狼の見たチベット

第25回

チベットの子供たち

 吾輩は狼である。
 子供はいいものだ。柔らかくてジューシーで、、ではなく、純粋で行動力がある。
 もちろん、変に悟って可愛げのない子供もいるが、そういう子供は持ち合わせてない純粋な部分の代わりにジューシーな部分を吾輩の役に立ててもらいたい。

 しかし、子供の純粋さと行動力は時に哀しい出来事を引き起こすこともある。
 十字軍と言う名前は、お前さんたちも聞いたことがあるだろう。
 イスラム教徒に奪われた聖地エルサレムを奪回すべくヨーロッパ諸国から派遣された遠征軍だ。
 もちろん、この奪われたという表現はキリスト教諸国の視点からの言葉で、ユダヤ教徒やイスラム教徒には違う観点があるかと思う。
 11世紀の終わりから、13世紀の終わりにかけて、何度もの十字軍が編成された。
 四度目の十字軍が失敗してから数年後、エティエンヌという名前のフランスの羊飼いの少年が聖地エルサレムに向かった。
 彼は、自らが神の啓示を受けたと信じていた。聖地を回復するための十字軍が何度も失敗しているのは、心が汚れた大人たちが聖地を目指したせいだと彼は思った。聖地を回復するのは心の汚れた大人ではなく彼ら穢れない子供のの使命だと彼は信じていた。
 少なくとも数千人、多ければ二万人の子供たちがエティエンヌとともにエルサレムを目指したと伝えられている。
 満足な旅行費用も持たない彼らは飢えに苦しみながらエルサレムを目指した。
 そして、船に乗せて旅を手伝ってくれるという商人たちに騙されて、奴隷商人の下で旅を終えた。

 チベットでも、子供たちが純粋さと行動力ゆえに苦難に陥っている。
 2010年春、チベット各地で子どもたちによる抗議行動が起きた。
 毎年、春、3月はチベット人たちの抗議活動が盛んになる季節だ。2008年に大規模な抗議活動が起きて、数百人のチベット人が命を落とし、数千人の人々が捕らえられたことは諸君らの記憶にもあるだろう。
 2010年の3月14日、東チベットアムドにマチュ県という場所にある中学校で、30人の中学生たちがデモを起こした。
 彼らは「チベットの自由」「ダライラマの長寿」「2008年のデモで捕まったまま帰ってこない家族の釈放」等を求めて行進した。
 子供たちだけに、そんなことをさせてはおけないと町の人々も合流しデモ隊は500人まで膨れ上がった。
 デモは、この学校だけにとどまらず、周辺の学校に拡散していき、多数の中学生、高校生がデモに参加した。
 多くの子供たちが逮捕され、責任を問われて教師たちも逮捕されたり免職になったりした。
 2010年9月、捕まった少年少女のうち二人、ガワン・サンドルという少女と一人の少年に退学処分が下った。
 2人は、今後他の学校に再入学することを禁じられるとともに、中国政府による思想教育を受けることになった。
 そして、最初のデモのリーダーとされるツプテン・ニマという少年に対しては、懲役二年の刑がくだされた。

 チベットの子供たちの苦難は春だけでなく、秋にも続いた。
 2010年10月東チベットのアムドのレコン(青海省黄南自治州同仁)で県政府が新しい教育方針を通達した。
どんな通達かと言えば『学校では、チベット語ではなく、中国語で教育を行う。』、『これから5年以内に現在チベット語で書かれている教科書を全て中国語に変えることとする』というものだった。
 おや、チベットではチベット語の教育はできないんじゃなかったのか?ときちんと今までの話を読んでくれてた人は思ったかもしれない。
 チベット自治区以外のチベット、幾つもの中国の行政区分に分割されている東チベット地域は、チベット自治区より幾つかの制限が緩やかな部分がある。そのためチベット自治区ではすでに禁止されているチベット語による教育が東チベットでは今も行われている。
 今回の話は今まで許されていたチベット語による教育がついに東チベットでも許されなくなろうとしているということだ。
 現地では、中学生や高校生を中心に、自分たちの言葉で勉強を続けさせて欲しいというデモが起きた。
 数百人や、数千人規模のデモが各地で起きた。
 散発的に続くデモの中、吾輩が把握してるだけでも20人の子供たちが中国当局に捕らえられた。

 チベット東部アムドのチャブチャ(中国の行政区分で言う青海省海南チベット自治州共和県)で起きたデモの様子
 ※画像クリックで動画再生

チベット東部アムドのチャブチャで起きたデモ

 自分たちの言葉で学びたいというチベットの子供たち。
 彼らを待ち受ける運命は、少年十字軍のように全てを奪われるものになるのか?
 あるいは苦難に報いるだけの結果が起きるのか?
 狼である吾輩には無理だが、お前さんたち人間にはできることがある。
 中国当局に対しての、チベットの子供たちにチベット語で学ばせて欲しいという署名だ。

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著名用紙ダウンロード(161.2KB)
 中国政府に対して、チベットの子供たちにチベット語で学ばせて欲しいという署名です。
 もし、ご賛同いただける方がいましたらプリントアウトし2011年3月7日までに下記の住所にご送付ください。
プリントアウトすると、日本語と英語の二枚の署名用紙がでてきますが、送付先が別(それぞれ在日中国大使館宛と、中国の文部大臣宛)ですので、お手数ですが両方にご署名ください。(署名は日本語でも英語でも結構です)
 短い期間ですが、よろしくお願いします。

〒810-0041
福岡市中央区大名2-6-46
福岡市立青年センター5F
福岡市NPO・ボランティア交流センターあすみん内
「チベットを知る会」連絡ボックス宛

上記の署名活動は終了いたしました。ご協力に感謝いたします。

コラムニスト
太田 秀雄
1971年福岡に生まれる。地元筑紫丘高校を卒業後、九州大学で生物学を専攻する。コンピュータプログラマを生業とする傍ら、いまだに学究心が捨てきれず大学に戻ろうと画策している。2008年3月のチベット騒乱を機にチベット支援に積極的に関わるようになり、国内外のチベット支援者や亡命チベット人達と広く交友関係を持つ。チベット支援をしているものの、別段中国の全てに否定的というわけではなく、とくに『三国志』や中華料理は大好きである。尊敬する人物は、白洲次郎、ホーキング博士、コルベ神父。