講演会のご案内

「佐藤公彦先生を囲む会」市民サロン「燕のたより」のご案内

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秋風、渭水に生じ
落葉、長安に満つ
此の地、聚会の夕べ

 唐の詩人、賈島は、このように詠っています。
 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
さて、10月31日、土曜日、長年のご研究を大成された『中国の反外国主義とナショナリズム』の著者、佐藤公彦先生(東京外国語大学名誉教授、社会学博士、中国近代史・近代東アジア国際関係史)お迎えして、次のように「囲む会」を開くことになりました。
先生のご研究とその成果については、「日本経済新聞」2015年6月14日、国分良成先生(防衛大学校長)の書評「近代以降の一貫した行動様式」、及び「産経新聞」6月28日、楊海英(静岡大学教授)の書評「敵であり続ける必然性」などをご参考にしてください。
アヘン戦争後の反キリスト教運動、義和団事変、20世紀の排外運動、そして現代の「反日デモ」に通底する「中華民族」のナショナリズムの構造を解明し、新たな中国近代史像を描き出しました。
なお、劉燕子は「〇八憲章と中国人精神の近代化を目指して」というテーマで、新興『家庭教会』の勃興、それに対する教会の破壊や十字架の撤去について、最近の北京、温州、四川などのフィールド・ワークに基づいてご報告します(参考「現代中国におけるクライシスの深まりとディスクールの動向」『関西学院大学言語教育研究センター年報』所収論文)

【日時とプログラム】
2015年10月31日(土)
第Ⅰ部 14:00〜14:05 挨拶(安保さん)
    14:10〜15:10 佐藤先生、自著を語る
    (休憩)
    15:20〜16:00 フィールド・ワークからの報告(劉燕子)
    16:00〜16:20 コメンテーター(唐辛子・コラムニスト)
      (休憩)
第Ⅱ部 16:30〜17:30 主催者の発題・ディスカッション
    司会:安保智子女史

【参加費】
1,000円 資料代、ワン・ドリンクとお菓子付き

【場所】
fermata(レストラン、貸し切り、素敵な雰囲気)
    阪神本線・野田駅より南西へ徒歩5分
    地下鉄・野田阪神駅、7番出口から徒歩3分
    JR東西線・海老江駅より南西へ徒歩5分
      三菱東京UFJ銀行に面した通りを入り、あさひ薬局の向かい。
    電話 06-6441-6673
    住所 553-0006 大阪市福島区吉野2-10-12 ゴールデンラピス103号

「囲む会」を閉じた後、懇親会を開きます。
参加費:4000円(素敵なイタリア料理、ドリンク自由)

【付記】
 中国とキリスト教という、やや意外な組み合わせですが、しかし、中国においてクリスチャンが増えていて、一説では、2030年には4億人を超えるかもしれないと言われています。ところが、中国政府はカトリック教会に対してバチカンと断絶することを求めているように、キリスト教への取り締まりを強めています。さらに、2014~15年の1年間に、浙江省だけで一千数百の教会が、破壊されたり、十字架を撤去されました。
 それは民主化に関わる潜在力があるからです。劉暁波は中国の未来は民間にありとして、教会のキリスト教的な愛をもって暴力に立ち向かう非暴力の闘いに注目していました。「〇八憲章」の最初の署名者の一割はクリスチャンでした。
 自由な公民精神によるコミュニティ(civil society)の形成、公正な社会秩序を理想とすることでコンセンサスを得ることは、中国の「反外国主義」や「ナショナリズム」を乗り越え、中国人の精神の近代化を進めるということで、民主化の一翼を担うことになるのではないでしょうか。
 みなさまの熱いディスカッションを期待しています。

【市民サロン「燕のたより」について】
 2011年より開催してきました。
 これは何らかの組織ではなく、志を抱き、独立精神を有する人々が自由に語りあう場(フィールド、プラットフォーム)です。
お互いの意見を尊重し、質の高い議論を交わしつつ、現場から発信されている生き生きとした情報を共有し、様々な立場を超えて新たな公共空間の創造(市民的で自己組織的な公共性)を目指します。

【参考】

ローマ法王もたじろぐ?──「反キリスト」中国の教会弾圧

楊海英(「ニューズ・ウィーク」掲載)

 歴史的に考えてみると、現実主義に生きる中国人と宗教との相性は悪い。「文明の発祥地の1つ」を自任する中国であるが、キリスト教と仏教、イスラムといった三大宗教はいずれも中華圏以外に起源がある。三大宗教は中国にとって、どちらも外来の文化・思想だ。そのためか、三大宗教の聖者たちは教団設立の直後から東方の中国を目指して布教に努めてきたが、歴代の王朝に弾圧された歴史が比較的長い。
 今日では世界最多の人口を抱える国家に成長した中国は、いずれの宗教も膨大な信者数を抱えるようになった。キリスト教も例外ではないが、中国共産党政府が建国直後から今日まで苛烈な弾圧政策を維持してきたので、「チャイニーズ・クリスチャン」の存在は国際問題と化している。
 中国のキリスト教徒の総数は1億3000万人に達するとの見方もあるが、政府系の研究機関は3000万人という保守的な数字を公開している。GDP成長率を水増しして「世界第2の経済大国」の座を死守しようと画策し、民族間紛争の犠牲者数や環境破壊の数値を過小に操作するのが得意な政府が言うところの信者数も信用できない。
 ひとまず当局の分類に従うと、3000万人中プロテスタントは約2500万人で、残りはカトリックだという。プロテスタント系の教会は「中国基督教三自愛国運動委員会(三自会)」に組織化されており、カトリック系の教会は「中国天主教愛国会」という社会団体にまとめられている。「三自」とは「自治、自養、自伝」の略で、「反動的な外国勢力から独立して自治し、聖職者を自ら養成し(経済的にも自力で教会を養う)、独自に伝道する」との意だ。
宗派を問わない排外的な組織化はすべて建国直後に周恩来首相の主導で確立した政策。「キリスト教は欧米の帝国主義による中国侵略の先兵にして道具だった」との認識からの断罪だ。建国後、共産中国とバチカンは外交関係が断絶したまま今日に至る。
「新型大国間関係」を米中間で構築しようとしてワシントン入りした中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だが、その存在はローマ法王(教皇)フランシスコの到来ですっかり色あせてしまった。習と法王の出会いを期待した中国のキリスト教徒は見事に裏切られた。法王の出身母体であるイエズス会は明朝の中国で布教し、ヨーロッパの科学技術を伝えた実績も広く知られている。
 法王に選出された直後には中国政府から祝電が届き、法王は昨年の韓国訪問時に中国上空を通過した際は習に挨拶の打電をしていた。相思相愛と思われていたが、訪米時には接近は見られなかった。「中国に行きたい」と、法王はアメリカからの帰途に語ったそうだ。しかし、バチカンと中国が外交関係を結ぶには3つの高いハードルがある。
 まず、「宗教はアヘン」とのイデオロギーを中国共産党が放棄しない点だ。「外国の反中国勢力は宗教を利用して中国を転覆しようとしている」と警戒を緩めない。キリスト教徒が外国に憧れるのを防ごうとして、教会を破壊したり、十字架を引き下ろそうとしたりする暴力事件が中国内で頻発している。
 次に、信仰の自由のない中国で、政府系の「三自会」や「愛国会」を敬遠する信者たちは独自の場所に秘密裏に集まってミサを行う。これを当局は「地下教会」と断定して信者を逮捕、拘束し、両者の対立は先鋭化している。バチカンは司教の任命権を確保しようとしているし、中国共産党は逆に任命権こそが外国の干渉の手口だとみて排除しようとしている。
 第3に、中国はバチカンに台湾との断交を関係正常化の前提条件に掲げているが、バチカンは台湾の「教友たちを捨てる」決断を容易に下せない。大勢のクリスチャンに正しい福音を伝えるのを優先とすべきか、それとも共産党統治下で殉教者が続出するのを黙認するのか。法王は習の動きを見極めながら模索中であろう。

 

中国を突き動かし、国際社会に恐怖をもたらす「中華ナショナリズム」の本質

『中国の反外国主義とナショナリズム-アヘン戦争から朝鮮戦争まで』佐藤公彦著(集広舎 3600円+税)-「産経新聞」掲載

「中国もの」が毎月、書店の棚に溢れるほど出版され、報道されていても、日本人など世界の人々は中国と中国人が理解できない。そのように強烈な違和感を覚える隣国は近代から現在に至るまで、ずっと日本の最大の躓きの石だった、と著者は論破する。
 異文化と出会った時に中国は「外国人嫌い(ゼノフォビア)」と「神秘的な法術(邪教)」で対応してきた。具体的には「反韃子(ダーツ)主義」と「反外国主義」の形式で現れる。韃子とはモンゴルなどユーラシアの遊牧民を指すが、中華周辺の諸民族の総称でもある。一方、「外国」の範疇には主としてキリスト教文化圏の西洋諸国が入るが、倭・日本は「韃子」と「外国」の二重性を持つ。「反韃子」と「反外国」の近代史はアヘン戦争と太平天国の乱、義和団(拳匪)事件など大清帝国の衰退期を経て、中華民国期の「反キリスト教運動」、そして中華人民共和国時代のキリスト教弾圧運動と今日の反日主義へと繋がる。その結果、「反韃子」で成立した中国人(漢民族)による中国人のための中国人の国家は必然的に対内的にはチベット人やモンゴル人などを弾圧の対象とするし、日本などは絶対に「敵」であり続けなければならない。
 躓かされた日本は自省の念も含めて中国をマルクス主義の階級論に即して善意的に解釈しよう、と戦後に努力してきた。しかし、反帝国主義史観では「扶清滅洋」すなわち「清朝を助けて西洋を滅ぼす」目標を唱えた義和団事件の解明には至らない。「人民」が「搾取階級」を打倒して「民主政権」を建立したという革命史観では中華人民共和国の専制的特徴について説明しきれない。社会主義の進歩史観は20世紀の流行だったが、それでも中国を分析する武器にはならなかった。
 リベラル派歴史家は、「中国と中国人を区別しよう」との空論を死守しようと踏ん張る。「中国」という国家は中国人が運営しているからこそ、国際社会の異質な存在だ、と本書の論点は中国流ナショナリズムの本質を解剖している。(楊海英・静岡大学教授)

コラムニスト
劉 燕子
中国湖南省長沙の人。1991年、留学生として来日し、大阪市立大学大学院(教育学専攻)、関西大学大学院(文学専攻)を経て、現在は関西の複数の大学で中国語を教えるかたわら中国語と日本語で執筆活動に取り組む。編著に『天安門事件から「〇八憲章」へ』(藤原書店)、邦訳書に『黄翔の詩と詩想』(思潮社)、『温故一九四二』(中国書店)、『中国低層訪談録:インタビューどん底の世界』(集広舎)、『殺劫:チベットの文化大革命』(集広舎、共訳)、『ケータイ』(桜美林大学北東アジア総合研究所)、『私の西域、君の東トルキスタン』(集広舎、監修・解説)、中国語共訳書に『家永三郎自伝』(香港商務印書館)などあり、中国語著書に『這条河、流過誰的前生与后世?』など多数。
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