報告書の表紙

◁報告書の表紙

 昨年(2016年)の11月10日から12日にかけて、REASエウスカディ(バスク州)の主催で、同州の最大都市であるビルバオ市内で第2回社会的連帯経済会議が開催されましたが、「社会的連帯経済の展開のためのいくつかの道のり」という副題とともにその報告書(スペイン語版バスク語版)が刊行されましたので、こちらでその内容をご紹介したいと思います。ちなみに、この会議が開催されたビルバオ市では来年(2018年)に、第4回グローバル社会的経済フォーラムが開催されることになっています。

 この会議では以下の6つの軸ごとに分科会が設けられ、参加者はこれらのうち1つに参加して議論を深めました。分科会ではまず基調講演がいくつか行われたあと、参加者と課題を検討して提案や戦略を構築してゆくという手法が取られました。

  1. 包摂的かつ民主的な経済
  2. フェミニストな場合に経済は連帯
  3. 潜在力と限界を超えて。社会的連帯経済の生産組織の創造、開発および転換
  4. 公共財と社会的連帯経済
  5. 市民参加と連帯経済: 社会的連帯経済の構築における幅広い協力構造
  6. 持続可能な世界における新たな経済に向けた移行

 1「包摂的かつ民主的な経済」では、資本主義の目的は私たちの生活すべてを商品化して利益を得ることであり、それにより社会的疎外を含むさまざまな面で悪影響が出ているという前提から出されました。そのような中で、必要に応える公共財として労働をとらえる必要があり、社会的連帯経済の原則の応用に加え、利潤を必要以上に貯め込まない経済が求められていることや、行政自体が雇用の創出にもっと取り組んだり、ワークシェアリングを実現したり、税制を変えたり、さらにはベーシック・インカム(後述)の導入を検討したりすることの重要性が議論されました。

 2「フェミニストな場合に経済は連帯」はちょっとぎこちない訳ですが、これは経済活動がフェミニズムの原理を守ってはじめて連帯経済となるという意味です。ここでは、命を大事にするという点でのフェミニズム経済と連帯経済との親和性や、男尊女卑的で女性を大事にしない現在の経済構造への批判が述べられた後に、女性のエンパワーメントや男女の人事バランスの改善、さらには「世話」の経済の拡張(育児や老人介護のみならず、地域社会への参加も含まれる)などが提唱されました。なお、このあたりについては第13回IDEARIA報告(第106回)でも取り上げていますので、ご参考になれば幸いです。

 3「潜在力と限界を超えて。社会的連帯経済の生産組織の創造、開発および転換」では、これまでの社会的連帯経済の発展を評価しつつ、量的にも質的にもさらに飛躍が必要だという現状認識から始まり、内的および外的な機会と障害を認識する必要が語られました。社会的連帯経済は脱成長(後述)の議論と親和性が高く、成長という単語そのものに拒否感を示す人が少なくないのですが、ここでは成長のよい側面や、規模の重要性が認識されました。また、社会的連帯経済の商品やサービスといえども、社会的連帯経済ではない商品やサービスとの競争にさらされていることから、競争力をつけたり、効果的なマーケティングを実施したり、または連帯経済関係者の間での地域密着型のネットワークを強化したり、行政からの支援を求めたりする必要性が議論されました。

 4「公共財と社会的連帯経済では、「公共財」という表現こそ使われていますが、第48回の記事で取り上げた「公共財経済」とは異なり、具体的には再生可能エネルギーの消費者協同組合や有機農業の実践例などを対象としています。ここでは、過去の知恵に学びつつも、従来の公共財(共有地や灌漑設備、あるいはもやい的な人間関係など)に限定されない公共財という考え方を導入し、介護やまちづくりなどにも応用してゆくことが提唱されています。その際に、運動家用語ではなく一般的に受け入れられやすい用語を使ったり、地域にある資源の一覧を作ったり、フードマイレージ(詳細は後述)などの流行に乗ったりすることも検討されています。

 5「市民参加と連帯経済: 社会的連帯経済の構築における幅広い協力構造」では、既存の成功事例のさらなる発展の方法として、事業拡大・成功事例の再現および翻案という3つの可能性を示した後に、社会的市場(後述)の構築、行政による推進および文化的変革のための幅広い連携の重要性が述べられています。そして、自分たちが持つ恐怖心やタブーについて語った後、その克服のための戦略が練られました。

 6「持続可能な世界における新たな経済に向けた移行」では、持続可能ではない経済が運営されている現状が語られた後に、地産地消型経済への回帰、製品の消費を減らす(脱成長の議論に沿ったもの)、再生可能なエネルギーによる発電の推進、小グループによる生産活動の推進、残飯の削減、リサイクルの推進、石鹸やジャムなどの自家製造、肉食の削減、住宅の断熱の改善、乗用車の使用削減などが提唱されました。大事なこととしては、大声で革命と叫ぶのではなく、静かに、しかし確実にライフスタイルの移行を達成することであり、またこの移行には個人の内的な変化も伴うということです。

同会議で講演するジャン・ルイ・ラヴィル氏

▲同会議で講演するジャン・ルイ・ラヴィル氏

 上記の社会運動の中で、日本ではあまりなじみのないものも少なくないので、ちょっと説明したいと思います。ベーシック・インカムは、完全雇用が難しくなった欧州各国などで最近主張されている政策で、具体的には年齢や雇用の有無などに関係なく、誰に対しても一定の収入を保証しようという運動で、フィンランドの一部などでは実施されています。脱成長は、天然資源の量が限られている以上、際限なき経済成長は持続不可能で遅かれ早かれ破綻するのが目に見えているため、経済成長の速度を落として持続可能な社会を作ろうという動きで、特にフランスのセルジュ・ラトゥーシュの影響を受けてスペインではこの運動がかなり盛んになっています。

 フードマイレージも、どちらかというと持続可能性の観点から提起された社会運動ですが、基本的にできるだけ消費地から近い場所で収穫された農作物などを消費しようという運動です。当然のことながら輸送には石油が必要となるため、できるだけ石油を必要としない形、すなわち地産地消という形で生産を行うべきだ、というもので、トランジション・タウンズとも相通ずるものがあります。また、社会的市場は、基本的に連帯経済の原則を守って生産された商品やサービスのみが販売される市場ということで、スペインの連帯経済ネットワークREASにより積極的に推進されています(これについては、次回取り上げます)。

 最後に、このような6分科会の結論からマニフェストが編纂されました。その中でいくつか重要と思われる点を抜き出して紹介したいと思います。

  • 他の社会運動家とともに、良質な雇用のための政策として社会的連帯経済を推進するよう要請
  • 魅力的でオープンなアイデアに基づいた成長という概念により、いろんな人を社会的連帯経済の運動に引き寄せる
  • ライフスタイルの変革や地域の絆の創成に向けた消費モデルへの移行を図る
  • 街に出て社会的連帯経済の商品やサービスを一般の人に知ってもらう

 私もこの会議に参加しましたが、確かに全体的な印象として、連帯経済の枠内に閉じこもるのではなく、行政に働きかけたり、それ以外の社会運動と連携したりしてさらなる成長を模索しているな、という印象がありました。2015年に行われた統一地方選により、連帯経済に理解を示す市役所が増え、その中には実際に連帯経済の支援のための公共政策を打ち出しているところもあるため、どのような公共政策を実施すべきかということが幅広く議論できる土壌が整っていると言えます。日本では社会的連帯経済という概念そのものがほとんど知られていませんが、このような議論がご参考になれば幸いです。