸B:金融
目的
B1: 市役所と倫理金融システムとの間で安定した協力の枠組みを確立する
B2: 新たな金融文化を構築する
B3: 倫理金融に関する市民の認識を高める
B4: 利用を促進することにより、社会的連帯経済内外の分野で倫理金融システムへのアクセス増大に貢献する
行動
6: 社会的連帯経済の取り組みへの融資のアクセスを簡素化する
7: 市役所のニーズに応える形で倫理金融の銀行取引を活用する
8: 新しい金融文化のためのツールを促進する
9: 倫理金融を市民およびその他の経済活動分野に近づける
10: 社会的連帯経済の新たな事例の創設を促進するための税制改革を分析する

 金融面ではそれほどコメントすることはありませんが、市役所自体がその利用者になったり、そのような金融制度があることを市民に知らせたりすることが主眼となっています。

軸C:相互協力
目的
C1: 社会的連帯経済の実践を行う実例を見出すためのツールおよびリソースを促進し、市役所による契約や助成金の提供、市役所による購買および実例同士の取引、さらに市民による責任のある消費において優遇する
C2: 責任のある公共契約のプロセスの開発に寄与する
C3: 社会的連帯経済の連携プロセスを支援する
行動
11: 納入業者としての社会的連帯経済の諸事例のアクセスを促進する
12: 責任のある公共契約を推進する政策やツールの開発に寄与する
13: 見本市、会合および講座の推進やサポートを行う
14: 社会的連帯経済の社会政治的連携プロセスを支援する(行政と社会的連帯経済関係者との対話強化)
15: 社会的連帯経済の企業および地域社会との連携プロセスを支援する(事例同士での購買強化など)
16: 市町村レベルでの社会政治的連携プロセスを支援する(社会的連帯経済の推進に積極的な市町村との提携)
17: 社会的通貨(地域通貨)の創設をフォローアップする

 この軸については、まず協同組合の第6原則(協同組合間の協同)を社会的連帯経済全体に応用したうえで、そのような理念を共有する団体として自治体も、できる限り社会的連帯経済関係者が提供する商品やサービスを購入しようという考え方が見られます。また、行政と社会的連帯経済分野での対話を強化するのみならず、同様の考え方を持ったスペイン国内外の市町村との交流も強調されています。

軸D:広報および関係構築
目的
D1: 社会的連帯経済分野への所属感を強める参加型の社会的連帯経済に共通の関係および概念の構築を行う
D2: 生産、流通、消費および貯蓄の実践例における変化の創出に貢献することにより、社会的連帯経済を推進したり、市民や各組織に意識付けを行ったりする
D3: 社会的連帯経済を形成するさまざまな分野や実践例の声を拾ったり視覚化したりすることで、戦略を決め、ツールを開発し、社会的連帯経済の原則に基づいて制御されるチャンネルを確立する
D4: バルセロナ市役所の組織全体に対して、社会的連帯経済が全世界的なものであるという意識を伝達し意識付けを行う
行動
18: 社会的連帯経済分野での関係を構築する
19: 市役所組織に社会的連帯経済を統合する
20: 社会的連帯経済の実践例および業界団体の広報を推進し能力形成を行う
21: 社会的連帯経済に特有の広報および視覚化のツールを作成および管理する
22: 市民全体に向けて社会的連帯経済を視覚化する行動を行う

 この分野で大切なことは、とにかく社会的連帯経済についての知名度を高める必要があるということです。実践者自体が社会的連帯経済についてよく知らないことも少なくない現状があるので、実践者向けへの啓発活動(18)、次に市役所職員向けの啓発活動(19)が挙げられますが、やはり何よりも大切なのは、一般市民に向けてどのように知ってもらうかという点でしょう。現在のところバルセロナ市内最大のイベントとしては、毎年10月に開催される社会的連帯経済見本市が挙げられますが、市内中心部からかなり離れている見本市会場内で開催されているため、社会的連帯経済について全く知らない通行人に知ってもらうのは難しい現状があります。やはり、カタルーニャ広場など人通りの多い市内中心部で啓発イベントを行うことが大切でしょう。

▲動画:社会的連帯経済見本市(2015年版)

軸E:広設備およびリソース
目的
E1: バルセロナ・アクティバという市役所の敷地を、社会的連帯経済および社会的経済のイノベーションの場所として活用する
E2: 市役所の設備を社会的連帯経済向けに提供する
E3: 地区ごとに社会的連帯経済の推進向けインフラやリソースの創造を支援する
E4: 公共設備の地域による使用を支援する
E5: 社会的連帯経済を市役所の政策および実践に統合する
行動
23: 利用可能な設備を特定する
24: ニーズや空間を新たな形で利用する(コワーキングやイベント向けスペースなどとして)
25: 市役所における社会的連帯経済担当施設としてエル・ファー(El Far)を開設する
26: 市内でも代表的なプロジェクトを支援する
27: 社会的連帯経済を市役所の他分野のプロジェクトと統合する
28: 社会経済的参加における総合的協同システムのモデルを開発すべく、具体的な事例を支援する

 この中でも特記できるのは、社会的連帯経済支援センターとも呼べるエル・ファーの創設でしょう。これは、おそらく日本各地の自治体が設置しているNPO支援センターや(といってもこれはNPO限定ですが)、ソウル市役所が設置している社会的経済支援センターと同様のものですが、スペインではこのような支援センターがあまり存在していないことを考えると、画期的と呼べるでしょう。

軸F:地域化とコミュニティアクション
目的
F1: 社会的連帯経済を地区ごとに推進し、地区内での理解を深め、各地のニーズや特性に応じた行動を行う
F2: 市内10地区ごとに特有の戦略を策定する
F3: 地区内で代表的なプロジェクトを支援し、新しい可能性を特定する
行動
29: 地区ごとの行動から社会的連帯経済の醸成プロセスを推進および強化する
30: 市内における社会的連帯経済の代表的事例を強化および推進する
31: エイシュ・ムンターニャ(山の軸): 山間部を都市に開くことで社会的連帯経済の実践を推進する

 最後に、地区ごとにおける社会的連帯経済の推進についても述べられています。バルセロナ市と一口にいっても地区ごとに性格がかなり異なり、高級住宅地、中流階級の住宅地、オフィス街、観光客が多く訪れる中心街、元工場地帯で現在ではIT産業などが集う再開発地区、そして労働者階級や失業者が多い下町では、ニーズが大幅に異なります。このようなニーズに基づいて、地区ごとに適切な事業を行う一方、地区内で代表的な事例をモデルケースとして市民に社会的連帯経済をより深く知ってもらおうというわけです。

 バルセロナ市役所から日本の自治体が学べることはいろいろあると思いますが、前述した点以外でいくつか書き加えたいと思います。

  • 地域での事例一覧およびネットワークづくり: おそらく日本でも、社会的連帯経済に分類可能な事例は数多くあるものと思いますが、これら事例の運営者の中で社会的連帯経済という自己認識を持っているものは皆無に近いと思われます。このため、一覧表を作った上で社会的企業やNPO、フェアトレードや消費者生協など各分野の関係者が分野の枠を超えて、社会的連帯経済という大きな枠組みの下で団結するよう、当初は行政がある程度お膳立てするのも悪くないでしょう。
  • 社会的連帯経済に積極的な自治体同士の交流: 社会的連帯経済に積極的な自治体がある程度そろったら、その自治体同士でネットワークを作り情報交換を行うという手があり、バルセロナ市は昨年より毎年10月にそのような自治体を集めた国際会議を開催したり、スペイン国内で社会的連帯経済の推進に積極的な自治体のネットワークを結成したりしています(同様の例としては、韓国の社会的連帯経済地方政府協議会が挙げられる)。日本では時期尚早かもしれませんが、機会が熟すのを待ってそのような行動に移すことが大切でしょう。
  • 社会的連帯経済に積極的な自治体の認定: これはむしろ、行政というよりも社会的連帯経済の業界団体側で行うべき取り組みですが、フェアトレードの分野では、その推進や実践に積極的な市町村をフェアトレード・タウンとして認定しており、日本でも熊本市、名古屋市および神奈川県逗子市が認定済みですが、この発想を社会的連帯経済全体に応用して、それに積極的な自治体を認定してみてはどうでしょうか。

 バルセロナ市役所の政策はこのようなものですが、日本の各市町村や各都道府県の関係者にもご参考になれば幸いです。