今回は、社会的連帯経済と似ているものの異なる概念である非営利組織(NPO)あるいは非営利セクターについて紹介したうえで、社会的連帯経済との違いについて明らかにしたいと思います。日本ではどちらかというと、社会的連帯経済よりもNPOや非営利セクターのほうが広く知られていると思いますが、両者の違いをわかりやすくお伝えいたします。

 NPOあるいは非営利セクターは、米国で刊行されその後邦訳も出た「台頭する非営利セクター」(レスター・M・サラモンなど著、ダイヤモンド社、1996)で有名になった概念です。英語圏では第3セクター(third sector)とも呼ばれますが(第1セクターである公共部門にも、第2セクターである民間営利部門にも属さない)、日本で一般的な第3セクター(3セク、官民共同出資企業)とは定義が大幅に異なるので、その点で注意が必要です。なお、今回の記事では以下、あくまでも英語圏の意味で第3セクターという表現を使ってゆきます。

 非営利セクターあるいは第3セクターという考えは、行政と民間企業のどちらであっても都合が悪い分野、特に社会や環境のためになる事業は、非営利セクターが担うべきという考え方です。たとえば、低所得層の子ども向け補習塾の運営について考える場合、以下のような違いがあります。

  • 行政: 一般的に運営費用が割高になり、また諸規則などによりどうしても運営が硬直化して、現場のニーズに応じた対応が困難になりがち。
  • 一般の民間企業: あくまでも利益を追求する存在であるため、儲けが少ない、あるいは全然出ない低所得層相手の補習塾の運営には興味を示さない。また、仮に利益を見込めるため参入する場合でも利益第一主義になり、社会的側面や環境的側面に目をつぶる場合が少なくない。
  • NPO: 行政に特有のコスト高体質や硬直性や、民間企業に特有の利益第一主義と無縁であるため、あくまでも利用者本位の運営が可能となる。

 このような側面においては、NPOは社会的企業(詳細は第10回の記事で)のうちの一部に近い存在だと言えるでしょう。社会的企業の中には、法人格こそ有限会社(日本では新設できなくなりましたが)や株式会社など一般企業と変わらないものもありますが、経営者の方針により利益追求をあえて行わず、その社会的使命を企業活動の最重要目的にしている場合があります。このような社会的企業の目的としては、長期失業者や障碍者、あるいは元受刑者など雇用を通じた社会参加が困難な人の社会参加を支援するものもありますが、今回取り上げる低所得層向け補習塾のように、普通の市場価格を支払えない人たち向けに安価に商品やサービスを提供するものもあります(同様の例としては、欠食児童などを対象として安価な食事を提供する社会的食堂を挙げることができるでしょう)。

米国の社会的企業連合のサイト

▲米国の社会的企業連合のサイト

 しかし、このような社会的企業とNPOの間には、決定的な違いがあります。このような社会的企業が法人格としては有限会社や株式会社などである場合、経営権はあくまでもその企業の経営者にあり、その企業で働く労働者や、その企業を日ごろから利用する消費者は経営に参加する権利を持ちません。その一方、NPOであれば会員は誰でも総会に参加でき、限定的とはいえ経営に参加することができます。

 また、当然ながらこのような事業の主体として、協同組合を想定することも十分可能であり、実際そのような事例も少なくありません。協同組合といってもいろんなパターンがありますが、主に以下のような場合が考えられます。

  • 労働者協同組合: 補習塾の教師やスタッフ自らが出資し運営を行う。低所得層向けなので収入は少ないが、やる気のあるスタッフが集まって運営を行う。その一方、低所得層である子どもの保護者は特に経営に参加できるわけではない。
  • 消費者協同組合: 低所得者である親が集まって組合を作り、学生バイト講師を活用したり、親自身が経営や教育を行ったりすることで運営コストを下げる。また、親自体が組合員であるため、親の意見をそのまま補習塾の運営に反映させることができる。ただ、実際にはこのような協同組合は低所得層よりも、既存の学校教育に批判的な中間層により結成されることのほうが多い。

 また、非営利セクターにおいて重要なもう一つの分野として、私立大学や私立病院が挙げられます。これらはNPO同様非営利の原則で運営されるため、非営利セクターにおいて重要な役割を果たしています。しかし、これら私立大学や私立病院はあくまでも理事会が経営を担い、学生や患者はその運営に関わることはできません。非営利=非資本主義的という点ではこれら事例はある程度評価できるものの、民主的な運営という点ではいまいちと言えるでしょう。

 しかし、何よりも大きな点は、非営利セクターと社会的連帯経済では、そのビジョンそのものが異なり、それにより含まれる事例も異なるのです。これについて見てみましょう。

 非営利セクターという概念が強調される背景には、あくまでも民間企業による営利事業としても、行政によるサービスとしても適切な運営ができない事業を非営利セクターに任せるべきだという考え方があります。逆にいうと、民間企業でも十分に実現可能な分野である場合、非営利セクターに任せる必要はないというものです。資本主義の論理で適切な商品やサービスが提供可能である限り資本主義企業に任せるべきであり、それでは成り立たない分野だけを非営利セクターが担当する一方、大企業はこれら非営利セクターの事業に対して寄付などの形で支援することが望ましいというわけです。その一方、非営利ではなく各種協同組合については、当然ながら第3セクターには含まれません。

 この論理では、基本的に利益が見込める分野は全て資本主義企業の守備範囲となり、これら企業は利益の最大化のために邁進することになります。特に米国は医療や教育の点でこの論理が極端であり、病院での手術代や大学の年間授業料が日本円にして数百万円台という高額になることも少なくなく、特に同国の中流階級に重い負担となってのしかかっているのです。また、社会的企業自体も「人間らしい資本主義」と呼ばれたり、フェアトレード(詳細は第11回の記事で)についても基本的に認証さえ受ければ、多国籍企業による製品でも積極的に受け入れたりする傾向にあるわけです。あくまでも資本主義経済という枠組みは守ったうえで、国家財政によるケインズ型の修正資本主義とは異なるものの、別の意味での修正資本主義を模索しているのが、非営利セクターという考え方なわけです。

 その一方で、社会的連帯経済という考え方は、そもそも資本主義一辺倒の現在の経済観に疑問を呈するところから出発します。特に、協同組合運動においては労働者あるいは消費者などとして実際の経済運営に参加するという意識が非常に強く、あくまでも労働者あるいは消費者による民主的運営を基盤とした経済活動の領域を広げてゆくことが目的となっています。営利が出る分野であっても、労働者や消費者による自主運営が可能であるならば、そこに積極的に進出していって非資本主義的な経済の範囲を広げようというわけです。スペインの例でいうなら、モンドラゴングループに加え、例えば再生エネルギーの消費者協同組合ソム・エネルジーアや各種教育協同組合、また最近形成されつつある経営コンサルなど専門職による協同組合などは、まさにこのような事例だと言えるでしょう。さらに、フェアトレードについても、単に認証を得ればよいのではなく、現地での民主的な運営や南北連帯などが強調されるようになるのです。

再生可能エネルギーの消費者協同組合ソム・エネルジーアのサイト

▲再生可能エネルギーの消費者協同組合ソム・エネルジーアのサイト

 もちろん、非営利セクターの主役であるNPOは、社会的連帯経済の立派な一員でもあることには間違いありません。しかし、非営利セクターという観点では、主に資本主義企業が進出しない=儲けの出ない分野を担当するという意識が強くなる一方、社会的連帯経済という観点では、非営利=会員に配当を分配しない限りどんな活動でも可能となるという意識が強くなります。あくまでも資本主義を補完する存在としての非営利セクターと、資本主義とは異なる論理で経済活動を運営する社会的連帯経済では、実践例としては似たようなものであっても、その目指す方向性に大きな違いがあることをご理解いただければ幸いです。